今夜最終回「小さな巨人」腐った組織を守る男VS腐った組織の中で正義を貫く男、とってもハイテンション

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すっかりお馴染みとなった日曜9時の男たちの怒鳴り合い、ドラマ『小さな巨人』もいよいよ本日が最終回。第9話もいきなりすごいぞ。捜査一課長、小野田義信(香川照之)がいきなり吠える!

「お前が所轄に連行した結果がこれだ! 二度と私の前に顔を見せるな!」

どうしたらこんな風に大声が出せるのかという声の張り具合。見事と言うほかない。さらにグーッとトラックアップ! そして顔のどアップでシャウト!

「所轄を見張れ! 香坂も見張れ!」

ああ、今週もテンションの高い怒鳴り合いが聞けるんだな、と思うと嬉しくなる。ちなみに第9話の視聴率はシリーズ最高の13.7%(第1話と同じ)。最終回で15%超えなるか? 


大声には大声で返すのが『小さな巨人』の流儀


国との土地の不正取引、警察との癒着、潜入捜査員の不可解な死など、悪の巣窟とも言える学校法人「早明学園」。鍵を握っているのは、失踪した学園の経理課長・横沢裕一(井上芳雄)が持っている裏帳簿だ。

第8話では香坂真一郎(長谷川博己)の豊洲署が横沢の身柄を確保したが、ラストで香坂の部下・山田春彦(岡田将生)が横沢を逃してしまった。「敵は味方のふりをする。すべては味方だと思っていた、あの男の仕業だったのか……」と思わせぶりに終わったが、第9話の冒頭では山田がいきなり横沢を連れて香坂の家に現れた。前回の引きは何だったんだよ! やっぱり味方じゃん! 

裏帳簿には、元捜査一課長で現在は早明学園の専務の座に収まっている富永(梅沢富美男)と山田の父で内閣官房副長官の山田勲(高橋英樹)の名前が記されていた。富永と勲は早明学園から賄賂を受け取っていたのだ。そして、裏帳簿の1ページ目には不自然に破られた跡が残っていた。この破られた部分にすべての秘密が隠されていると香坂たちは確信する。なんで? と思ってしまうが、まぁ、そういうことにしておこう。前回までは横沢が鍵を握っていたが、これからはこの裏帳簿の切れ端が鍵を握ることになる。

山田は父親のことを許せなかった。かつて父の秘書が謎の自殺を遂げたとき、刑事局長だった父・勲はこう言っていたのを聞いたのだ。

「死んだ人間はどうでもいい。生きている組織のほうが大事だ。すべて隠蔽しなさい」

父への怒りに燃える山田は、父の悪事を暴くためにノンキャリアの警察官になり、捜査一課長を目指していたのだ。秘書の死は、父と早明学園との癒着にもかかわっていると推測した山田は、父に直接対決を挑む。

「死んだ人間はどうでもいいと言ったんだァ! それまで、あなたを必死で支えてくれた部下の命より、自分の利益を取ったんです。犯罪者は……あなたのほうだ!」

岡田将生熱演! しかし、そこへ登場する小野田捜査一課長! 小野田は早明学園から勲が受け取ったお金は政治献金であり、学園に対して便宜を図ったという事実がなければ罪にはならないと告げる。献金と便宜の関連が立証できなければ罪にならないというのだ。さらに、便宜を図ったとしても、それはむしろ国のためにいいことをしているのだと説く。

「お前のその青臭い自己満足のための正義と、副長官が行ってこられたことと、どっちが国のためになっているんだ!」

大声には大声で返すのが『小さな巨人』の流儀! かくして山田は小野田に連行されて拘束されてしまった。「父さん!」という叫び声が哀しい。

ちなみに現実世界での官房副長官(の一人)は萩生田光一氏。萩生田氏は落選期間中に千葉科学大学で客員教授を務めていたが、同大学は現在話題になっている加計学園グループの一つ。萩生田氏には加計学園に便宜を図るよう文科省に指示を与えたとも言われている(本人は否定)。また、小野田が言っていた疑惑を立証する証拠がないから問題にはならないという考え方は国会などでよく披露されているし、「国のため」すなわち「国益」云々という考え方は今でもネットなど

長谷川VS香川、怒涛の演技合戦!


