Jリーグのキャンプ情報が毎日のように届くなかで、とても価値のあるニュースが発信された。2016年限りで現役を退いた市川大祐が、清水エスパルスの普及部スタッフに就任することになったのだ。

 プロサッカークラブは、二つの目標を背負っている。短期的にはトップチームが成果をあげることで、中長期的には人材の育成だ。ここでいう人材とは、育成組織からトップチームへ昇格する選手であり、育成組織に携わる指導者である。

 ところが、Jリーグのかなり多くのクラブは、育成組織の指導者を重視していない印象を抱かせる。人数的にも、契約の内容的(単純に言えば報酬である)にも、だ。
予算的にそこまで手当てができない、というクラブもあるのだろう。それにしても、リバプールがスティーブン・ジェラードをアカデミーのコーチとして呼び戻したようなケースに、なかなかお目にかかることができない。

 米MLSでキャリアを閉じたジェラードは、イングランド代表で主将まで務めたクラブのレジェンドである。将来的にはトップチームを率いることが期待され、できるだけ早く監督に据えたければ、ユルゲン・クロップのもとで帝王学を学ばせるほうが手っ取り早い。

 しかし、指導者としての第一歩はアカデミーのコーチなのだ。キャリアを積ませる意味もあるのだろうが、クラブの考えかたが分かりやすく表れている。将来への投資とも言えるアカデミーには、ジェラードのような実績の元選手が必要なのだ。

 市川のエスパルス復帰も、クラブにとって確かな意味を持つ。

 エスパルスの育成組織で育ち、トップチームに昇格し、日本代表としてW杯に出場した彼は、エスパルスにとってかけがえのない“資産”と言っていい。市川が育成組織に関わることで、プロへ至るまでの彼の足跡が再評価され、下部組織の選手たちは具体的な目標を思い描ける。市川の存在が地域の子どもたちを惹きつけ、プロサッカー選手になるとの夢を与えることにつながれば、Jリーグが理念に掲げる地域密着と地域貢献もかなうことになる。

 ガンバ大阪のU−23チームでは、今シーズンから宮本恒靖が監督を務めている。育成組織からトップチームへ昇格し、日本代表まで登り詰めた彼も、ガンバにとって大切な人材だ。満を持しての登場ということだろう。

 二度のW杯に出場し、欧州のクラブへの移籍も経験した彼は、様々な種類のメッセ
ージを発信できる。トップチーム定着を目ざす年代の選手たちにとって、宮本と過ごす時間は価値ある財産となるに違いない。

 若年層を充実させることは、将来への投資に他ならない。5年後、10年後にトップチームを背負う才能をいかに育んでいくのかに、各クラブは思い切った投資をしてほしいのである。