純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

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 適齢期は自分で決める、とか、年齢に縛られる必要なんてない、とか。騙されるな! こういうことを言っているのはみんな、商売企業のCMだ。頭の悪い、すでに人生に失敗してしまっている落伍連中を見つけては騙し、永遠の金ヅルとして、その市場賞味期限を延ばし続け、骨の髄まで喰い潰すためのウソ。

 童心を忘れない、とか言って、オモチャを買い集めたり、アイドルを追いかけ回したり、ひがなマンガやゲームに明け暮れたり。かと思えば、中年にもなって、高校生よろしく、ド派手な服を着て、フェロモン満載で、だれだれとくっついた、離れた、結婚だ、不倫だ、と、目も眩む恋愛色情に飛び回ったり。こういう現実年齢を自覚しないバカどもこそ、若者市場縮小の少子化時代にあって、旧態企業の最高のカモ。

 本人に体力や金力があれば、いくつになっても、こんなことは、やればできる。だが、まともな人間は、やれても、やらない。なぜか。すぐ先に、次のライフ・ステージの年齢期限のハードルが控えているのを知っているからだ。むしろそっちを先取りした方が、のちのち有利なのが、わかっているからだ。

 永遠に夏休みなわけじゃない。子供時代の先には、恋愛時代があり、その先には仕事、結婚、育児、家庭、貯蓄、そして老後がある。いつまでも子供みたいなことをやっていたら、次の恋愛ステージの方の時間的余裕が無くなる。へたをすれば、オモチャで買い集め、アイドルを追い回し、作りもののマンガやゲームに呆けている間に、次のリアルな恋愛ステージの方が年齢期限切れになり、そのまま仕事時代に突入。それどころか、ぜんぶスルーしてしまって、気づいたら老後が目前。

 人生は後戻りができない。そのライフ・ステージの間に、そのステージにすべきことをしないといけない。もちろん、うまくいかないこともある。しかし、だからといって、その失敗を取り戻すのは、前と同じやり方では、絶対にうまくいかない。たとえば、二〇前後のうちに良い相手が見つけられなかったから、と言って、三〇前後になって二〇前後と同じようにチャラいままで恋愛をしようとしても、いよいよ相手なんか見つかるわけがない。ほんとうに若い二〇前後のライバルに勝てるわけがない。同様に、二〇代の新卒で就職に失敗したとしても、三〇代の転職で、二〇代の新卒と同じようなスッカスカの履歴書を持ってきたって、話にならない。

 失敗は失敗だ。期限までに、その年代にすべきことをクリアできなかったとすれば、自分勝手ないいわけをしたり、インチキ企業の甘言に騙されたりせず、その現実を正面から見据えて、その年代なりのリカバリの方法を取らないといけない。そこでは、三〇なら三〇なりの大人の魅力、大人の経験こそ、リカバリの鍵。そして、そこでうまくリカバリできれば、次のライフ・ステージでは、他の人と同じスタートラインで勝負できる。

 もちろん、こんなレールに乗らない、私は結婚しない、就職しない、子供なんか作らない、という生き方もある。しかし、それならばいよいよ自分自身で先を見据えて、自分独自の次のライフ・ステージの目標の実現に邁進しないと、とうていさらにその次、その先のステージに間に合わない。

 勢いだけの、安っぽい偉そうな能書きばかり垂れていても、結局、次も、次も、どんどんグズグズになり、ほら、みたことか、と、惨めな中年、老年になるだけ。いい年して独り者でバイクに乗って遊び歩き、事故って半身不随になっても、ただの自業自得の厄介者扱いで、親族たちすら世話や面倒を嫌がるだけ。いつまでもオモチャだ、マンガだ、アイドルだ、と、引きこもりを続けていたら、兄弟姉妹さえ良縁を得られず、ともに不幸に引きずり込むだけ。

 70年代、80年代の高度成長やバブルで調子づいていた連中の末路を見てみろ。貧困独居の淋しい暮らしのやつらだらけ。たとえカネがあっても、ムリはムリ。いまだに水商売のような、時代錯誤な派手な化粧をしたって、老いのシワは隠せない。いくら整形を重ねても、まともに年齢を重ねていないから、いよいよ奇妙なサイボーグ。後からあわてて不妊治療をしたって、それは「治療」にもならない。イヌやネコを飼ってごまかしても、そんなものは、成長して大人になっていく子や孫とは違って、老後の心まで支えてはくれない。

 自分の人生だ。しかし、ちょっとでも傾くと、腐食商売の連中が群がってきて、自分たちの死にエサとして喰い潰そうと、耳元で聞こえのいいことばかりをささやく。だいじょうぶですよ、まだ間に合いますよ。期限は自分で決めればいいんですよ。ゆっくりまったり私たちの高額サービスを使って、前と同じようにずっとやり続ければいいだけですよ。だが、それは、ぜんぶウソだ。部屋を明るくして鏡をよく見ろ。それが現実だ。そして、それがすべてだ。きみは、どんどん老いていく。それは絶対に止められない。

 やり直すヒマがあったら、むしろ次のステージまでに、急いでリカバリする方法を考えるべきだ。そして、リカバリは、ノーマル以上に厳しく、つらいに決まっている。その厳しいことを、きちんと本気で言ってくれるサポートを早く見つけて、早く通常のコースに戻る、もしくは独自のコースを見つけないといけない。夏休みは、もう終わりだ。

by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。近書に『アマテラスの黄金』などがある。)