「セラノス創業者の起訴で、シリコンヴァレーの「良心を賭けた闘い」が始まった」の写真・リンク付きの記事はこちら

エリザベス・ホームズは2003年、19歳でスタートアップのセラノス(Theranos)を立ち上げた。血液検査に革命を起こすと豪語して、企業価値は一時に90億ドル(約9,904億円)以上と評価された。

だが『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』が15年10月に掲載した記事で「指先からの血液1滴でさまざまな疾病を検査できる」と謳った同社の“嘘”を報道し、内情暴露の口火を切った。そして、ホームズと元社長のラメーシュ・バルワニが18年6月15日(米国時間)に複数の詐欺容疑で起訴され、事態は新たな局面を迎えたのである。ホームズは、起訴と同時にCEOを辞任した。

起訴状は11件の容疑からなる。セラノスは「血液検査で従来の面倒な手順を踏まずに、指先に針をひと刺しするだけで即座に検査の結果が得られる」と謳い、投資家だけでなく医師や患者も欺いたとされている。投資家のひとりは、14年10月31日に行った1回の電子取引で1億ドル(約110億円)近い金額を送金した。

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起訴状には、こう書かれている。「ホームズとバルワニは、広告やマーケティング素材において明示的および暗示的にセラノスが正確、迅速であり、信頼性が高く、安価な血液検査および検査結果を提供できると主張した。同時に、セラノスの技術の限界や問題点から目をそらし、医師や患者を欺く計画を企てた」

司法省の意気込み

セラノスが訴訟を起こされたのは、今回が初めてではない。米証券取引委員会(SEC)は同社に対し、18年3月に民事訴訟を起こしている。だが、ホームズとセラノスはすぐに示談にもち込んだ。ホームズは罰金50万ドル(5,502万円)を支払い、自社の1,890万株を返却した。そして今後10年間にわたり、公開会社の幹部や役職に就くのを禁じられた。

だが今回の起訴は、そう簡単に逃れられないかもしれない。報道によるとホームズとバルワニが有罪判決を受けた場合は最長で20年の懲役となり、罰金が科せられる可能性がある。それは、司法省がこのケースを「シリコンヴァレーの良心を賭けた闘い」と位置づけているからだ。

捜査を指揮するFBIのジョン・F・ベネットは、「シリコンヴァレーにより導かれているこの地区は、現代の技術革新と起業家精神の中心です。これを可能にしているのは、資本投資なのです」と言う。「わたしたちは、ベイエリアのほかの法執行機関と協力し、シリコンヴァレーを動かしているルールに従わない者たちを精力的に捜査し、起訴します」

今回の起訴自体は、敏腕医療記者のジョン・カレイロウによるWSJの一連の記事の要点まとめのようなものだ。彼は過去数年にわたってセラノスの取材を続け、その過程で数多くの不祥事を暴いてきた。

セラノスは、投資家や医学界に向けたピッチで「これまで何日もかかっていた検査結果が、わずか数時間で得られる」と謳っていた。だが、この主張の根拠である独自のデヴァイスは実際のところ、「正確性と信頼性に問題があり、複数の競合デヴァイスよりも処理速度が遅く、ハイスループット、すなわち多数の患者の血液を同時に検査する点においては、従来の大型マシンに及ばない」と判明した。

同社は、これらの欠陥をごまかすために自らが「時代遅れだ」とこき下ろした、まさにその商用デヴァイスを利用し、検査を完遂したのである。

無責任な成長の代償

ホームズがシリコンヴァレーの「Fake it til you make it(実際にできるまでは、できているフリをしろ)」文化の究極の象徴[日本語版記事]と呼ばれるのは無理からぬことだろう。しかし、セラノスの物語がこれほど反響を呼び、ホームズとバルワニがこれほどの重罪に問われているのは、このスキャンダルがよくあるテック業界の栄枯盛衰にはとどまらないからだ。

セラノスが保証したのは、「究極のジューサー」や「人事管理のパラダイムシフト」ではなく、医学的な診断に直接の影響を及ぼすものだった。起訴状は「ホームズとバルワニは検査結果が不正確で信頼性の低いものと知りながら、これを宣伝した」と指摘している。

人命に関わるものは「時間をかけずに前進し、すぐに現状を打破する」ことはできないのだ。そう考えるとセラノスの訴訟は、シリコンヴァレーのスタートアップ精神に復讐するのではなく、それを白日にさらすと見るべきなのだろう。ホームズとバルワニに下されるいかなる罰も、「無責任な成長の代償」という教訓なのだ。

セラノスが6月15日に公開した短いプレスリリースによると、ホームズはいまのところ会長の座にとどまるそうだ。

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