トイレが汚すぎて便意がためらうほどでした。「ゴミのポイ捨て」「子どもの放尿」と日本でも騒がれるマナー問題は中国国内でも同じです。経済発展のスピードと国民のマナー向上が吊り合わないのも開発独裁による負の一面だと思います。

こんにちは、自転車世界一周の周藤卓也@チャリダーマンです。バックパッカーとしてモンゴルを訪問した前後で中国に滞在していました。

過去には2008年4月7日〜5月8日の31日間、2009年5月28日〜9月22日の117日間、合計5ヶ月ほど中国を旅しています。

約7年ぶりとなった2016年の訪問は4月28日〜5月8日、5月18日〜5月20日と12日だけですが天津、北京、エレンホトを見てきました。「こんな国だったけ」と首を傾げる光景もありましたので、今回はいろいろと書き連ねてみました。

◆国家主席の神格化

毛沢東と並んだ習近平の肖像画。日本のリベラルな方々は国内の右傾化を「軍靴の音が聞こえてくる」と揶揄しますが、中国では「国家主席が金正恩化」しているようでした。戦争に繋がりかねないほどに中国は不安定化しています。



中国は独裁国であれど正義は共産党にあり、個人崇拝は避けられているはずでした。ただし国家を独立に導いた毛沢東は別格。中国の紙幣にも天安門広場の正面にも彼の肖像画が描かれています。文化大革命という失態はあれど英雄として崇められる立場でした。

その毛沢東と並んで現在の国家主席である習近平氏が描かれた肖像画を中国で見かけました。また本屋では「習近平国政運営を語る」という彼の顔が表紙に描かれた書籍が平積みでした。最近のニュースで読んだ通り習近平氏の個人崇拝、神格化が進んでいました。

毛沢東の衣鉢を受け継いだ習近平を待つ「未来」 | 辣椒(ラージャオ、王立銘) | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

http://www.newsweekjapan.jp/rebelpepper/2016/03/post-22.php

習近平主席、静かに進む個人崇拝―周到に練り上げられたつましい過去 - WSJ

http://jp.wsj.com/articles/SB10030317691824024149004580511393862442162

中国、習近平氏を「核心」と呼び始める 権力強化、個人崇拝の前兆か 江沢民氏と同様の呼び方 - 産経ニュース

http://www.sankei.com/world/news/160202/wor1602020054-n1.html

結婚は習近平みたいな人と! 高まる個人崇拝:日経ビジネスオンライン

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/224217/031500068/

◆治安の悪い国

繁華街にしても地下鉄に乗るにしても、スリ対策に鞄を前に抱えて歩く人が目立っていました。また、多数ではないものの運転席と後部座席に仕切りがあるタクシーも走っています。ずっと安全なイメージだった中国ですが、今回はまた違った印象を受けました。

滞在中に「なぜだ!日本のマンションや家屋の窓に「鉄格子」が設置されていない理由」というニュースを読みました。その通りに中国のマンションは犯罪に怯える形となっていました。

窓が金網、鉄格子に覆われたマンション。



厳重な警備となっています。



エアコンの室外機にも鉄格子。



警察の掲示物にはピッキングされにくい鍵への交換を勧めていました。



昔の旅のことですが、スーパーで箱に入った歯磨き粉を買いました。レジで会計すると箱を開けて中身まで確認されました。箱の中に何か入れる人がいるのでしょう。今回の旅でも歯磨き粉を買いました。箱にはビニールテープで封をしていました。手作業でわざわざ張っているようでした。

◆貧富の差

こうした治安の悪さの原因となっているのが国内の貧富の差でした。中国の戸籍制度は都市と農村と分けられ、両者の間には圧倒的な格差が存在しています。最近まで私はこの事実を知らなかったのですが、過去の旅を振り返ると格差を実感する場面が何度もありました。都市と農村の発展には明らかな違いがありました。

今回の旅でも中国の格差は気になりました。

天津ではおしゃれにも気を使いショッピングを楽しむ人がいる一方で、生活感が抜け切れない服装のまま路上で露店を開く人もいました。生活の質が明らかに違っていました。



天津駅地下のマクドナルドで休んでいたら、ふらふらとしたくたびれた男性が入ってきました。机の上の未使用の紙ナフキンを集めてたのですが、席に座り込むと食べ残しを口に運んでいました。

◆テロリスク

中国はいつの間にか平時でもテロが起きる国となっていました。2009年のウイグル騒乱以後、ウイグル独立勢力によるテロ行為が中国全土で起きています。北京の天安門広場に自動車が突っ込んだ事件をはじめ、昆明の鉄道駅でも無差別殺傷事件が起きてますし、国内だけではなくタイのバンコクでも爆弾テロがありました。

最近、起きた事件を挙げると

・2012年6月:天津航空7554便ハイジャック未遂

・2013年10月:北京の天安門広場自動車突入事件

・2014年3月:昆明駅で無差別殺傷事件

・2014年4月:ウルムチ駅爆発事件

・2014年5月:ウルムチの朝市襲撃

・2015年3月:広州駅で通り魔事件

・2015年8月:バンコク爆弾テロ事件

改めて調べてみるとハイジャック未遂までありました。こうした事件はウィキペディアの中国語版に詳しくまとめられています。中国国内からはアクセスできませんけれど……。

こうしたテロ行為を受けて鉄道駅や繁華街では車両侵入防止のための柵が設けられるようになっていました。

警察車両が待機している北京駅。



ショッピングモールなどの大規模商業施設の前には不審者の侵入を妨げるこのような柵がありました。



ローカル商業地区でも同じような柵を作っています。



また天津、北京の地下鉄では手荷物の検査が必須で、空港のセキリティチェックのようになっていました。鞄をベルトコンベアに乗せてX線検査を通します。その間にゲート型金属探知器をくぐって、警備員から聖徳太子が手にしている笏のようなものを全身にかざされ不審物がないか調べられるのでした。「防爆球」という不審物を爆発させる壺のような装置も置かれていました。

