國學院久我山vs聖徳学園
常に自分の投球をする難しさを実感する試合だった。プロ注目の本格派左腕・長谷川 宙輝(聖徳学園)は前回の都立多摩工戦(観戦レポート)で6回11奪三振の好投を見せた。國學院久我山戦へ向けて、上々の出だしを切ることができた。しかし同じような投球ができるとは限らない。都立多摩工戦から中1日。先発のマウンドに登ったのは長谷川ではなく、勝屋紬(3年)だった。恐らく中1日から疲れがあまりとれていなかったというのもあるのだろう。またしぶとい國學院久我山打線には、後半まで長谷川のスタミナを残しておきたい聖徳学園首脳陣の目算もあったのだろう。勝谷は長谷川の影に隠れているが、練習試合ではたびたび二ケタ奪三振を記録している左腕投手。中里監督の信頼も厚い投手。ブルペンで見ていても、滑らかな体重移動から投げ込むフォームから、125キロ前後の速球が出ている。コントロールも良く、確かに先発としても十分に投げられる投手だと映った。勝屋が試合を作り、後半に長谷川を投入して勝負に持ち込んでいく戦略。1回裏にして試合前に描いていた戦略が崩れることになる。
1回裏、勝屋は先頭打者を歩かせると、2番青木が甘く入ったストレートを見逃さずレフトスタンドへ放り込む2ランホームランで2点を先制される。いきなりビハインドに立たされる。聖徳学園首脳陣はすぐに動いた。勝屋は降板し、長谷川を投入する。1回裏から軽くキャッチボールをしながら準備をしていた長谷川。まさにぶっつけ本番のピッチングとなった。
國學院久我山が誇る強打者・笠原 大和(3年)。長谷川は初球、136キロのストレートを投げ込むと、3球目で140キロに到達。そして最後は自慢のスライダーで空振り三振にきってとると、4番齋藤大地(3年)には追い込んでから外角低めへチェンジアップが決まり、見逃し三振。3、4番を三振に打ち取り、そして5番片岡にも中飛に打ち取って、無失点。さすがエースと思わせるピッチングを見せた。
2回表も先頭打者に安打を打たれるが、後続を抑え、3回表には二死二塁の場面で、再び4番齋藤に外角へこの日、最速となる141キロのストレートが決まり、見逃し三振。ここまで快調なピッチングを見せているように見えた。ストレートもコンスタントに130キロ後半を出していて、さらに縦スライダーのキレも良い。一番良いのは、3番笠原、4番齋藤と警戒している打者に対して、勢いあるストレートと縦スラがコントロールも良く決まること。投球フォームも、松井 裕樹を参考にしているように、だらっと腕を下げてから、一気に振り下ろす縦振りのフォームは確かに出所が見難い。
このまま自分のピッチングができればと思ったが、徐々に雨が強く降り始めた。強豪・國學院久我山打線に立ち向かうプレッシャー、さらに中1日...。徐々に長谷川のスタミナは奪われていった。4回裏、無死一、二塁から7番藤井大地(2年)に中前適時打を打たれ、1点を失うと、さらに押し出しで1点を取られた。このイニング、力を入れて140キロ以上のストレートを7球投げ込んだが、高めに上ずっていた。そして変化球も曲りはじめが早かった。力みが入ったフォームで、3回までに見られていた力みがなく、連動性のあるフォームではなかった。力んで投げることになるので、肩の消耗は激しくなる。長いイニングでも球速を維持できるような投手は、まず力まずに制球良く投げられることが前提になるが、長谷川は強い球を投げようと意識するあまり、フォームのバランスが崩れていたのだ。長谷川は回を重ねるごとに球威が落ち初め、球速も125キロ〜130キロ前半まで落ち込んでいた。國學院久我山打線も捉え初め、8回まで6得点。甘く入ったボールをことごとく打たれてしまった。
ストレートと縦スライダーのコンビネーションがうまく嵌った時は國學院久我山打線も苦しんでいただけに、やはり調子を維持しつづけることは難しいと感じる。
それでも國學院久我山打線の破壊力はかなりのもの。特に長谷川から二塁打、適時打を打った笠原 大和は楽しみな左の強打者。185センチ77キロと恵まれた体格を生かした打球の速さは圧巻。上体が高く、バットを寝かせて構える笠原。手元までボールを呼び込んで、弧を大きく描いたスイング軌道でボールを捉え広角に鋭い打球を飛ばすことができていた。好投手相手にも甘い球を見逃さない鋭さが一番の長所だといえるだろう。さらに外野守備を見ていても強肩。ポテンシャルの高さはかなりのものがあり、今後も注視していきたい。
そして聖徳学園打線を完封した江川 昂輝は独特のステップから投げ込む技巧派左腕。球速は、120キロ後半と決して速くないが、出所が見難く、両サイドに散らばっていくので打ち難い投手といえるだろう。やや変化球が甘く入っているのが気になったが、それでもうまくまとめた投球術は見事だった。
敗れた聖徳学園で長谷川以外の選手をピックアップすると、捕手の竹内 栄輝。176センチ74キロとがっしりとした体格をしており、安定したキャッチング、長谷川の変化球を止めるストッピング能力、確実性の高いスローイング、そしてこの日、右越え二塁打を打ったように、逆方向に鋭い打球を打つことができる選手で、上のステージでも続けられる可能性を持った選手だった。
>> 速報はこのページより! <<