東和フードサービスが10月、有楽町駅前のイトシア内にオープンした鉄板ステーキ・お好み焼き「こてがえし」の新店舗(編集部撮影)

もんじゃ・お好み焼き業態の経営者がよくこぼしているのが「お好み焼き屋は儲からない」というグチだ。聞いてみると、そう考えるのももっともな理由がある。まず、焼くのに時間がかかるので、客の回転が悪い。庶民の味で安いことが前提なので、高級食材を使うなどの付加価値アップを図りにくい。どうしても粉ものでお腹がいっぱいになるので、アルコールを飲まない、つまり客単価を上げにくい。

しかし、大阪の有名お好み焼きチェーン「千房(ちぼう)」が2015年以来、海外へと展開を拡大していることなどを見ても、「お好み焼き業態は儲からない」というのも、打ち破るべき固定観念のようだ。

「椿屋珈琲店」「ダッキーダック」などを展開する東和フードサービスが2017年10月、千代田区有楽町駅前のショッピング施設イトシア内に鉄板ステーキ・お好み焼き業態「こてがえし」の新店舗をオープンした。実は、この施設内には、同社が展開する椿屋珈琲店、ダッキーダック、イタリアンダイニングDoNAなども入居しており、今回のこてがえし新規出店により、施設内に同社のすべての業態が勢ぞろいしたことになる。

椿屋珈琲店は同社が展開する118店のうち、41店を占める主力の業態だ。大正ロマン調の店内に流れるクラシック音楽、メイドのようなスタッフの制服など、コンセプチュアルなカフェチェーンで、ファンも多い。

方向転換により、客数でなく客単価をアップ

では、お好み焼きについては戦略上どのように位置づけているのだろうか。

「お好み焼きは“生命維持”と“楽しみ”という食の目的のうち、後者の要素が強い業態。ただ、今は外食産業全体が縮んでいて、コンビニ、中食へと移行している。消費を担うのもSNS世代でつかみどころがない。外食全体もお好み焼き業態も今後力強く伸びていくとは言えない」(東和フードサービス会長兼社長の岸野禎則氏)

しかし同社ではある方向転換により、客数ではなく客単価をアップ。縮小傾向に歯止めをかけることに成功している。では、どのような方向転換を行ったのだろうか。

同社では、創作お好み焼き「ぱすたかん」を1983年にスタート。「ぱすた」はスパゲッティのことではなく、イタリア語の本来の意味である、粉を使った料理を指す。一方、こてがえしは2013年に創作やきものや「船橋こてがえし」としてオープン。両店を合わせて東京都内、近郊に17店舗を展開している。コンセプトは、鉄板を囲んでセルフクッキングを楽しめること。しかしこれでは当たり前のお好み焼きであり、世の中の流れには逆らえない。


看板メニューの「ブラックアンガス牛カイノミステーキ」1グラム9円(編集部撮影)

転換を図ったのが、7月の錦糸町店のリニューアルオープン時だ。目玉商品として、量り売りのステーキ「アンガス牛のカイノミステーキ」(1グラム7円)を大々的に打ち出し、さらにランチでステーキが楽しめる「昼からステーキ」もスタートした。

「錦糸町店は同じフロアにステーキ店があるので、あまりアピールできませんでしたが、有楽町店では店頭に大きくステーキの文字を出しています」(岸野氏)

みんなでワイワイ焼いて楽しむ時代ではない

そのほかにも、セルフクッキングではなく、調理して提供するスタイルに変更、アルコールメニューをワインから日本酒、焼酎、サワーと幅広く取りそろえるなど、従来のコンセプトから大きく方向転換した。

「みんなでワイワイ焼いて楽しむという時代ではないんですね。自分で焼くことは楽しみではなく、わずらわしさになった。手間がかかるというだけでなく、人間関係のわずらわしさもある。たとえば職場の人同士で来た場合、どうしても部下が焼くことになってしまうでしょう」(岸野氏)