山田が捕まり、窮地に立たされる香坂。ここで香坂が頼るのが、かつて芝署でコンビを組んでいた渡部(安田顕)だ。捜査一課に配属された渡部だが、香坂の頼みは断れない。香坂のビシッとしたお辞儀はいつもシャープだ。雑誌のインタビューで安田顕は「渡部は香坂の綺麗なお辞儀に弱い」と明かしている。

三島祐里(芳根京子)をはじめとする所轄の刑事たち、そして企業犯罪や贈収賄を捜査する捜査二課の協力で、早明学園の金崎理事長(和田アキ子)を連行することに成功する香坂。

しかし、小野田は一枚上手だった。渡部をマークして横沢の身柄も裏帳簿も押さえてしまう。そして第9話のクライマックス、香坂と小野田の1対1のバトル! なんと、これを最後のCM明けからラストまでの8分間にわたって繰り広げてみせた。もちろん最後は怒鳴り合いだ。実力派・長谷川博己と怪物・香川照之の2人だからこそなせる業であり、スタッフの2人への信頼もよくわかる。
最初、バトルを優勢に進めていたのは香坂だ。裏帳簿をもとに、小野田と富永が金崎から賄賂を受け取っていたことを指摘して「腐った絆だ!」と糾弾する。

「何が絆だ! そんなもの金で汚れた関係にすぎない! 警察官として、国民の安全を守るべき立場にいるあなたは、本来の任務から目をそらし、己を守ることに執着し、あげくに父を破滅に追いやった。あなたこそが裏切り者だ! 私はあなたのような人間を、捜査一課長などとは絶対に認めない!」

しかし、小野田も負けてはいない。滑舌よく真正面から追い込んでいく長谷川だが、香川はテンションマックスの演技で応えていく。

「(いかにも憤懣やるかたないといった感じで)お前はこの私を裏切り者呼ばわりするわけか? その破れた切れっ端に載っているのも、(小刻みに顔を縦揺れさせながら)本当に私の名前だと言うのか? (突然叫ぶ)ああ! なら(太ももをペシッと叩く)教えてやろう!」

捜査一課長の席の奥には金庫がある。この中に裏帳簿の切れっ端も収められているというのだ。

「この中には警察組織が抱える闇のすべてがある。歴代捜査一課長たちが決死の覚悟で背負ってきた重い十字架が吊るされている。お前は今、私を捜査一課長などと認めないと言ったな? だったら、お前はその十字架を背負う覚悟があるのか!? 覚悟があるなら言ってみろ!(机をドン!)。この警視庁捜査第一課長(どんどんアップになる)、小野田義信の目を見て言ってみろ!」

香川の演技は、重いことを言っているのに時折子どもの口喧嘩のような調子を挟む(ここだと「だったら」のあたり)ので、余計にインパクトがある。ただ重々しく言っても面白くない。「目を見て言ってみろ」でVサインをしていたのは、「2つの目」という意味だったのだろうか?

そして小野田が取り出した裏帳簿の切れっ端に載っていたのは……小野田の名前ではなく、香坂の父の名前だった! 警察の正義を裏切っていたのは、香坂の父だったのだ! 主張と心の拠りどころを一気になくし、絵に描いたようにガタガタと震える香坂! そこへ「本当の裏切り者はお前の父親だ」とめちゃくちゃ顔を近づけて宣告する小野田。香坂はもはや、駄々っ子のように「違う!」と繰り返すしかなかった……。


いよいよ今夜は最終回。腐った組織を守る男・小野田とVS腐った組織の中で正義を貫く男・香坂の最終決戦だ! どうなっちゃうのかわからないが、刮目して待とう! あ、柳沢監察官(手塚とおる)はほとんど出てきませんでした! 予告の最後で柳沢監察官が叫んでいたセリフ、9話にはありませんでしたね……。

(大山くまお イラスト/Morimori no moRi