平昌五輪での金メダル獲得を祝って4月に行なわれた羽生結弦選手のパレードでは、SNSを中心にひとつのムーブメントが生まれました。ピンボケになったり、障害物に羽生選手が隠れてしまった写真を「#羽生結弦の写真撮るの下手くそ選手権 」のタグをつけて投稿するというものです。笑える失敗写真が多数投稿され、SNSのトレンドにもなりました。羽生選手を撮影し損ねた残念な気持ちを吹き飛ばし、笑える失敗へと昇華する素敵なムーブメントでした。

そんな羽生選手のファンたちは新たな「下手くそ選手権」ムーブメントを生み出しました。今度のテーマはイラスト。「#羽生結弦の絵描くの下手くそ選手権」のタグをつけて、羽生選手のイラストをSNSに投稿するというものです。下手くそを名乗るだけあって、ネット用語で言うところの「画伯(※ものすごく絵が下手な人)」と呼ばれるような下手くそイラストが勢ぞろい。メモ用紙に鉛筆で描いた「イラストデビュー作」といった雰囲気の、たどたどしいイラストたちが盛んに投稿されています。

羽生選手のファンにはイラストを得意とする人も多く、普段は美麗なイラストが数多くSNSにも投稿されています。「画伯」を見かけることはまずありません。しかし、「下手くそ選手権」と銘打ったことで、絵が不得意な人も勇気を出して参加できるようになったのです。本当は描いてみたいという気持ちがありつつも、他人に見せる勇気は持てなかった人たちがこんなにもいたのかと驚かされるほど、たくさんのイラストが投稿され続けています。

「下手くそ選手権」という設定は、敷居が高くなりがちなことのハードルを下げ、初めての人や不慣れな人でもチャレンジしやすくするという素晴らしい効果があります。たとえば学校の授業で活用すれば、消極的な生徒にもチャレンジを促すことができる、一種の「発明」と呼べるものではないでしょうか。下手くそほど価値があり、下手くそこそ讃えられるという逆転の発想。誰にでも「初めて」はあり、最初から上手にできる人などいませんが、そんな人にさえもチャレンジを促してしまうのが「下手くそ選手権」という設定なのではないでしょうか。

下手くそを嘆いたり恥じたりするのではなく、笑いながら新しいことにチャレンジする機会にしてしまう羽生選手のファンたち。もしかしたら次の冬は「#羽生結弦のマネしてスケート滑るの下手くそ選手権」などの設定で、勇気を出して初めてのスケートにチャレンジするような人も出てくるかもしれませんね。

<筆者も勇気を出して参加した「#羽生結弦の絵描くの下手くそ選手権」>


文=フモフモ編集長