「若手社員のダメ出しも受け入れる」ライフネット生命会長が語る、企業の在り方 /LEADERS online
大手生保を58歳で退職、ネット生保をベンチャーで起業
出口さんは大手生命保険会社「日本生命保険相互会社」に30年勤めた業界のベテラン。京都大学法学部出身で、日生時代には金融制度改革での保険業法改正時のMOF担(大蔵省や日銀などの担当)として活躍し、その後ロンドンの現地法人社長として英国に駐在。帰国後、国際業務部の部長に就任してからは、日本の生命保険会社として初の中国進出などに尽力した。
「中国に日本の保険会社として支店を出そうとしたのですが、免許が下りない。欧米の主要な保険会社がすでに列に並んでいるんですよ。後発だったので3年北京詣でをしましたが認可がおりませんでした。僕の後任の代で出店できましたが、なんでもあきらめずに続けていれば、いつかは成功するものですね」(出口治明会長、以下同)
ところがそのころの日本生命は国内需要が大きく、出口さんがもくろむ海外進出には消極的だった。意見の相違から当時の経営陣と対立したことで、国際業務部の部長職を追われ、冷遇されてしまう。そんなとき友人の紹介で出会ったのが谷家衛さん(現あすかアセットマネジメント会長)。この人に出会ったことから会社を辞め、ベンチャー事業の道へ進む。保険について意見を聞きたいとやってきた谷家さんと「理想の保険会社」について夢を語るうち、出会ったその日に新しい保険会社をつくる約束をしてしまったのだ。
「寿命が85歳くらいだとしたら、50代は人生の真ん中だと思うんですよ。日本の20歳は経済的に自立していない人が多いから、まだ大人とは言えない。ですから20歳で成人というのは、早すぎます。まだ子供です。30年後の50歳がマラソンでいうなら折り返し地点。この年代こそ社会経験も豊富で、経済力もあり、やりたいことができる人生で一番いい時だと思います」
大手の半額で、若い人が買える保険を
こうしてライフネット生命は、保険を知り尽くした出口さんと、投資家の谷家さんの出会いで生まれ、認可が下りるまでの2年間で、会社としての準備をすすめることになった。元の会社から保険業務にたけた部下を連れてくる選択肢もあったが、それでは新会社がミニ日生になってしまって面白くない。出口さんは新保険事業のパートナーに、あえて門外漢の若者を選んだ。
「谷家さんに当時は経営を学ぶ学生だった現社長の岩瀬を紹介してもらって、二人で会社を始めました。保険を作るのは僕ですが、お客様は若い人ですから、若い人と組んだほうがよいと思ったんです。これからはダイバーシティの時代ですから、いろんな人がいたほうがいい会社になりますしね」
創業にあたり出口さんが考えたのは、保険本来の社会的使命だった。今の若い世代は比較的所得が低く、高い保険料を払うのは難しい。そこでインターネットを活用して、人件費や事務所代などの経費を抑え、従来の約半額で補償ができる仕組みを工夫した。スマホでカンタンに保険が買えてペーパーレス、入院したら数日で保険金を受け取れるシステムを提供している。
「缶ビールのビジネスモデルなんですよ。酒屋で買ったら300円くらいのビールが居酒屋だと高いでしょう。ライフネットが保険を安く売れるのは、インターネットで缶ビールを買ってもらうのと同じ仕組みなんです。保険会社の支店は通常全国に1500店舗くらいあるものですから、それでは居酒屋で売るビールのモデルになってしまうわけです」
日本の将来を考えたら、若い世代が安心して暮らせないと、経済的な不安から晩婚、少子化になる。そんな時に安価で入りやすい保険が買えれば、出生率も上がっていくに違いない。ライフネット生命のサイトに掲載されているマニフェストには、新しい保険事業への熱い思いが込められている。
ユニークな社風 若手社員が会長に指示出し!?