ただし、江戸をモチーフにしたインテリア、スタッフの制服は従来のコンセプトを踏襲。外国人客にも受けそうだ。

また、従来のお好み焼き業態ではあまり想定されていなかった、1人客も増えているという。まずは運ばれてきた料理を写メしてSNSにアップ、あとは1人黙々と食べる、という具合だ。ちなみに料理の見栄えについては、岸野氏が創業時からこだわってきたポイントだ。「開発チームには、色は5色、高さは8センチメートルといつも言っている」(岸野氏)のだそうだ。確かに、メニューの写真を見ると、お好み焼きが8センチメートルとはいかないまでも分厚く、具材も高く盛り上げられている。今はまさに、SNS映えが繁盛の重要なポイントになっているから、岸野氏は時代を先取りしてきたと言えるだろう。


うず高く野菜が盛られた「プレミアム野菜焼き」。1日分の野菜(350グラム)が摂取できるのが売り。価格は店舗ごとに異なり、有楽町店では1480円(写真:東和フードサービス)

以上のような戦略の相乗効果で、お好み焼き業態に関しては客単価を従来の1500円程度から、3000円程度へと倍増することに成功したという。

「お酒を飲んで、かつ食べる店にシフトしたということです。アルコールも売り上げのうち30%を占めるようになりました。50%以上だと居酒屋だと言われますから、それに近いですね。この錦糸町の成功で『これからは客数ではなく、客単価の時代だ』と確信しました」(岸野氏)


有楽町「こてがえし」の店内。コンセプトは、古き良き昭和の銀座(編集部撮影)

有楽町店のコンセプトは古き良き昭和の銀座。店内には「東京百景」と題し名所が描かれている。繁華な立地ということもあり、客数もある程度見込むことができる。メイン層は40〜50代で、これも客単価の引き上げにつながっている。月の売り上げは1000万円ペースを目指したいという。なお、同社での今期(2017年5月〜2018年4月)の新規出店は2桁台だという。

「飲食業で今いちばん問題なのが、2030年問題。働き手もお客様も70代という時代がきます。だから、立地は重要です。名古屋や大阪にも出店してくれないかという声がありますが、東京圏、かつ駅前を条件にしています」(岸野氏)

社員が一体感をもてるよう工夫

2030年には、65歳以上の高齢者が人口の3分の1を超えると言われる。そうした将来を見据え、さらに同社が重要視しているのが人材だ。現在は売り手市場でアルバイト確保にどこも苦労している。そこで同社ではアルバイトの時給を相場より100〜150円程度高めに設定しているという。また、社員が一体感をもてるよう、つねに工夫しているそうだ。


デコレーションされた男子トイレ。社内イベントの様子が飾られている(編集部撮影)

1つには、同社は社内に開発キッチンがあり、すべての業態におけるレシピ開発から、メニューに使う写真の撮影、宣伝材料制作までを一貫して行っている。店頭に掲げるポスターのレイアウトからキャッチコピーまで、社長である岸野氏自ら指示をするそうだ。これにより、全社が一体となって事業に取り組んでいるという雰囲気がつくられている。

もう1つが、レクリエーション活動だ。旅行やスポーツといった一般的なレクも行っているが、ユニークなのがデコトイレ。社員間で当番を決め、交代制でトイレをデコレーションしているのだという。

「みんなけっこう楽しみながらやっています。飾り付けを見て、『今月のデコレーション当番はあの人か』と思ったりしますし、雰囲気づくりに役立っていると思います」(執行役員管理本部部長の長谷川研二氏)


メニューのキャッチコピーからレイアウトまでチェックするという、会長兼社長の岸野禎則氏(編集部撮影)

飲食業において、スタッフ同士の雰囲気は重要だ。スタッフ確保はもちろん、チームワーク、接客業としてのホスピタリティを左右し、売り上げにも関係する。特に今は、飲食業でも見た目による驚きや、におい、音などによる演出といった、エンターテインメント性が重視されている。

その点では、東和フードサービスは有利な背景をもっていると言えるかもしれない。というのも、パチンコパーラーやカラオケルーム、ゲームセンターなどを展開する東和産業から、飲食部門として1999年に分社したのが東和フードサービスだからだ。2004年にはジャスダック上場も果たしている。アミューズメント部門と同じ社屋に入居しており、レク活動も合同で行っているという。東和フードサービスという企業や、店舗展開の方法に感じられるユニークさの秘密は、案外そこにあるのかもしれない。