「天体望遠鏡で“宇宙の彼方”をひたすらスキャン:ビッグデータ解析で、ダークエネルギーの謎に近づけるか」の写真・リンク付きの記事はこちら

テキサス州西部、ロッキー山脈に立つマクドナルド天文台。そのドームの下には、最近パワーアップされたホビー・エバリー望遠鏡が収められている。

この天体望遠鏡の改装工事が、2017年4月8日に完了した。総工費は4,000万ドル(約45億円)である。これによって研究者たちは望遠鏡の「目」を拡大し、ダークエネルギーの証拠をみつけるべく、より広範な空を捉えられるようにしたのだ。しかし、彼らの仕事はここからである。

関連記事:「暗黒物質」は存在しない? 大胆な仮説を提唱した物理学者の長き闘い

彼らが行おうとしているダークエネルギーに関する研究は「HETDEX」と呼ばれ、従来の実験とは異なった方法で行われる。観測者があらかじめ決められた対象に望遠鏡を向ける古典的な研究モデルと違い、HETDEXには特定の対象がない。望遠鏡が空をそのままスキャンし、何ペタバイトものデータをつくり出すのだ。こうした研究方法は、現代の超強力なコンピューターによって大量のデータを分析・保存・送信できるようになったからこそ可能になったものである。

いわゆる「ブラインド調査」と呼ばれるこうした研究によって、天文学者はいままで存在さえ知らなかったものを発見できるようになると期待されている。そして、この方法のいちばん素晴らしい部分は、最高の発見が何なのかが、はじめはまったくわからない点にある。

「得体の知れない何か」は見つかるか

HETDEXのチームはダークエネルギーの謎に迫るために、地球から90〜110億光年先で遠ざかりつつある100万もの銀河を調べる必要があった。そこで、6角形の分割鏡91枚がモザイク状になった主鏡を、さらに100枚増やした。さらに、「VIRUS」(Visible Integral-field Replicable Unit Spectrograph)と呼ばれる装置を取り付けた。この装置は35,000本もの光ファイバーによって、望遠鏡が取り込んだ光を波長ごとに切り分ける分光センサーに送り込むものだ。そこから得られたデータにより、銀河までの距離と、銀河が地球から遠ざかっていくスピードを割り出せる。

これらの大量のデータによって、ダークエネルギーの兆候以上の予期せぬ何かを発見することもありえる。超大質量ブラックホールや星の形成、ダークマター(暗黒物質)などを見つけることも考えられるのだ。

とはいえ、古典的な手法にも変わらず利点はある。「そうした(古典的な)研究でわかるのは、最初から見えているものについての情報です。そして、そのような特定の対象についての科学は現在、行き詰まっています」と、天文学者のダグラス・ハッジンズは言う。

HETDEXチームは、テキサス先端コンピュータセンター(TACC)と密接に連係している。望遠鏡から得られたデータをテキサスのコンピューターセンターへと直送し、ほぼリアルタイムで自動処理したいと考えているのだ。天文学者のゲープハルトは、「毎日コンピューターのコードを書いてばかりいますよ」と話す。

ゲープハルトいわく、一連の開発パイプラインは、全面的な調査が開始される8月か9月に完成するという。そして彼は、それによって怪しく風変わりなものや、得体の知れないものが見つかることを期待している。「どうすれば見つかるのかはわかりません。何を探せばいいのかわからないのですから」と彼は言う。

しかし、HETDEXは特定の何かを探しているわけではないので、どうやって見つけるのかを知る必要はない。これこそが、明確な対象をもたない研究に科学者たちが期待する理由だ。「たとえばいまこの場で、調査によってわかるであろうことを5つ挙げることもできます。しかしブラインド調査によってわかるいちばん面白い発見は、わたしが思いつきもしなかったものになるでしょう」とハッジンズは語った。

RELATED

ボーイング747を改造してつくった、NASAの「空飛ぶ天文台」は雲の上から宇宙を観測する(動画あり)