ラブホ覗きを30年続けた男が見た「幸福なセックス」と「不幸なセックス」

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不謹慎な話から始めてみよう。

もし、絶世の美女か、あるいは自分好みの女性がパートナーとセックスをする現場を、リスクを取ることなく(つまりバレる心配のない状況で)覗くことができるとしたら、あなたは覗くだろうか?

「覗く!」と断言するのははばかられるにしても、2つの意味で悩ましい問いには違いない。

つまり、美女がいたす現場を見られるという、あくまで「ポルノ」としての興味を禁じ得ないということ。そして、ポルノではない「他人の素のセックス」を見る体験は、私たちにとって限りなく希少だということである。



■コロラドの覗き魔から届いた一通の手紙

隣人宅の寝室というのは決して明らかにならない謎だ。
『覗くモーテル 観察日誌』(ゲイ・タリーズ著、白石朗訳、文藝春秋刊)はこの謎を明らかにしたい欲望に抗えなかった男の30年にわたる記録である。

アメリカのジャーナリスト、ゲイ・タリーズのもとに一通の匿名の手紙が届いたのは1980年の年明けだった。
その手紙には、

・差出人が、自分の経営するモーテルの寝室で、その時点で15年間利用客への覗き行為を繰り返していること。

・その覗き行為は「変態の覗き魔」としてではなく「個人的研究」として行っているということ。

・その体験を誰かに語りたい気持ちはあるものの、秘密が担保されない限り正体は明かせないこと。

などといったことが綴られていた。
手紙の主に興味を持ったタリーズは、手紙の主が住んでいるというコロラド州デンヴァーを訪れる。約束の場所にやってきたのはジェラルド・フースという40代の男だった。

■「屋根裏の覗き魔」が見た幸福なセックス・不幸なセックス

念のため説明しておくと、「モーテル」とは自動車旅行者などに向けたホテルのことで、「ラブホテル」として利用されることも多い。フースのホテルもこのタイプだった。

フースに連れられ、問題のモーテルにやってきたタリーズは、いくつかの部屋の天井に「通気口」に見せかけた覗き穴が設置されているのを目にする。その穴からフースは日々室内を覗いているのだ。

特筆すべきは、フースが妻の協力のもとで覗き行為を行っていたことと、過去15年間にわたる覗き行為を、彼が細かく記録していたことだ。

その記録は、その後タリーズのもとに、過去のものから定期的に送られてくることになった。その一部にこんなものがある。

今回の観察対象の女性は乳房こそ大きいものの、見た目は小柄で愛らしかった。すでに中年の域に近づきつつあるというのに、あれほどおいしそうで、かつアスリートを思わせるすばらしい体形の女性がいることが、覗き魔には信じられなかった。その女性がスカートとパンティを脱ぎ去った。(P152より引用)

この魅力的な女性はパートナーと情熱的で性的に自由かつ貪欲な、文字通り完璧なセックスを行った。こうした魅力的なセックスの場合、フースは屋根裏でマスターベーションに及ぶこともあったようだ。

この二人のセックスは、フースの覗き魔としての幸福な思い出として記録されているが、もちろん「魅力的な男女による完璧なセックス」だけを目撃できるわけではない。

互いの性欲のレベルが異なるカップルの不幸なセックス、パートナーのどちらかがその気にならないためにやむなく行うマスターベーションくらいならまだいい方で、兄妹による見るに耐えない近親姦の一部始終、そしてついには室内で起きた殺人事件まで目撃してしまう。





ここで注意しないといけないのは、これらの証言は全てフースのフースによる記録でしかないという点だ。ウソが混じっているかはともかく多少の脚色があってもおかしくはないし、タリーズ自身、この本の中でフースの記録に対して100%の信頼を置いているわけではない。

しかし、それでも一人で宿泊した女性客のマスターベーションや、レズビアン同士の性行為、ベトナム戦争で負傷し下半身不随になった兵士に対して妻が施す献身的な性行動など、フースの記録でつづられる、完全に私的な空間でしか見せることのない人間の姿にはリアリティがあり、覗き魔としての誠実さ(?)は確かに感じられる。

本国アメリカで大論争を巻き起こし、先日ついに日本に上陸した本書。読むことに多少の罪悪感を抱きつつ、しかも読むのをやめられないという不思議な体験が待っているはずだ。

(新刊JP編集部・山田洋介)

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