2016年は、「子育て」と「地域」をめぐる問題がクローズアップされた年だった。

画像はイメージです(ume-yさん撮影、Flickrより)

特に、東京都杉並区や千葉県市川市などで、開設予定だった保育園が地元の反対を受け、断念や延期に追い込まれた一連の騒動は記憶に新しい。

今、住民たちと親たちの間に、何が起こっているのだろう。読者から編集部に寄せられた「ご近所トラブル」体験談を元に考えたい。

読者から届いた一通のメール

「道路族のテーマについて扱ってくださってありがとうございます」

先日、編集部に一通のメールが届いた。

Jタウンネットでは、「実録!ご近所トラブル」というコーナーで、読者から寄せられた体験談を紹介している。扱うジャンルは、ペット問題からママ友同士の人間関係、ちょっと困った変人や土地問題などをめぐる争いまで、幅広い。とても載せられない、トンデモなメールが来ることもある。

話を戻そう。上記のメールを送ってくれたのは、東京都のNさん(40代女性・主婦)だ。

「同じような被害者の方からたくさんメールが届いているとは思いますが、私は解決した例として投稿いたします――」

Nさんの言う通り、編集部にはこのところ、「道路族」への不満をつづったメールが増えていた。

「道路族」という言葉、ご存じだろうか。インターネット上で主に使われている言葉で、定義はちょっと難しい。あえて辞書風にまとめるなら、

「住宅街などの道路上で、(騒音など周りに迷惑をかける形で)子どもを遊ばせたり、長時間の井戸端会議を行ったりする親たちを、批判的な立場から呼ぶ言葉」

といったところだろうか。

調べた限りでは、2010年代に入るくらいからブログや掲示板などで見られるようになり、14年には、「ノンストップ!」(フジテレビ)が特集を組んでいる。今のところ、一般に広まっているとは言い難いが、こうした悩みを持つ人には浸透しつつある。

道路族は「一部の常軌を逸した親」

Nさんの経験したトラブルについては、こちらの記事(「我が家の前で遊ぶ親子を注意したら、親がビデオカメラで私を撮影するように...」(東京都・40代女性))で紹介した。「道路族」の親たちに悩まされた末、警察への通報なども経て、ようやく「解決」したという内容だ。

こう書くと、こんな感想を持つ人もいるかもしれない。

「でも、昔から子どもは道路を遊び場にしていたでしょう? 公園なんかも最近は少ないし、それくらいのことで文句を言うべきではないのでは?」
「子育てをしたことがないから、親の苦労がわからないんじゃないの?」

もちろん、「道路族」と相手を責める人が、常に100%正しいとは限らない。中には、「過剰反応では?」という話もある。

一方で、上記のNさんは自身も子育て中の親だし、また「道路族」に関する体験談ではしばしば、「公園などが近くにあるのに、道路で遊ばせている」という証言もある。

「誤解されがちですが道路族問題は、子供達や一般的な親御さんの問題ではなく、一部の常軌を逸した親御さん達の問題です」

こう投稿に書き添えていたのは、東京都のYさん(30代男性・自営業)。

Yさんの自宅前は10年近くに渡り、「道路族」たちの集合場所になっていて、送り迎えに出る朝と午後、さらには暗くなった後どころか、「時には、夜中にも幼児たちを連れて、道路で酔っぱらいながら騒ぐことも」あるという。その音量はYさんの言によれば、「テレビの音さえ聞き取りづらい」レベルだという(「公道で子どもたちを遊ばす『道路族』に困ってます...お願いしても効果なし」(東京都・30代男性))。

体験談の内容がすべて事実だとすれば、それは確かに「常軌を逸した」という領域だ。

やはり東京都のHさん(30代女性・主婦)も、同じような親たちへの悩みを投稿してくれた(「家の前の道路で、子どもを遊ばせる親たちに辟易。試しに騒音計で測ったら...」(東京都・30代女性))。

あるときHさんが騒音計で、その騒ぐ声を調べたところ、「89デシベル」という数字が出たという。さすがに瞬間的な最高値だろうが、90デシベルが「騒々しい工場の中」並みといわれることを考えれば、やはり「常軌を逸した」ものである。

「ここはもう、子育てする環境じゃないの」母親の哀しみ

一方でJタウンネットには、周囲の「無理解」に傷つけられた親たちの側からの体験談も寄せられている。

長野県のGさん(30代男性・会社員)の隣人男性は、Gさんに子どもが生まれた途端、夜泣きをするたびに「壁ドン」する、大声で叫ぶなど不快感を露骨にするようになった。それどころか、Gさんの玄関の前にわざとゴミを放置したり、会うたびに舌打ちをするなどの嫌がらせを繰り返し(しかも、指摘に対してはしらばっくれる)、Gさんの妻は「おかしくなりそう」と訴える事態となった。

最終的に、Gさんの機転でひとまず事態は解決した。隣人の胸のうちまではわからないが、いくら不満があったとしても、こうした行動はとても認められたものではない(「子育て中の我が家に嫌がらせしてきた隣の中年男。そこで、大家さんに『あること』を通報すると...」(長野県・30代男性))。

千葉県のNさん(30代女性)からの投稿も、大きな反響があった(「『ここはもう、子育てする環境じゃない』 近所のおばあさんから浴びせられた言葉にショック」(千葉県・30代女性))。

高齢者が多く暮らす、古いマンションに引っ越してきたNさん。最初は周囲も愛想が良かったのだが、あるとき住人の一人から、こんな言葉を告げられたという。

「ここはもう、子育てする環境じゃないの」
「昔は、駐輪場にブランコなんか置いて、みんなで子育てしたものだけど、今は静かに老後を過ごしたいの」
「あなたに住人が優しくしてくれるのは、社交辞令だとわからないの?」

Nさんは、心情をこう記す。

「思い出すと――。住んでることが犯罪と言われているような、悲しい気持ちが甦ります。(中略)自分たちは子育てしてきた人たちなのに、子育てする環境じゃないと。邪魔だと」

日本のあちこちに、肩身の狭い思いをしながら子育てをしている親たちがいる。一方で、「常軌を逸した」親たちの振る舞いに悩まされる近隣住人もいる。すべてを「子どもは騒ぐのが仕事だから......」式の言葉で片付けることは可能なのだろうか。

編集部には今日も、「ご近所トラブル」の投稿が届く。