リターゲティング広告業者たちは、大きな変化の到来に備えようと必至だ。EUにおける一般データ保護規則(GDPR)が5月には施行され、AppleもSafariブラウザにおける広告トラッキング対策を強化しつつある。そのため、リターゲティング広告を利用者たちは必至になって、ユーザーからの同意を得ようとしている。クリテオ(Criteo)やアドロール(AdRoll)はブラウザ内のメッセージを駆使。リターゲティング広告に関するメッセージが表示され、それを閉じるたら同意したものとみなす、という具合だ。リターゲティング広告からオプトアウトするためには文章内の小さなリンクをクリックしなくてはいけない。細かい文章を読まずに、メッセージを閉じてサイトを閲覧すれば、同意したものと見なされるのだ。

アドテク業界の見方

これに関して、本稿の公開までにクリテオとアドロールからはコメントを得られなかった。しかし米DIGIDAYでは、アドテク業界で働く、少なくとも5人の関係者(匿名希望)からブラウザ内メッセージがユーザー同意を取得手段として認められるべきではないという意見をもらっている。GDPRは、明確な承諾がユーザーから得られた場合のみ個人的なデータを使うことを許している。2017年9月、AppleはSafariをアップデートし、Webサイトを訪問したユーザーを24時間以上、サードパーティがトラッキングすることを防止している。アドテクコンサルティング企業のアドプロフス(AdProfs)、ファウンダーであるラットコー・ヴィダコヴィック氏によると、こういった複数の取り組みが行われることでリターゲティング広告の利用が一気に難しくなっているという。Appleによる広告トラッキングがクリテオのビジネスに予想以上の損害を与えていることを発表したあと、クリテオは株価を2017年12月に大きく落としている。

2社の取り組みの実例

下記スクリーンショットにあるように、アドロールは通常ならウィンドウを閉じるためのボタンが配置されるところに「同意して閉じる」というボタンを配置している。逆にオプトアウトするためには細かい文字のなかに埋め込まれているリンクをクリックしなければいけない。

同意して閉じる ✕

あなたの現在のブラウザ設定では、広告を目的とした、複数のサイトを横断するトラッキング(クロスサイトトラッキング)を行うことができません。このページをクリックすることで、アドロールにクロスサイトトラッキングの許可を与えることができ、あなたのためにカスタマイズされた広告をご提供できます。詳細を知りたい、もしくはアドロールによるトラッキングを外したい場合はここをクリックしてください。このメッセージは一度しか表示されません。
クリテオの手段も似ている。彼らのメッセージによると、ユーザーがページ上のリンクをひとつでもクリックすれば広告トラッキングに同意したことになるのだ。オプトアウトのリンクはメッセージの文字のなかに埋め込まれている。
ご利用のブラウザは、クロスサイトトラッキングをサポートしていないため、あなたがショッピングしている企業がクリテオを利用して、それぞれの興味に合わせた広告をご提供できません。クリテオのユーザーフレンドリーなクロスサイトトラッキング技術を使って、優良ブランドからの自分に関係のある広告を閲覧したい場合は、このページ上にあるリンクをどれでも良いのでクリックしてください。クリテオのサービスを停止する、もしくはこれまで集められたデータを削除したい場合はこちらをクリックしてください。このメッセージは一度しか表示されません。しかし設定はいつでも更新することができます。
GDPRの文面によると、ユーザーからの承諾は「自由意志のもと与えられなければいけない」、また承諾は「具体的、かつ十分な情報開示に基いており、明確である」ことが必要とされている。プログラマティック入札企業ビーズワックス(Beeswax)のアリ・パパーロCEOは、クリテオやアドロールによるこういった戦略は規則の水準を満たすはずがないと考えている。彼は二社の手段は「馬鹿げている」と一蹴した。アルティメーター(Altimeter)のアナリストであるスーザン・エットリンガー氏は、こういったやり方は企業にとってもリスキーであると指摘する。というのもGDPRに違反した会社は年間売上の4%もしくは2000万ユーロ(約27億円)の罰則金が課されるからだ。データトラッキングに関してユーザーの承諾を掠め取ろうとするこういったやり方は、「GDPRが施行されれば、広告主にとっては掛け金の高いギャンブルのようになるだろう」と彼女は言う。

広がる大きな影響

リターゲティング広告企業は通常、ユーザーとの直接の関係を持たない。そのためGDPRのユーザー承諾にまつわる規則がきっかけとなって、彼らのビジネスモデルについて多くの人が学ぶ、という効果を持つかもしれない。広告業界のカオスマップにおいてGDPRの影響を受けるのは彼らだけではない。サードパーティからのデータに依存しているベンダーであればどこでも、影響を受ける可能性がある。データ管理プラットフォーム(DMP)がそのうちデータ取得に関して厳しい現実に直面すると予測されるのは、そのためだ。GDPR施行によってリターゲティング広告は根本的な変化を迎えるだろうと語るのは、TVターゲティング広告企業サイマルメディア(Simulmedia)のCEOであるデイヴ・モーガン氏だ。ブラウザが広告トラッキングを取り締まりはじめることで、広告企業へのデータ受け渡しを拒否するユーザーがどんどんと増えると、モーガン氏は考える。そして、アグレッシブなターゲティング広告は施行が難しくなる。「(リターゲティング業者の)こういったアプローチが明確な通知と承諾であると考えられる根拠が分からない。むしろ、こういった行為こそがデジタル広告を停滞させ、広告主とユーザーからの信頼を損なっているのだ」と、彼は言う。Ross Benes(原文 / 訳:塚本 紺)