購入した「高級コート」、店が転居前の住所に誤配送…住民が渡してくれずトラブルに
予約購入した25万円のコートが前の住所に届いてしまい、返してもらえないーー。こんな相談が弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられました。
相談者の女性は、百貨店でコートを予約購入し配送を依頼。翌月に引っ越したため、店に住所変更の旨を伝えました。しかし、コートは前の住所の宅配ボックスに届けられ、さらに新しい入居者の人が荷物を取り出し、返してくれないといいます。
女性は「とても楽しみにしていたコートなので何で返してもらえないんだろうとショック」と落ち込んでいる様子です。これは盗難に当たるのでしょうか。また店側に損害賠償請求をできるのでしょうか。若狹美道弁護士に聞きました。
「まず、このコートの売買契約の履行が完了しているかどうかについて考えてみましょう。このコートは種類・品質・数量で表される『不特定物』と考えられますので、店は、相談者の注文により債権者である相談者の住所地に『目的物』であるコートを届ける必要があります(民法484条、持参債務の原則)。そして、債権者である相談者が店に住所変更の旨を伝えた場合、店側は、変更先の住所に届ける必要があります。
したがって、今回のケースにおいては、店は相談者の新しい住所地に届ける義務を果たしていないことになり、相談者としては、店に対し、新しい住所地へ注文したコートを届けるよう求めることができます。
また、このコートは、前述のとおり、種類・品質・数量で表される『不特定物』と考えられ、目的物が特定した時に所有権が売主から買主に移転します。そのため、納品時の買主による納品検査によって目的物が特定し、納品検査が完了した時点で所有権が買主に移転することになります」
ではこれは盗難にあたるのでしょうか。
「これまでの解説を元に回答しますと、今回のケースが相談者を被害者とする『盗難』となることはありません。相談者に購入したコートの所有権が移転していないからです。しかし、相談者は、売買契約に基づき、店側にコートを新自宅に届けるよう求めることができます。
一方、店側は、相談者の旧宅の入居者に対し、所有権に基づきコートの返還を求めることができ、相談者に対しては、売買契約上のコートを届ける義務を負うことになります。旧宅の入居者が正当な理由なく返還しようとしない場合、店側を被害者とする『盗難』(占有離脱物横領)にあたると考えられますので、店側は、旧宅の入居者に対して刑事告訴するなどの法的手段を取ることも考えられると思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
若狹 美道(わかさ・よしみち)弁護士
離婚・相続・交通事故・不倫慰謝料請求・請負代金請求等の一般民事事件を多く取り扱っております。また、埼玉投資被害対策弁護団の団長を務めており、商品先物取引等の消費者被害事件処理に精力を注いでいます。
事務所名:つきのみや法律事務所
事務所URL:http://tsukinomiya-law.jp/