補助金不正受給事件は、永田町を揺さぶる事件になる可能性がある(写真:iLand / PIXTA)

東京地検特捜部は12月5日、スーパーコンピュータ(スパコン)開発ベンチャーのPEZY Computing(以下、ペジー社)の齊藤元章社長ら2名を逮捕した。容疑は経済産業省が管轄する国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」から、補助金約4億3100万円を不正に受給したというものだ。

医師でもある齊藤氏が2010年に創設したペジー社は、社員20名の企業ながら世界トップレベルの省エネ性能を誇るスパコンを開発。スパコンの省エネ性能ランキングである「Green500」では、同社が理化学研究所と開発した液浸冷却スーパーコンピュータ「Shoubu」が2015年6月、同年11月、2016年6月と3期連続して1位となり、これに加えて2016年6月には「Satsuki」が2位を獲得するなど大きな話題となっていた。

スパコンの省エネ化について世界をリードしてきたペジー社は新規分野の牽引企業となるべく期待も高く、同社が2010年度から2017年度までNEDOから受けてきた補助金の総額は、35億2379万8000円に上っている(進行中の事業も含む)。

数億円分を「水増し」した可能性

今回問題となったのは、「イノベーション実用化ベンチャー支援事業」(2012年度補正予算100億円)として2013年度(同年4月30日から2014年2月20日まで)に支給された「超広域帯Ultra WIDE-IO3次元積層メモリデバイスの実用化開発」費だ。

同事業は設立10年以内で資本金10億円以下の研究開発型ベンチャー企業を対象に、新規性・革新性の高い実用開発事業について5億円を限度として費用の3分の2以内を補助するとするもので、ペジー社は経費として約7億7300万円を申告し、4億9955万9000円を受給していた。このうち「外注費」として申請された4億3600万円のうち数億円分が「水増し」の可能性があったため、「詐取」とされたのだ。

このように見ると典型的な補助金不正受給問題の構図だが、実はこの事件は特別国会が間もなく閉会しようとする永田町を震撼させている。

理由はペジー社の顧問に元TBSワシントン支局長の山口敬之氏が就任していたからだ。

山口氏は安倍晋三首相や麻生太郎財務相兼副総理と近く、安倍首相に肉薄した『総理』(幻冬舎)の著書がある。TBSを退社した後にペジー社の顧問となり、官邸のすぐそばの「ザ・キャピトルレジデンス東急」に事務所を構えている。山口氏の名刺に刷られた住所は、永田町2-10-3ー●●●●となっており、同レジデンスの部屋番号だ。

スパやプールが完備し、コンシェルジェやハウスキーピング、ルームサービスなど一流ホテル並みのサービスを受けられる同レジデンスの賃料は月額約100万〜約200万円だが、それを負担していたのが逮捕された齊藤氏だった。なお議員秘書を長年務めた後に企業顧問になる秘書はいるが、1社あたりの顧問料は非常勤でせいぜい毎月10万円前後。これを考えても、高級事務所の提供は破格の待遇といえるだろう。

さらに同社が受けていた補助金が経済産業省傘下のNEDOから出ていることも、注目される原因だ。というのも、安倍首相の政務秘書官である今井尚哉氏が同省出身であることなど、官邸は“経産省色が強い”と言われているからだ。

もしこの事件に官邸の影響があるのではないか、と疑われることになると、森友学園問題や加計学園問題に続く「官僚による官邸への忖度」問題として発展していく可能性がある。

実際、その萌芽が見てとれる。野党がこの問題に注目しているのだ。

野党がこの問題に着目

希望の党は6日午前10時から「国対政調合同ヒアリング」を開き、経済産業省、文部科学省と内閣府の担当者を呼んで事情を聞いた。狙いは補助金の不正受給だけではない。官邸と近く、ペジー社の顧問を務める山口氏が補助金の受給に何らかの関与をしていたかどうかを探ることだ。

山口氏が経済産業省を訪れていなかったかどうか、その記録の提出を含め、希望の党側から経産省に出された宿題は多い。また7日午前には立憲民主党も、この件についてヒアリングを行う。

森友学園問題に始まった2017年の政治だが、その影響は年明けまで続きそうだ。