民進党に「期待しない」との反応が多く、国民の関心は既に「野党再編」へ(撮影:尾形文繁)

前原誠司新代表による民進党新体制が本格始動する。9月1日の同党代表選で枝野幸男元官房長官を破った前原氏は、5日の両院議員総会で山尾志桜里幹事長を軸とする新たな執行部人事を正式決定する。枝野氏は代表代行、同氏陣営の選対本部長だった長妻昭・元厚生労働相を選対委員長に起用し、挙党体制も演出する。

党の結束を優先した人事配置だが、当面の難題は衆院トリプル補選(10月22日投開票)での4野党統一候補擁立の可否だ。代表選では共産党との選挙共闘をめぐって党内意見が対立、共闘見直しを主張した前原氏の決断が補選の勝敗に大きな影響を与えるからだ。

安倍晋三首相が年内解散も視野に入れて政局運営を進める構えだけに、補選への対応は前原新体制の指導力がいきなり問われる厳しい課題だ。選挙勝利を狙って前原氏が野党共闘に踏み込めば、党内保守グループからさらに離党者が出る可能性がある。その一方で、持論を貫いて共産党との共闘を否定すれば「補選全敗」の可能性が拡大し、党内共闘推進派の不満が噴出するのは確実。

前原氏にとって代表選と新体制人事は予定調和でなんとか乗り越えることができたが、従来からの路線対立が解消されない限り、「党再生」どころか「野党再編」に向けての党分裂の動きが加速しかねないのが実情だ。

「期待しない」が多数で政党支持も低迷

代表選直後に毎日新聞と共同通信がそれぞれ実施した全国世論調査では前原新代表に「期待しない」との回答は毎日が39%、共同が51.2パーセントで、「期待する」の同31%、同40.3パーセントをかなり上回った。同党の政党支持率も毎日の調査で5%と低迷したままで、党再生を目指す前原氏にとって国民の反応は予想以上の厳しさだ。

これに対し、内閣支持率は毎日が39%、共同が44.5%で1カ月たってもわずかながら上昇するなど、安倍政権は「出直し人事」を支持率回復につなげたが、民進党は代表選効果がほとんどなかったことが浮き彫りになった。

前原氏による新執行部人事の目玉は山尾氏の幹事長抜擢だ。党内では代表選で善戦した枝野氏の幹事長再登板も取り沙汰されていたが、前原氏は自らの党内グループに所属する山尾氏の起用を決断した。民主党時代も含め初の女性幹事長となる山尾氏は衆院当選2回で43歳という若手のホープだ。女性で40代前半の幹事長なら「清新さと党刷新への決意がアピールできる」(党幹部)との前原氏の狙いは明らかだ。

党内でも「次期衆院選など選挙の顔としては期待できる」(若手)と評価する声が出るが、党運営や国会対策、さらには選挙の司令塔という幹事長の重責を果たすには「経験も人脈も不足している」(党長老)ことは否定できず、蓮舫前代表以上に統率力への不安は拭えない。

しかも、山尾氏は昨年、同氏が支部長を務める政党支部の政治資金収支報告書でガソリン代支出での不適切な処理を指摘され「元公設秘書がやったこと」と苦しい言い訳に終始した過去がある。このため永田町や一部メディアでは「ガソリーヌ」という皮肉たっぷりのあだ名で呼ばれることも少なくない。野党第1党の幹事長は国会代表質問や予算委員会で政権追及の先頭に立つのが重要な役割だけに、自らの過去の不祥事を気にして持ち前の舌鋒が鈍るようだと、「幹事長失格」の烙印を押されかねない。

【追記】幹事長人事は党内で再検討が行われており、9月5日時点では流動的です。

前原氏は枝野代表代行、長妻選対委員長の他、リベラルグループの辻元清美・元国土交通副大臣を役員室長として執行部入りさせる。一方、前原陣営の選対本部長を務めた大島敦・元総務副大臣を枝野氏と横並びの代表代行に充てるとともに、政調会長に階猛・元総務政務官、国対委員長に松野頼久・元官房副長官をそれぞれ起用することで挙党体制重視の姿勢もアピールする。

