プレゼンで自分の企画が通るようになる!中国古典最強の「人心操縦術」
■伝説の中国古典『鬼谷子』をラノベで読み解く!
面白い企画のはずなのに企画会議に通らない。魅力ある商品なのに営業で結果が出せない……。
そんな思いを抱えて、スタイリッシュなプレゼンの手法やセールストークの磨き方を学ぶ人は多いだろう。
しかし、言葉で人を動かすには、表面的なテクニックだけでは足りない。
必要なのは、いかに人の心を動かす状況をつくり、自分に有利な状況を整えるか、だ。
そんな状況をつくり、自分の企画や提案を通す「人心操縦術」がある。
伝説の中国古典「鬼谷子」の教えだ。
二千年以上前の中国。苛烈な戦国時代において、「鬼谷子」の教えを学んだ遊説家たちは、権力者の心をつかみ、動かし、自分の策を採用させて軍師や参謀として確固たる地位を築いた。
そんな「鬼谷子」の教えをビジネス小説の形で学べるのが『今日からヒラ社員のオレが会社を動かします。』(高橋健太郎著、草思社刊)だ。
じつは本書には、『鬼谷子 100%安全圏から、自分より強い者を言葉で動かす技術』(草思社)という同著者による前著がある。こちらを理論編と位置づけるなら、本書は実践編とも言うべき一冊だ。
物語の主人公は、大手出版社に吸収合併された弱小出版社出身の編集者。
合併によって以前のような書籍企画が通らなくなったことに悩む主人公が、謎の老人から「鬼谷子」の教えを学び、言葉で人を動かし、自分の企画が通るように奮闘する、というストーリーである。
ライトノベル調で書かれているのでとても読みやすく、難解なイメージのある中国古典の教えをどのように実践すればいいのかが具体的にわかるのが特徴だ。
■人を動かすための基本「量権」と「揣情(しじょう)
「鬼谷子」の根底には、中国の「陰陽」の考え方がある。
人を動かすときには、つねに自分を「陰」に置き、自分の成そうとしていることを周囲に悟られないようにするのが「鬼谷子」の教えの基本だ。
簡単に言えば、自分の手の内は極力見せず、こっそりと自分が有利になるような状況を整えていく。もし、自分を「陽」に置くと――つまり、おおっぴらに事を運ぶと――人に妬まれたり、邪魔をしようしたりする人が出てくる。それを避けるために、自分を「陰」に置くのだ。
そして、人を動かすために大切なのが「量権」と「揣情(しじょう)」である。
「量権」とは、周りの情勢を知って、周囲の状況を明らか(陽)にすること。「揣情(しじょう)」とは、動かす相手やその周辺がどんな性格か。なにを好み、なにを狙っているか、その内心を探って明らかに(陽)にすること。つまり、「情報収集」だ。
自分の企画や提案を通すためには、誰が自分の味方で、誰が敵になるかを見極めることは重要である。
味方がいれば、自分の企画や提案を支援してもらえる。敵になりそうな人がわかれば、自分の企画や提案に反対してくることを事前に無効化することができる。たとえば、自分の立場では敵対する人の意見を変えることは難しくても、その上司を動かせられれば、そのお墨付きで反対意見を封じることもできるわけだ。
生々しい戦術ではあるが、その徹底した方法論が「鬼谷子」の真骨頂であり、実践的である所以なのである。
■会話は「反覆」せよ!
では、どうすれば「量権」と「揣情(しじょう)」を明らかにすることができるか?
「鬼谷子」の原理で重要なのが「反覆」という考え方だ。
これは現代語としての「反覆(くつがえすこと、ひっくりかえすこと)」とは少々意味が異なる。
「何事もこちらからの働きかけ(反)とフィードバック(覆)の中で明らかになっていく」という意味だ。
会話の中で、こちらから「反」の言葉を投げかければ、相手からは「覆」としてそれに応じた言葉が返ってくる。そのくり返しの中で、相手の目的や狙い、基本的なスタンスを探る。「鬼谷子」ではこれを「象比の術」という。
「象比の術」には3つのポイントがある。
1.相手の言葉に同調して、目的や狙いがうかがえるような言葉を引き出す。
2.上手く引き出せないときは、相手が話しやすくなるような言葉を「反」として投げかける。
3.目的や狙いがうかがえる言葉を引き出したら、それをやりとりの中で深めていく。
たとえば、自分の味方か敵かを明らかにしたい(揣情)ときは次のようなやりとりをすれば、相手の真意を探っていけるだろう。
自分:「ウチの会社って、やっぱり無難な企画しか通らないのかな?」
相手:「うーん、そういうところはあるよね」
自分:「ありますか」(同調)
相手:「あると思うなあ、僕は」
自分:「あるんですねえ。やっぱり無難が一番なんですかね」(同調&反)
相手:「それだけっていうのも、どうかと思うけどね」
同調と反をやりとりの中に忍ばせれば、相手は自分の中に持っていた(陰におさめていた)目的や狙い、基本的なスタンスを明らか(陽)にし始める。
この会話であれば「それだけっていうのも、どうかと思う」という言葉からは、さらに秘められた「陰」があることがうかがえる。それを「反覆」によってさらに掘り下げていくのだ。
そうやって個々の相手を探り、情勢を知っていけば、誰を動かしていくのがベストなのかが見えてくる。
ここで紹介したのは、あくまで「鬼谷子」の初歩の初歩にすぎない。
本書では、より強力な会話法「飛箝(ひかん)の術」や、相手を動かす「揣摩の術」など、さまざまな技術が解説されている。
「論語」「孫子」「韓非子」「老荘思想」など、現代でもその価値が見いだされ、ビジネスに応用されている中国古典は数多い。「鬼谷子」もその一角を担うにふさわしい古典だ。
本書で、ぜひその奥深さを体感してほしい。
