安倍内閣改造後支持率と格闘技視聴率/増沢 隆太
一方かつて日本を席巻した総合格闘技を今一度復権しようと、ほぼ近い時期にフジテレビで放映されたRIZINは、同時刻帯視聴率では全局最低の6.3%だったそうです。絶対的な視聴率としても、時間帯での順位としても厳しい結果です。もちろん現在ブームとはいえない中で、何とか注目を集めようと躍起な立場ゆえ、こちらの方がハンデがあるのも事実。ただ、全く別の存在である内閣支持率と番組視聴率ですが、それぞれが発しているメッセージに、コミュニケーション戦略の違いがあります。
組閣前に噂された、政権浮揚策は人気者の起用でした。橋下元市長、小泉孝太郎衆院議員、三原じゅん子参院議員などの有名人が入閣候補であるという報道はけっこう見られましたが、結果としていずれも実現せず、人気者のような大臣枠は無いようです。反主流派の野田聖子氏が要職に就いたことは注目されますが、元々大物政治家であって、人気取り枠とはいえないでしょう。
もし人気頼みで有名人を登用していたら、目論み通り人気は得られたでしょうか?逆に批判の声が上がり、ここまで高支持率出たかどうかは不明です。少なくとも「人気頼みではない」というメッセージ発信は成功だと感じます。あくまでスキャンダルなどが出てこない限り、ですが。
野田氏始め反主流派をも取り込み、派閥による入閣待望組の順送りのようなイメージが薄れ、挙党体制の具現化ができました。面白みのない顔ぶれという批判リスクを冒しても、政務に取り組む姿勢での誠実さをアピールできたことが成功といえる理由です。現在の安倍内閣が攻めではなく、人気急落という守りの戦略が必要な環境にいると考えるなら的を得ています。
・格闘技の煽り映像
有名タレント・野沢直子さんの娘、真珠・オークライヤー選手のテレビデビューとなった総合格闘技番組RIZINは、話題性からもオークライヤー選手を大きくフィーチャーしました。いつごろからか格闘技番組は、本試合より事前の煽りV等とも呼ばれるプロフィールやエピソード解説の映像が大きく重要視され、試合時間より煽り映像の方が長いような逆転まで起こりました。
しかし格闘技の核心は当然試合そのもの。煽り映像ではありません。いくら話題性のためとはいえ、選手より有名人である家族の方が大きく取り上げられたり、選手以上に目立ってしまっては格闘技のおもしろさの邪魔になるはずです。また人気や知名度のある選手を目立たせるためでは?と疑われるカードも、観客が疑問を感じてしまうようでは主客転倒です。
総合格闘技はスポーツであり武道である一方、エンターテインメントとして消費されるのも事実。エンタメとしての評価は試合内容だけでなく、盛り上がりも大きく影響します。かつての超人気格闘技番組・PRIDEの全盛期のような、スーパースターの激突!のわくわく感は感じることがありませんでした。
演出に力を入れても、それが結果として裏番組と比べ視聴率を得られなかったということは、アピールしなかったという意味と解釈すれば、エンタメとして成功とはいいがたい結果といえるでしょう。
・コミュニケーション戦略の限界
地味な布陣で返って支持を得られた安倍新内閣と、派手な演出をしたにもかかわらず、それがアピールしなかったRIZIN。コミュニケーション戦略の成否が出たといえます。
それは説得力の違いです。残念ながらフジテレビの演出方法は、かつてのPRIDE全盛期の呪縛から進化したとは感じません。有名人動員や煽り映像でいくらアピールしたところで、視聴者や観客は本質以外の部分で判断をしませんでした。今の客を甘く見てしまったのかも知れません。
「○○さえやっておけば良い」という思考、というか思考停止はコミュニケーション戦略の反対です。新内閣で一定の支持率高上が見られたのは、「人気者を大臣にすれば良い」とい安易な判断をしなかった結果と考えられます。視聴者や選挙民がどこまで本質を評価するかについてはプロでも正確な答えは得られないでしょう。しかし「仕事人内閣」と自称するだけでなく、それを説得する人選をしたことは、コミュニケーション戦略に合致し、少なくとも今時点の結果となったといえるでしょう。