若い顧客相手のビジネスだけに、会長である出口さんにも、若手社員から遠慮のない注文が入る。
「大手がやるようなことはするな」
社員にはそう言い続けていた。20代の部下の指示で「大手のトップがやっていない」Twitterも始めた。やり始めたら楽しく、多忙な中でも一日3回書き込みをする。出口さんのTwitterをチェックしたタケは、フォロワーも多いが、フォロー数も多く、コメントには丁寧に返事を書く几帳面さに驚いた。
ライフネット生命には140人の社員に50以上もクラブ活動があるが、中には「子育て部」などもあり、子育て中の社員が中心になって盛り上がっている。若い社員が多いので、社員には年間10人前後の赤ちゃんが生まれる、それだけ子育てしながら働きやすい。そんなユニークさは社員の多様性にとどまらず、会社の採用方法にも表れている。
「面談だけではなかなか人物がわかりませんから、難しいテーマを課して、時間をかけて自宅でゆっくり論文を書いてもらうんですよ。これは大手ではできないベンチャーの強みです。大手にいるような人を採っていたら絶対負けますから、人とは違ったことを考える人をじっくり採用していくのがライフネットのやり方です」
人、本、旅の人生哲学
ベンチャー事業には、常に新しい事業アイデアがないと生き残れない。しかしアイデアは、いろんな人に会ったり、読書や、いろんな場所で体験をすることで刺激を受けることでしか生まれない。それには長時間労働をやめ、休暇もちゃんととって、集中して働くことが大事。社員には十分勉強してほしいので休暇には格別の配慮がある。
「アイデアを出すには、人、本、旅で勉強しないとだめですね。呑むのもいいですね、面白いお店に行くとか、人とあって呑むとか、それも経験ですから。僕は本が大好きで、週に3冊くらい丁寧に読んでいます。オールオアナッシングなんですよ。最初の20ページ読んで面白くなければ、ご縁がなかったなと思ってやめます。読む以上は一生懸命読みます。仕事も同じです。やると決めたらとことん一生懸命やらないと納得できないですから。
読書といえば、ダーウィンは賢いと思いましたね、彼は『賢い人や強い人が生き残るんじゃない、適応や対応がすべて』ということを言っていますが、まさにその通りです。例えばライフネットが開業した時はスマホはまだ普及率が低い端末でした。でも当時『スマホ×保険』でやってみたらどうかとやってみたら、今や主流。世の中はわかりません。変化に対応できるものだけが生き残るんですよ。ダーウィンも世界を旅して仕事をした人ですが、経験から学ぶことは大事です」
50代こそなんでもできる人生の黄金期
「人生がマラソンだとしたら、50代は真ん中ですから折り返し地点です。そうすると、帰り道が大体見えている、世の中が大体見えているわけです。なんでもできますよ。前半ですでにいろいろ経験しているわけですし、人間関係もある程度ある。世界がよく見えているわけですから何をやっても無敵です」
調度その折り返しに立つタケは、感慨深い。出口さん自身は、その当時、会社を辞めてベンチャーを興したが、人生を左右するような大きな決定でも直感に従ったという。
「直感というのは、過去に自分で勉強したことが、脳の中で回って出ている結論です。直感で決めるというのは、自分を信じるってことですよ」
それもこれも、読書や出会い、自分の目で見て歩く旅などで蓄積した知見の集大成なのだろう。最後にタケは、読書好き歴史通の出口さんが、ことのほかモンゴル帝国の皇帝クビライが好きだというので、その魅力はどんなことなのか、聞いてみることにした。
「クビライの時代は十字軍の終わりごろで、イスラム教徒の首を斬ったら為政者に褒められるようなマインドでした。でも、彼は思想とか宗教など目に見えないもので首など切ったらもったいない、話を聞いて、何をやりたいのか、何ができるのか聞いて、適材適所で使ったほうが、世の中がよくなる…という合理的な考えを持っていました。自分の頭で考えることができる人なんですよ。僕は自分の頭で考え、自分の言葉で考えを言うことが一番大事だと思っているので、素晴らしいと思います。それが人と人のコミュニケーションを一番円滑にする。カッコつけてもしょうがないですから」
今年の6月ライフネット生命の会長職を引退するというニュースもあり、これまでずっとベンチャーをけん引してきたパワフルな60代を終え、70代を迎える出口さんの今後が気になるところだ。
「考えても、仕方ない。今晩何を呑むか考えたほうが楽しいですよ(笑)。人生次の瞬間に何がおこるかもわかりませんから、毎日を一所懸命、ご縁を大事に、生きていく延長線上にしかない。会長は引退しますけれど、元気なうちは創業者としてまだまだ働こうと思っています」
インタビューを音声で聞くには podcastで。
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文化放送「The News Masters TOKYO」http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月〜金 AM7:00〜9:00生放送)
こちらから聴けます!→http://radiko.jp/#QRR
パーソナリティ:タケ小山 アシスタント:小尾渚沙(文化放送アナウンサー)
「マスターズインタビュー」コーナー(月〜金 8:40頃〜)
【転載元】
リーダーズオンライン(専門家による経営者のための情報サイト)
https://leaders-online.jp/