『おっさんずラブ』の製作発表記者会見に出席した、左から林遣都、田中圭、内田理央

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 テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふとその部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを、Jアラートならぬ「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)

オンナアラート #13『おっさんずラブ』

 おっさんたちが繰り広げるBLドラマ『おっさんずラブ』(テレ朝系・毎週土曜夜11時15分)が話題をかっさらってるね。面白すぎて、友人たちに勧めまくっているところなのだが、あえてオンナアラートを鳴らしておこうと思う。

 見逃してしまったうっかりさんに、さらっと概要を。

 主人公の田中圭は、不動産会社の営業マン。上司であり、凄腕部長の吉田鋼太郎と、後輩で同居している(同棲ではなくシェアハウスね)林遣都から、愛の告白をされる。そう、田中は女性にまったくモテず、彼女いない歴5年の自分大好き男子なのだが、急にモテ期がやってきた。しかもすべて男から、というBLドラマなのだ。

 そもそもは2016年の年末に、スペシャルドラマとして放送されたこの作品。林遣都ではなく、落合モトキが演じていたのだけれど、田中圭と吉田鋼太郎は据え置き。まさかの連ドラになって帰ってきたわけだ。テレ朝、やるなぁ。

 制作陣をちらりと見ると、女性プロデューサーが多数。視聴率はとるけれど、何の変哲もない定番モノばかり放送しとるテレ朝に、「他がやらないテーマのドラマを!」と、気骨ある女性たちがいたことを頼もしく思う。

 じゃあ、どこにアラートが鳴るのか。おっさんたちが真剣に恋愛模様を繰り広げるだけなら、鳴りようもないのだが、実はとても重要な役割を果たしている女性がいるのだ。吉田鋼太郎の妻を演じる大塚寧々である。

もしも夫がゲイ(バイセクシャル)だったら

 大塚寧々の役どころとしては、鋼太郎と結婚30年を迎えた妻だ。糟糠の妻かどうかはわからないが、着々と出世をして部長にまで上り詰めた鋼太郎を支え、30年という長い年月を共に過ごしてきたパートナーである。

 ところがある日突然、鋼太郎から離婚を切り出される。土下座までされる。理由を聞きだしたところ、「好きな人ができた」という。そりゃ他に女ができたと思うわな。

 鋼太郎の寝言が「はるたん」(田中の役名は春田創一)だったため、「はるか」と聞き違えた寧々は会社に乗り込んで不倫相手を探す。そこで驚愕の真実を知る。鋼太郎が好きなのは、女ではなく、田中だったのだ。

 おっさんたちのキャッキャしたBL模様にすっかり夢中になっていたのだが、寧々の心模様を考えると非常に複雑である。もし自分の夫が、あるいは長年付き合ってきたパートナーがゲイ(バイセクシャル)だと知ったら? 

 相当モヤモヤするだろう。打ちのめされるかもしれない。女ではなく男に負ける悔しさ。女として積み上げてきたものが一気に崩される絶望感。

 いや、人生を共に歩むパートナーなのに、「なぜそのことを言ってくれなかったのか」と思うかもしれない。自分を傷つけまい、と慮(おもんぱか)ってくれた「優しさ」ととらえられるだろうか。そんな優しいウソに、自分は大人対応できるかどうか。太刀打ちできるだろうか。

 逆に、相手が男のほうがあきらめがつくかもしれない。人生後半戦をありのままの自分で生きたい、と勇気を振り絞ってカミングアウトした夫を、無理やりつなぎとめる手立てはない。それ相応の代償を支払ってもらい、自分も新たな人生を歩き始めるしかない。

 なーんてことをモヤモヤと脳内シミュレーションしたりして、オンナアラートにつながったのだ。

 重要なポイントが、鋼太郎・寧々夫妻に子どもはいない点である。子どもというブレーキはかからない。子どもをブレーキ扱いするのもなんだけど、いないほうがより自分の人生の主語を明確にしやすいのかも。そんなメリットをつらつらと考えてしまった。

人生のパートナーに求めるモノ

 鋼太郎は、職場の部下である田中のことを「可愛すぎる」「存在が罪」と評価している。要は、仕事上で、あるいはビジュアル面での田中に惚れている。10年間秘めてきた思いを考えると、「一時の迷い」と一蹴できない。

 一方、林は短期間とはいえ、田中とともに生活し、イヤなところもつぶさに観察している。「優柔不断」「朝、不機嫌」「服脱ぎっぱなし」「好き嫌い多い」「靴揃えない」「皿洗いしない」「ちょっとそれひとくちちょうだい、という」「改札で引っかかる」「方向音痴」「うつぶせで寝る」。

 後半はよしとして、前半は問題だ。夫婦間でもよくある愚痴ネタでもある。

 一緒に暮らす人間の一挙手一投足に不満がある場合、愛は擦り減っていかないだろうか。それでも面倒見のいい林は、田中に小言をぶつけながらも情がわいていく。

 もちろん、生活を共にしない生き方もある。結婚にこだわらない生き方もある。恋愛感情を抜きにした共同生活という提案は、大人気を博したドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)が可能性を示唆し、「それもアリじゃね?」という立証済みだ。

『おっさんずラブ』は単なるBLラブコメディで終わるものではない。快適で心穏やかな生活、自分にうそをつかない人生を手にするために奮闘する人への応援歌なのだ。

吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/