聖徳学園高等学校 長谷川 宙輝投手【後編】「プロ注目左腕が歩んだ道は聖徳学園ナインの道標となった」
前編では2年夏までの振り返りを行いました。後編では2年夏が終わってから、ここまでどんな思いで練習に取り組んできたかを伺いました。
打たせて取る投球を心掛けた長谷川 宙輝投手(聖徳学園高等学校)
夏の大会が終わり、新チームがスタート。長谷川は身体の使い方を覚えるために1年時から週2回、ジムに通っていたが、更なるレベルアップのためにプラスで週1回、ウエイトトレーニングや肉体強化のためのジムに通い出した。
さらに1年時から行っていた肩甲骨や体幹のトレーニングを継続をして行い、そしてフォームのバランスを見直して、状態を高めてきた。迎えた秋季ブロック予選。初戦の日工大駒場戦でいきなり20奪三振の快投を見せた長谷川だったが、代表決定戦の都立東大和戦で0対1で敗れてしまい、またも長い冬を迎える。
冬に入っても夏から取り組んできたトレーニング、体作り、フォーム固めを行った長谷川は、春のブロック予選の世田谷学園戦で、視察したプロのスカウトのガンで最速143キロを計測する投球を見せた。しかし8回裏に一挙6点を奪われ、逆転負けを喫してしまう。こうして二季連続で都大会出場を逃してしまったのだが、そこには味方のエラーが絡んでいた。エラーが何故起こるかと考えた時、長谷川は三振を狙いすぎているところがあったことに気づいた。
「三振を取っているとその分、打球が飛ばない。自分中心で試合を作っているところがあったと思います。僕が多く三振を取る中で、野手の足が硬くなってエラーを生み出していたとなると、打たせて取る投球をしなけれなばならないと思いました」
そして長谷川は春季大会後の練習試合では、打たせて取る投球と三振を取る投球を使い分けた。そうすると、「頭は使うけれど、球数は減らすことはできているので、スタミナの消耗を少なくできています。リズムも良くなっているので、今後も継続していきたい」と手応えを感じている。またここ最近は強豪校と対戦することが多くなり、低めのスライダーは見逃したり、甘い球はしっかりと捉えられるのを目の当たりにして、「配球にも気を付けなければと思っています」と投げながら自身の課題を見出している。
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長谷川の凄さは競争がない中で自分を追い込めたところ長谷川 宙輝投手(聖徳学園高等学校)
長谷川が素晴らしかったのは最速140キロ中盤のストレートと抜群のスライダーを投げるだけではない。試合をする中で投球の課題を自分で見つけ出し、大会後の練習試合で工夫しているところだ。その姿を見て中里監督は、「つくづくあいつの思考を変えて良かったと思っています」と語った。
プロ注目左腕になってほしい、甲子園に導いてほしいという思いで、厳しく指導してきた中里監督の思いに応えて、長谷川は自立した。取材当日、長谷川は体幹トレーニングを黙々と行っていた。中里監督はこう続ける。「長谷川の何が凄いかといえば、自分のためになる練習をコツコツとできること。今は練習メニューは任せていますけど、あれをうちの環境で続けられるということが素晴らしい。
うちは23人しかいないので、強豪校と比べると競争が少ないんです。競争があるとそれに引っ張られて必然と取り組むものですが、競争が少ない環境でコツコツと取り組むのは難しいんですよ。それになかなか勝てなかったから、モチベーションを保つのは厳しいはず。
そこに負けてしまうとその程度の選手になってもおかしくない。でも長谷川は自分に何が必要なのかというのを見極めて練習に取り組むことができたんです。だからここまできた。それは本当に尊敬しますし、1年の時に行った指導は間違っていなかったかなと思います」
こう長谷川の取り組む姿勢を称えた。そしてリードする竹内 栄輝(3年)は、「1年の時はあまり目立っていなくて、投手なの?と思っていたこともありますけど、今ではだいぶ変わって中心選手です。ボールの勢いも、1年と比べたら別人です」と成長ぶりを認めている。
心身共に成長した長谷川に対し、多くの関係者が大黒柱として期待を寄せている。ならば後は結果で示すしかない。「とにかく神宮球場で投げたいので、ベスト8以上を目指します」と誓った長谷川。
まだ1年生の時は、全国的に見てもどこにでもいるような投手の力量しかなかった。取り組みも甘かった1人の投手がプロ注目左腕へ成長したのは、中里監督の二人三脚の取り組みによって、自覚が芽生えたから。そしてそれを横で見ていた聖徳学園ナインも変わった。「長谷川効果で、周りの選手たちの意識は変わりましたよ」と中里監督が語るように長谷川が高校3年間で辿ってきた道は、今の聖徳学園ナイン、いや未来の聖徳学園ナインにとっても大きな道となっている。
そして迎えた初戦、都立多摩工相手に6回11奪三振の好投を見せ、打線も奮起し、7回コールド勝ち。強豪・國學院久我山の挑戦権を手にした長谷川。もう惜しい負けはいらない。出せる力をすべて振り絞り、都内屈指の破壊力を持つ國學院久我山打線に立ち向かっていく。
(取材・文=河嶋 宗一)
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