北海道新幹線H5系のグランクラス。はたして割安か?(photo/尾形文繁)

新幹線ファーストクラス「グランクラス」が2011年、東北新幹線に導入されてから5年が経った。導入当初、グランクラスが連結された列車(E5系)は東京〜仙台・新青森を1日3往復だった。

その後、E5系が続々生産されるとともに、グランクラスは北陸新幹線用に製造されたE7系、W7系にも導入され、グランクラスが連結された新幹線の本数、運行エリアは拡大した。さらに、2016年3月のダイヤ改正でH5系がデビュー、グランクラスで北海道まで行けるようになった。

グランクラスは、グリーン車をはるかに上回る快適さとサービスが特徴の車両だ。シートは本革製で、リクライニングが最大45度まで倒れる。アルコールやソフトドリンクが飲み放題。スリッパ、ブランケット、アイマスクなどのアメニティグッズや新聞、雑誌の貸し出し、軽食のサービスなど。

車内には専属のアテンダントがいて、欲しいものはコールボタンを押せば、サービスの品々を持ってきてくれる(フルサービスの列車の場合)。正直、何時間でも、ここで過ごしたくなる空間だ。


時間がかかるほうが「お得」?

一般論でいうと、サービスを提供する空間というのは、「時間」によって料金が決められるものだ。たとえば、マッサージ店は施術の時間が長くなるほど料金が上がり、カラオケボックスも、滞在時間が長くなるほど料金が上がる。レストランの飲み放題プランも、時間制限がある。

いっぽう、鉄道は遠くまで早く移動することが最も重視されるサービスとされているため、所要時間ではなく「距離」と「スピード」で料金が決められている。この理念はグランクラスの料金にも反映されており、所要時間は考慮されていない。たとえば、JR東日本管内のグランクラス料金は、フルサービスの場合、100kmまで6,170円、200kmまで7,200円、300kmまで8,230円、700kmまで9,250円、701km以上が1万280円となっている。

つまり、東京と新函館北斗を最速4時間2分で結ぶ「はやぶさ5号」に乗っても、4時間31分で結ぶ「はやぶさ21号」に乗っても、同じ料金なのだ。29分も長く快適なサービスを受けられるにもかかわらず、支払う金額は同じ。


東北・北海道新幹線でお得なのは?



東北新幹線E5系のグランクラス(photo/尾形文繁)

そこで、グランクラスのフルサービスが受けられる、毎日運転の列車をピックアップ。各列車の始発から終点まで、グランクラスに乗った場合の、1分当たりの利用料金を計算し、「グランクラスのサービスをお得に受けられる列車はどれか」を探してみた。

まずは、東北・北海道新幹線。グランクラスは、東京―盛岡を結ぶ「やまびこ」と、東京―仙台・盛岡・新青森・新函館北斗を結ぶ「はやぶさ」に連結されている。



コストパフォーマンスが一番いいのは、東京発8時48分、盛岡着12時54分の「やまびこ43号」だ。東京―盛岡の所要時間は3時間19分。速達型の「はやぶさ」よりも1時間以上遅いが、その分グランクラスをたっぷりと満喫できる。乗車券、新幹線特急券、グランクラス料金をあわせた料金が2万2,960円で、1分当たりのグランクラス料金は115.4円となった。

東京発8時40分の「はやぶさ7号」に乗って、終点の青森まで行くと、所要時間は3時間11分。「やまびこ43号」より8分も短いにもかかわらず、料金は2万7,110円と4,150円も高い。グランクラスのサービスだけが目的なら、「やまびこ」の方が断然お得だ。

以下、東北・北海道新幹線のお得な列車を調べて行くと、東京―盛岡の「やまびこ」が上位を独占する。東北新幹線は、最高時速320kmの「はやぶさ」に乗る場合、東海道新幹線の「のぞみ」と同じく、通常の新幹線特急料金にプラス料金(510円)がかかることから、「やまびこ」のお得感が増している。


早く到着すると「損」?