(ライター:大村佑介)
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そんな思いを抱えて、スタイリッシュなプレゼンの手法やセールストークの磨き方を学ぶ人は多いだろう。
しかし、言葉で人を動かすには、表面的なテクニックだけでは足りない。
必要なのは、いかに人の心を動かす状況をつくり、自分に有利な状況を整えるか、だ。
そんな状況をつくり、自分の企画や提案を通す「人心操縦術」がある。
二千年以上前の中国。苛烈な戦国時代において、「鬼谷子」の教えを学んだ遊説家たちは、権力者の心をつかみ、動かし、自分の策を採用させて軍師や参謀として確固たる地位を築いた。
そんな「鬼谷子」の教えをビジネス小説の形で学べるのが『今日からヒラ社員のオレが会社を動かします。』(高橋健太郎著、草思社刊)だ。
じつは本書には、『鬼谷子 100%安全圏から、自分より強い者を言葉で動かす技術』(草思社)という同著者による前著がある。こちらを理論編と位置づけるなら、本書は実践編とも言うべき一冊だ。
物語の主人公は、大手出版社に吸収合併された弱小出版社出身の編集者。
合併によって以前のような書籍企画が通らなくなったことに悩む主人公が、謎の老人から「鬼谷子」の教えを学び、言葉で人を動かし、自分の企画が通るように奮闘する、というストーリーである。
ライトノベル調で書かれているのでとても読みやすく、難解なイメージのある中国古典の教えをどのように実践すればいいのかが具体的にわかるのが特徴だ。
■人を動かすための基本「量権」と「揣情(しじょう)
「鬼谷子」の根底には、中国の「陰陽」の考え方がある。
人を動かすときには、つねに自分を「陰」に置き、自分の成そうとしていることを周囲に悟られないようにするのが「鬼谷子」の教えの基本だ。
簡単に言えば、自分の手の内は極力見せず、こっそりと自分が有利になるような状況を整えていく。もし、自分を「陽」に置くと――つまり、おおっぴらに事を運ぶと――人に妬まれたり、邪魔をしようしたりする人が出てくる。それを避けるために、自分を「陰」に置くのだ。
そして、人を動かすために大切なのが「量権」と「揣情(しじょう)」である。
「量権」とは、周りの情勢を知って、周囲の状況を明らか(陽)にすること。「揣情(しじょう)」とは、動かす相手やその周辺がどんな性格か。なにを好み、なにを狙っているか、その内心を探って明らかに(陽)にすること。つまり、「情報収集」だ。
自分の企画や提案を通すためには、誰が自分の味方で、誰が敵になるかを見極めることは重要である。
味方がいれば、自分の企画や提案を支援してもらえる。敵になりそうな人がわかれば、自分の企画や提案に反対してくることを事前に無効化することができる。たとえば、自分の立場では敵対する人の意見を変えることは難しくても、その上司を動かせられれば、そのお墨付きで反対意見を封じることもできるわけだ。
生々しい戦術ではあるが、その徹底した方法論が「鬼谷子」の真骨頂であり、実践的である所以なのである。
■会話は「反覆」せよ!
では、どうすれば「量権」と「揣情(しじょう)」を明らかにすることができるか?
「鬼谷子」の原理で重要なのが「反覆」という考え方だ。
これは現代語としての「反覆(くつがえすこと、ひっくりかえすこと)」とは少々意味が異なる。
「何事もこちらからの働きかけ(反)とフィードバック(覆)の中で明らかになっていく」という意味だ。
会話の中で、こちらから「反」の言葉を投げかければ、相手からは「覆」としてそれに応じた言葉が返ってくる。そのくり返しの中で、相手の目的や狙い、基本的なスタンスを探る。「鬼谷子」ではこれを「象比の術」という。
「象比の術」には3つのポイントがある。
1.相手の言葉に同調して、目的や狙いがうかがえるような言葉を引き出す。
2.上手く引き出せないときは、相手が話しやすくなるような言葉を「反」として投げかける。
3.目的や狙いがうかがえる言葉を引き出したら、それをやりとりの中で深めていく。
たとえば、自分の味方か敵かを明らかにしたい(揣情)ときは次のようなやりとりをすれば、相手の真意を探っていけるだろう。
自分:「ウチの会社って、やっぱり無難な企画しか通らないのかな?」
相手:「うーん、そういうところはあるよね」
自分:「ありますか」(同調)
相手:「あると思うなあ、僕は」
自分:「あるんですねえ。やっぱり無難が一番なんですかね」(同調&反)
相手:「それだけっていうのも、どうかと思うけどね」
同調と反をやりとりの中に忍ばせれば、相手は自分の中に持っていた(陰におさめていた)目的や狙い、基本的なスタンスを明らか(陽)にし始める。
この会話であれば「それだけっていうのも、どうかと思う」という言葉からは、さらに秘められた「陰」があることがうかがえる。それを「反覆」によってさらに掘り下げていくのだ。
そうやって個々の相手を探り、情勢を知っていけば、誰を動かしていくのがベストなのかが見えてくる。
ここで紹介したのは、あくまで「鬼谷子」の初歩の初歩にすぎない。
本書では、より強力な会話法「飛箝(ひかん)の術」や、相手を動かす「揣摩の術」など、さまざまな技術が解説されている。
「論語」「孫子」「韓非子」「老荘思想」など、現代でもその価値が見いだされ、ビジネスに応用されている中国古典は数多い。「鬼谷子」もその一角を担うにふさわしい古典だ。
本書で、ぜひその奥深さを体感してほしい。
(ライター:大村佑介)
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