「銭湯」が青森や鹿児島に多い理由
2018年6月18日付の山陽新聞で、岡山県内の銭湯(都道府県ごとに入浴料が決まっている「一般公衆浴場」)数が減少し続け、現在は十数軒になっていると報じられていた。遠くない将来に銭湯ゼロ県になるのではとの懸念も示されている。
確かに東京に住む記者も、銭湯に行くことはまずない。産業分類上は「その他の公衆浴場」となっているスーパー銭湯なども稀に行くかどうか。身近な存在、ではなくなっている気もする。
各地の銭湯事情が気になり、厚生労働省や総務省の統計データをいくつか調べてみると、なかなか興味深い実態が見えてきた。
銭湯が多かったのは東京......ではなく
まずは、厚生労働省の「平成28年度衛生行政報告例」を見てみよう。公衆衛生に関わるさまざまなデータが網羅されており、都道府県別の公衆浴場数も確認することができる。「一般公衆浴場」と「その他の公衆浴場」の両方が公営・私営別に記載されているが、今回は銭湯に限ってみたいので、「一般〜」の数値だけを計算してみた。
最近銭湯行ってます?(画像はイメージ)
その結果、全国の銭湯の数は3900軒と、思っていたよりもかなり少ない。「その他〜」を含めると2万5331軒で、いわゆる「町の銭湯」の少なさが際立つ。言われてみれば東京はさておき、記者の地元広島でも、銭湯なんてほとんど見かけない気がする。では都道府県別ではどうだろうか。
勝手に大都市圏や面積の広い地域が多いのではと思っていたのだが、実はそうでもないのだ。トップは大阪の624軒で、次いで東京の593軒はまあ予想がつくのだが、3位に入るのがなんと青森の311軒。さらに4位は鹿児島294軒、5位に北海道286軒となっている。参考までに、最も少ないのは沖縄の2軒だ。
この数値はあくまで「一般〜」のもので、「その他〜」を含むと人口順に変わるのだが、不思議な現象だ。
ただこれだけでは、単純に各地の軒数の多寡がわかるだけ。本当にその地域に銭湯が多いのかを知るためには、一定の人口に対し銭湯はどれくらいあるのかを調べる必要がある。
そこで、今度は総務省統計局が発表している「統計でみる都道府県のすがた 2018」を見てみよう。統計局が有する各都道府県のデータを元に、さまざまな指標から各地の特徴を捉えた資料集で、眺めているだけで結構楽しめる。
この中から、そのものずばりの指標「公衆浴場数(人口10万人当たり)」を確認すると、圧倒的1位は青森の24.5軒だ。この数値はダントツで、2位の鹿児島でも18.6軒。全国平均は3.2軒で、青森は実に8倍近くに達する。
青森の銭湯数は圧倒的だ
銭湯数は多い大阪が7.4軒、東京も4.6軒と、全国的には高い数値ではあるものの、青森には遠く及ばない。ちなみに、最小値が0.1軒となっているため、最も少ない都道府県は横並びで5県存在する。
青森・鹿児島両県に確認してみると......
それにしても、青森はなぜこれほど銭湯が多いのだろうか。数字を見て悩んでいても解決しないので、Jタウンネット編集部は青森県のさまざまな統計情報を取り扱う、同県企画制作部・統計分析課に取材を行った。
同課は「ピカイチデータ 数字で読む青森県」という冊子を配布しており、この中でも銭湯の多さに触れているのだ。何か背景を把握していないだろうか。
「我々も統計局などの発表しているデータを参照しているだけで、なぜ青森に銭湯が多いのか、検証したことがないのが実情で、正直なところわからないとしかお答えできません」
取材に答えてくれた担当者はこう話す。担当者は青森県公衆浴場業生活衛生同業組合にも確認をしてくれたが、やはり何もわからず。
「多いなという事実は把握しているのですが、なぜ多いのかとなると噂レベルの話ばかりで、確たるものはありません。調査してみてもはっきりとした資料も存在せず、『一説には』とご説明することもできない状況です」
青森市にある酸ヶ湯(すかゆ)温泉は湯治場として知られている(振さん撮影, Wikimedia Commonsより)
では、2位の鹿児島ではどうだろうか。青森には及ばないものの、「公衆浴場数(人口10万人当たり)」全国平均の約6倍はかなりの高値だ。鹿児島県公衆浴場業生活衛生同業組合に取材を行ったところ、担当者は個人的な推測としつつ、次のように話してくれた。
「青森の事情はわかりませんが、鹿児島は湧き出る温泉の温度が50℃前後と、他の温泉地に比べてやや低めです。つまり、そのまま汲み上げるだけで、銭湯の適温とされる41〜42℃のお湯として使いやすい。銭湯をやるためにはお湯が必要になりますが、鹿児島には沸かす手間も冷ます手間もかからないお湯が豊富にある。こうした事情で、銭湯が多くなったのではないでしょうか。今でも9割近くの銭湯が温泉銭湯ですよ」
今では最盛期の半分以下になってしまったとのことだが、近年の減少率は低くなっており、担当者は「最後まで銭湯が残るのは鹿児島だと自負している」と笑いながら答えてくれた。なるほど、一理ありそうな気もする。
こうなると、青森の銭湯事情に通じた読者の方からの情報を、ぜひお寄せいただきたいところだ。