一方、コストパフォーマンスが悪い、もとい、一番ぜいたく感があるのは、東京発21時36分、仙台着23時07分の「はやぶさ37号」と、仙台発6時36分、東京着8時07分の「はやぶさ2号」だ。料金は1万9,930円だが、所要時間が1時間31分と短かったため、1分当たりの料金が高額となった。

それに続くのは、東京―盛岡の速達型「はやぶさ」。盛岡までの所要時間が「やまびこ」より1時間以上早く、料金が510円高いこの列車は、グランクラスのサービスを楽しむより、指定席でさっさと目的地へ向かいたい方に向いている列車だ。

4位以降は、新函館北斗発着の「はやぶさ」が並ぶ。これは、列車がJR東日本とJR北海道の2つの会社を直通するためだ。一般的に列車に乗る場合は、遠くへ行けば行くほど特急券は割安となるが、「はやぶさ」の場合、東京―新青森の料金と、新青森―新函館北斗の料金を別々で計算して合算するので、少々割引はあるものの、割高感が出る。

そのため、特急料金は、東京―新青森の場合、指定席は7,200円(通常期)だが、東京―新函館北斗の場合、1万1,130円と、3,930円も高い。グランクラスの場合も同様の方式が取り入れられるため、どうしても東京―新青森の「はやぶさ」よりも割高となってしまうのだ。


北陸新幹線でお得なのは?



北陸新幹線E7/W7系のグランクラス(photo/梅谷秀司)

北陸新幹線の場合はどうなのだろうか。調べてみると、東北新幹線より割高な結果となった。これは、北海道に乗り入れる「はやぶさ」同様、JR東日本とJR西日本の2社にまたがるためである。

そんな中、一番割安だったのは、金沢発9時21分、東京着12時40分の「はくたか558号」。通過する駅が安中榛名、本庄早稲田、熊谷の3駅しかない上、長野で12分停車して、「かがやき508号」に追い越されるダイヤとなっているため、1分当たり135.5円と、東京―新青森の「はやぶさ」とほぼ同じ数字となった。

ちなみに、この列車で上越妙高から東京まで乗車した場合、JR東日本とJR西日本の2社にまたがらないため、グランクラスや新幹線特急料金が下がり、1分当たりの料金は125.9円となった。

ぜいたく感があるのは、スピード自慢の「かがやき」だ。東京―金沢を最速2時間28分で結ぶ「かがやき509号」と「かがやき514号」は、1分当たり182.2円。一番時間のかかる「かがやき」でも、1分当たり175.1円と、東京―新函館北斗の「はやぶさ」よりぜいたくな結果となった。

ゴールデンウイークや、それ以降に走る臨時列車を調べてみると、お得感があったのは、5月5日に運転される、盛岡発17時40分発、東京20時56分着の「はやて342号」が1分当たり117.1円と「やまびこ」並みの数値だった。

また、東北六魂祭にあわせて、6月26日に運転される、新青森16時25分発、東京20時20分着の「はやて380号」は、1分あたり113.2円と、東北新幹線で定期列車最安値の「やまびこ43号」よりも安い数値が出た。さらに、この列車を七戸十和田―東京まで乗車した場合は、1分当たり112.9円。現在のところ6月26日に「はやて380号」で七戸十和田から東京まで乗るのが、一番お得にグランクラスを楽しむ方法と言えるだろう。


車内でコスパのよい楽しみ方は

さて、肝心のグランクラスをどう楽しむか。車内はとにかく上品で、静かな空間を楽しんでもらうため、車内販売がやってこない。また、ソフトドリンクは小さいグラスに、氷を3個ほど入れ、そこにソフトドリンクを入れるため、すぐになくなってしまう。

アテンダントを何度も呼び出すのも、ドリンクを2、3杯一緒に頼むのも品がない。軽食も、6数種類の料理が、それぞれおちょこに入るぐらいの量しか盛られていない。

だが、アルコールは違う。ミニボトルや、350mlの缶とグラスを渡され、しかも飲み放題。なので、グランクラスを満喫したいなら、お酒を飲んでも大丈夫なタイミングで乗車し、軽食をツマミ代わりに楽しむのがオススメだ。


著者
渡辺 雅史 :フリーライター

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