山口県美祢市の左隣は下関市。そして美祢市の上には「長門市」があります。長門市には仙崎という場所があり、日本海側屈指の漁港として栄える場所。ここで生まれたひとりの詩人が、金子みすゞ。今回は、山口県出身の金子みすゞについてお話します。


山口の海が生んだ、詩人「金子みすゞ」命のうた



山口県出身の偉人、といえば誰を思い浮かべますか？
吉田松陰。高杉晋作。伊藤博文。木戸孝允。
そうそうたる幕末の偉人たちを輩出する県というイメージがありますよね。
ですが、実は山口県は、多くの文化人や芸術家を生み出した地でもあります。
今回は、山口出身の童謡詩人「金子みすゞ」についてお話しましょう。

「鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。」
（「私と小鳥と鈴と」より）――。

読むだけで心が洗われるような純粋な言葉が印象的な金子みすゞ。
大正から昭和を生きた女流詩人は、山口県の仙崎という場所で生まれました。
仙崎は、かつてクジラ漁で賑わった海の町。
彼女が生涯の作品の中で、最も多く書いたのは、クジラや魚などの海を描いた詩でした。

クジラによって生かされていた仙崎には、感謝と畏敬の念から、クジラのお墓がありました。
みすゞはこの町で育つことにより、すべてのものには命があり、慈しむべきであること、そして自然とともに生きることの意味を考えるようになります。
この視点は彼女の作風の基本となり、鯨の供養のために書かれた「鯨法会（くじらほうえ）」や、「お魚」など、失われた命を優しく包み込むような詩を多く書くように。
それでは、中でも有名な「大漁」という作品をご紹介しましょう。

「朝焼け小焼けだ
大漁だ
大羽鰮（おおばいわし）の
大漁だ

濱（はま）はまつりの
ようだけど
海のなかでは
何萬（なんまん）の
鰮（いわし）のとむらい
するだろう」

たくさんの魚や大きなクジラが浜に引き上げられる姿を見ながら、生きていくということ、命というものについての思いを描いた金子みすゞ。
山口県の美しい海を思い浮かべながら彼女の詩を読めば、優しさにつらぬかれたその言葉が、より心に沁みるかもしれません。

文／岡本清香

TOKYO FM「シンクロのシティ」にて毎日お送りしているコーナー「トウキョウハナコマチ」。江戸から現代まで、東京の土地の歴史にまつわる数々のエピソードをご紹介しています。今回の読み物は「山口の海が作った金子みすゞのうた」として、7月20日に放送しました。

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