日ハムが指名も交渉難航 なぜ18歳左腕に入団拒否の可能性が浮上したのか
履正社の左腕・山口、4位以下指名なら社会人へ進む予定も日ハムが6位で指名
20日にプロ野球ドラフト会議が行われ、全87人が12球団指名を受けた。続々と各球団で指名挨拶が進んでいるが、日本ハムから6位指名を受けた大阪・履正社高校の山口裕次郎投手の交渉は難航の様相。入団拒否に発展する可能性が高くなっている。
山口投手は、ヤクルトに1位指名された寺島成輝投手と2枚看板として、今夏の甲子園出場を果たした。最速は145キロを記録するなど、他校ならば十分にエースナンバーを取れた実力を持つ。その素材に惚れ込んだ多くの球団が、獲得のための調査書を学校へ送っている。だが、本人はプロ希望ながらも学校側と相談し、ドラフト3位以上でなければ社会人に進む、という決意で運命の日を迎えていた。
なぜ、そのような条件を自分自身に課すのか。いくつも要素があるが、一番大きいのは待遇面が挙げられる。契約金や年俸という金銭面以外でも、チームから受ける“扱い”が違う。入団後に与えられるチャンスを考えても、ドラフト上位指名選手の方が下位指名選手より優先順位は高く、起用される回数も増える。下位指名で入団した高校生が力を発揮できず、そのまま埋もれてプロ野球人生を終えてしまうケースも少なくない。
また、今年のドラフトに限っては、高校生左腕のレベルが高かった。下位指名を嫌がり、プロ志望届を出さなかった高校生投手もいたほどだ。少し遠回りでも、大学、社会人を経由して、実力と評価を上げた方が賢明と判断したのだろう。そこでドラフト上位指名されれば、キャンプは1軍スタート。つまり、指名を受けた段階で開幕1軍候補に入っているようなものだ。
他球団が指名を“自粛”する中、育成に定評のある日本ハムが6位指名
実際、山口も例年ならば3位以内で指名される実力を持った選手。山口が条件とする3位か、あるいは1つ外れる4位か、その当落線上で悩むチームもあった。4位以下で入団する意思がないかを再度確認するため、ドラフト直前まで学校側へ連絡が入ったほど。それでも本人や学校側の決意は変わらなかった。
日本ハム以外の球団はその意思を尊重。魅力のある選手だが、他の希望選手との兼ね合いで3位までに指名することができず、指名を見送った。
しかし、日本ハムはどうしても欲しいと6位で指名。もちろん、指名してはいけないというルールはないため、日本ハムに非はない。戦力として獲得したいという気持ちの表れでもある。それでも、他の球団は驚きを隠せなかった。
育成に定評のある日本ハムならば、6位であっても試合に出場するチャンスは上位指名と変わらず、均等に与えられるだろう。昨年も今年も高卒選手に出場機会を与えており、前述したような“扱い”の違いは、それほど大きくないに違いない。このまま入団しても、十分に力を発揮できる可能性はある。
過去にも入団拒否にあった日本ハム、大谷は二刀流として育成
一方で、日本ハム以外の球団は“暗黙のルール”を守ったがために、指名し損ねてしまった。そのまま入団となれば、“暗黙のルール”を守った球団が損をした形にもなりかねない。そのため、“指名されたから入団します”という流れにはなりにくい。4位以下だった場合に備えて、社会人の進路も道筋を立てていた。4位以下の指名でもプロ入りを決め、入社を断わってしまえば、その企業にも迷惑が掛かりかねない。
日本ハムは過去にも2011年に巨人単独指名が有力視されていた東海大の菅野智之を1位指名したが、入団拒否になった例がある。ただ、2012年のドラフトでは、メジャー行きを希望していた大谷翔平を長い交渉の末に獲得。誰もが認める球界のエースに育て上げた。育成に自信がある球団は山口を戦力として必要とし、十分に育てることができると考えたからこそ、批判を恐れず指名に踏み切ったのだろう。
学校側も、日本ハム側も、山口の将来を踏まえた上で出した結論だが、皮肉なことに対極に分かれてしまった。過去にも同様のケースは多くあり、古くは山田久志、江川卓、小池秀郎ら、近年では長野久義、菅野らが指名拒否の末、プロ入りを果たしている。
華やかな舞台の裏で様々な思惑がぶつかり合うドラフト会議。今年も決断に悩む若者がいる。