「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。「文字」「漢字」の「字」。小暑を過ぎて夏本番、文をひろげる「文月」は、なかなか会えないあの人に、暑中見舞いをしたためてみましょうか。今回は「字」に込められた物語を紹介します。



「字」という漢字は「宀（うかんむり）」の下に「子」と書きます。

うかんむりは先祖を祀る霊廟の屋根の形を描いたもの。

いにしえの中国では、「子」が生まれて一定の日数が過ぎ、養育の見込みが立つと霊廟に出向いて祖先に出生を報告しました。

そこで「幼い名前」と書く「幼名」をつけますが、この儀式の様子を表しているのが「字」の形。

これをもってその子を一族で養うことが定まったため、幼名を意味する「あざな」、また「やしなう」という意味をもつようになり、さらに、文字そのものを示すようになっていきました。

白川文字学でおなじみの白川静博士は、漢字を「神と人とが交わる手段」だったと解釈しています。

まさに、「字」という漢字の意味をなす幼名「あざな」には、神への切なる祈りがこめられてきました。

すこやかに育つように、みなに愛されるように、賢く強くなるように。

縁起かつぎの美しい名前をつけるその一方で、生まれたばかりのか弱い命が、邪悪な霊に見つかって連れていかれぬように……、そんな願いをこめた名づけの風習が、今も世界各地にあるといいます。

忌まわしい文字や不吉な言葉、とるにたらないものであることを示す名前を敢えてつけるのです。

古今東西、名づけには「字」にこめられた不思議な力を尊ぶ気持ちと、ひたすらな我が子への愛がにじみます。

ではここで、もう一度「字」という字を感じてみてください。

新たな命がこの世に迎えられ、認められたことを意味する「字」という漢字。

我が子はもちろんのこと、軒下で見つけた子猫や、夜店で釣った小さな金魚にも親しみをこめて「あざな」をつけた瞬間から、その存在が人々の心に息づいてゆきます。

筆をとり、文字にしてみれば、なおさらのこと。

元気でいてね、また会いたいね、そんな願いをこめて、最近ご無沙汰しているあの人の名前を書いてみる。

想いのにじむ手書きの文字が、さわやかな涼を届けます。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

＊参考文献

『常用字解　第二版』（白川静／著　平凡社）

『世界の名前』（岩波書店辞典編集部編　岩波新書）

7月16日の放送では「砂」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。

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＜番組概要＞

番組名：「感じて、漢字の世界」

放送エリア：TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 ：TOKYO FMは毎週土曜7：20〜7：30（JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください）

パーソナリティ：山根基世

番組Webサイト：http://www.tfm.co.jp/kanji/