「週刊GetNavi」Vol.57-4

 

Appleは「現実解」としてARKitをiOS 11に搭載した。では、この先どのように生かそうとしているのだろうか? Appleは先のことを話さない企業なので、ヒントは非常に少ない。だが、これからのハードウエアの進化を考えると、ARでやろうとしていることはある程度予想ができる。

 

新しい技術は常に「ニワトリと卵」の関係にある。技術が未熟で高度なハードウエアを必要とするうちは、どうしても使えるユーザーの数が増えない。AppleはARKitで、卵を産むニワトリの数が増える=利用可能なハードウエアをもっている人が増えるまで待った。だからこれからは、一気にアプリをプロモーションしていくだろう。

 

初期にはショッピングやゲームなどのアプリが有望だ。ニーズがはっきりしており、作りやすいためである。数か月はそういうARアプリが増える。2017年はiPhone10周年で、ハードウエアも大幅に刷新される。どういう内容になるかはこの記事を書いている時点ではわからないが、「iOS 11を搭載して出荷される最初のiPhone」になるから、ARKitを使ったアプリは大きく宣伝されるはずだ。

 

一方、本当に実用的なアプリを作り、長時間使ってもらうには、長く使っても発熱しない、充分に処理余力がある状態を生み出す必要がある。これは、今秋の新iPhoneでも難しいかも知れない。むしろ、ボディサイズが大きく、放熱に有利なiPadの方が向く。そのため、ARを使った大規模なゲームなどは、iPadを中心に展開される可能性も高い。

 

スマホを入れて使うゴーグルはすでに多数あるが、ARKitでの利用を想定したiPhone用のゴーグルを売るメーカーも出てくるだろう。Apple自身がそれを作る可能性はあるが、「スマホを差し込むだけのゴーグル」では実用性に欠ける部分があるので、筆者は懐疑的だ。Appleがやるとすれば、ARKitがあと1、2世代改良され、本格的な距離センサーを搭載し、差別化できる機能を備えてからではないか……と思っている。

 

筆者の予測では、今年から来年にかけて、Appleはデモ的な使い方からARの市場を広げ、アプリが揃ったところで、iPhoneなどの最適化をさらに進めたうえで、本格的に使われるツールへと脱皮させていくだろう。だから、同社のAR戦略は2年・3年のスパンで見る必要がある。

 

長期戦略を持っているのは、マイクロソフトやGoogle、Facebookも同様だ。時間をかけて性能面での問題を解決させつつ、想像力のあるデベロッパーが面白いアプリを開拓しはじめる「本格的創成期」が、今年から来年にかけて起きる変化だと予想している。だから、すぐに実用性を考えるよりも、まずは出てくるアプリを存分に楽しもうではないか。

 

●Vol.58-1は「ゲットナビ」10月号(8月24日発売)に掲載予定です。

 

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