「民共共闘」「小池新党との連携」が火種に

代表選での最大の争点だった次期衆院選での共産党との選挙共闘問題では、まず目前のトリプル補選への対応が焦点となる。これまでの党内調整では「党の主体性を維持したうえでの共産党との連携」といったあいまいな結論が想定されているという。

ただ、共闘維持を求める志位和夫・共産党委員長は前原氏への不信感を隠さず、その一方で民進党の最大の支持団体である連合の神津里季生会長は「目指す国家像が全く違う共産党と選挙で手を組むことはあり得ない」と繰り返している。前原氏ら共闘否定派と枝野氏ら共闘推進派との執行部内での調整も難航する可能性が大きい。

さらに、前原氏がこれまで主張してきた野党再編論も今後の党運営の"火種"になりそうだ。特に国政進出を目指してトリプル補選前の旗揚げも模索する、いわゆる「小池新党」との連携が当面の課題ともなる。民進党代表選直後の2日には、小池百合子東京都知事が側近の若狭勝衆院議員(無所属)と会談し、若狭氏を中心に「小池新党」を立ち上げる方針を確認した。席上、小池氏は「しがらみのない政治であるとか、大改革とか遂げられるような状況を国政でも作っていきたい」と意欲を示す一方で、新党結成については若狭氏に委ねる考えを強調した。

小池新党構想で一躍「時の人」となった若狭氏は、前原氏が新代表就任時の記者会見で小池新党との連携に含みを持たせたことについては、「民進党は今後衰退していく。新党として協力することは考えていない」と記者団に否定的なコメントを出した。

若狭氏はこれまで、民進党を離党した細野豪志元環境相や長島昭久元防衛副大臣らと新党立ち上げで意見調整を続けており、民進党内では枝野氏らが次期衆院選で「対立候補を立てるべきだ」と厳しい対応を主張している。そのため、前原氏も当面、連携に踏み出せる環境ではない。

ただ、代表選では国会議員8人があえて無効票を投じた。共産党との共闘などに不満を持つ「離党予備軍」とされ、「小池新党」結成時には離党して参加するとの見方も少なくない。若狭氏は「10人以上の新党参加者を見込んでいる」と語っており、前原氏にとっても今後の党運営での"頭痛の種"となりそうだ。

試練を克服できなければ「最後の代表」の汚名も

「党再生のラストチャンス」(岡田克也元代表)に代表となった前原氏は就任あいさつで、まず「非常に厳しい船出だ」と自戒の念を語った上で、「この日が政治の変わり目だったと後で言われるように頑張ろう」と再び政権党となることへの決意を強調した。しかし、世論調査の厳しい結果が示すように、国民の信頼を取り戻す道はまったく見えてこない。

その第1ステップともなる次期衆院選で議席獲得を優先して共産党との共闘に踏み込めば、「有権者から『永遠の野党』を選択したみなされ、離党者が相次いで、野党再編どころか社民党と同じ道をたどる」(民進長老)ことになりかねない。しかし、野党共闘を見直して独自路線で選挙に臨めば、小池新党が「政権の受け皿」となる可能性が大きく、選挙後に前原氏の狙う「野党再編の中核」に脱皮するのも至難の業だ。

前原氏は代表選での投票直前の演説の最後に「皆さんと一緒に、政権交代をジツ、ジツゲ…」とロレツが回らず「大事なところでかみました」と苦笑した。「退路を断って党再生に政治生命を賭ける」と繰り返した前原氏だが、野党第1党のリーダーとして相次ぐ試練を克服できなければ「2大政党の一翼」どころか「民進党の最後の代表」という汚名が待っている。