テロ行為と書きましたが、中国政府のチベット、ウイグルに対する占領政策が正義だとも私は思いません。中国の人はやたら日本の過ちを攻め立てます。そんな彼らだって、今では同じ行為を他民族に強いる立場です。

◆プロパガンダ

貧富の差や民族軋轢といった問題に取り組んでいる姿勢を見せるために、中国政府はプロパガンダに積極的です。街を歩くと「自由」「平等」「正義」といった文字が飛び込んできます。言いたいことも言えないそんな政府なのに、威勢のいい掛け声ばかり並んでいて、息苦しくて仕方ありませんでした。日本で例えるなら「一億層活躍社会」のポスターがあふれた社会でしょうか。民主国家のスローガンと独裁国家のプロパガンダは違います。

「開放」「包容」「誠心」「奉献」



中国力量(中国パワー)」ともに「富強民主」「文明和諧」「自由平等」「公正法治」「愛国敬業」「誠信友善」といった言葉が並んでいます。



中国力量の張り紙に目を凝らすと「蓦然回首、不是在天堂、是進十八層地獄(ふと思った。天国なんて無かった。十八層地獄に進んでいた)」という落書きがありました。人民も深い闇を抱えています。



◆ネット規制

不穏分子をしょっ引く必要があるので中国ではインターネットが自由に使えません。FacebookやTwitterのアクセスは遮断されています。

前の旅ではFacebookもTwitterもアカウントがなくて、自身のブログは表示できたのでネット規制もさほど気にしていませんでした。それなのに、ウイグル自治区ではインターネットの全面封鎖に遭いました。ウイグル騒乱後とはいえ、一党独裁による本気の言論統制をまざまざと見せつけられました。

今回の旅ではグーグルも使えなくなっていました。昔の旅ではアクセスできていたのですが、当局からの検閲やら中国国内からサイバー攻撃に嫌気がさしたグーグルは撤退を決断。昔の旅の最中にも「グーグルは検索結果にいやらしい画像がいっぱい出てきてけしからん」と国営放送から批判を受けていましたしね〜。

夜行バスまで時間があったのでネットカフェに立ち寄りました。グーグルが使えないのでクローム(Chrome)なんて入っていません。そのパソコンではInternet Explorerが活躍していました。



今回の旅ではTwitterもFacebookもアクセスしたかったのでVPNサービスを使いました。発信元を国外(日本)に変更することで、中国国内からでもTwitterやFacebookに繋ぐことができます。









このような感じで現地でもTwitterで遊んでいました。規制はざるなんですが中国人だとチェックされちゃうのでしょうか?

◆経済発展を優先

このように自由と人権を無視して開発独裁を続ける中国政府ですが、それなりの結果があることは見逃してはいけません

穴の空いたズタ袋に、補修を繰り返した手提げかばん。いかにも田舎から出てきたとわかる日に焼けたおっちゃんたち。そんな彼らも乗せた真新しい電車は、なめらかにレールの上を走っていて、あっという間に時速100kmに達していました。決して豊かとはいえない人たちでさえ、発展の恩恵にあり付ける、そんな光景もありました。

首都北京は地下鉄の路線が網の目のように張り巡らせています。



かつて旅したときは西安の地下鉄が工事中でした。現在は完成しています。そして、今はウイグル自治区のウルムチでも地下鉄を建設しています。中国の発展スピードは侮ることができません。

◆親切な中国

こうやって中国の不満を書き連ねると、そこに住む人まで敵意を向けてしまいそうになりますが違います。中国の人って意外と親切なんです。

バスターミナルを探していました。降りた場所なので見当はつくのですが見つかりません。こういう時は地元の人に訊くのが一番です。ただ、言葉に自信がありませんでした。でもここは漢字の国、筆談でコミニケーションができます。荷物を下ろしてメモ帳に「長途汽車駅」と書いて、よしっと顔をあげたら、こっちの様子を伺うおっちゃんと目が合いました。こうなったら話は簡単、おっちゃんにメモ帳を見せると「あぁ、バスターミナルか」と中国語の説明は難しかったのですが、方向を指差してくれたので位置は分かりました。日本人だなんて関係ありません。困っている人には親切にしてくれます。

滞在中には地元の銭湯にも入ったのですが、お店の人はそわそわして落ち着きがありません。謎の外国人到来にちらちらと戸惑いの視線を投げかけてきます。耐えかねて「お前どこから来たんだ」とお店の人が訊くので「日本人だ、ちょっと旅行している」と旅の事情を説明。正体が掴めたのもあって、お店の人も頬を緩めました。その後は他愛のない雑談。旅の醍醐味はこうした地元の人とのふれあいだったりします。

昔の旅では一緒にカラオケにも行ってますしね。



中国共産党が政府を維持するためには、日本という敵が必要でした。人民の不満が外に向けないといけません。中国の人だって共産党政府の掌で踊っているに過ぎません。自由な言論が保証されたとき、中国の人が何を語るのかを楽しみにしています。

◆交差する文化

北京では食堂に入るとお客さんが温かそうな麺料理を食べていました。雨も降って冷え込んでいたので、同じものが欲しくて「同じ料理を食べたいのだけど、あれは何?」と尋ねると「チンジャオロースミエンね」と聞き覚えのあるフレーズを口にします。青椒肉絲(チンジャオロース)の麺(ミエン)ということでした。回鍋肉(ホイコーロー)、棒棒鶏(バンバンジー)、麻婆豆腐(マーボードウフ)、炸醤麺(ジャージャーメン)と中国料理は日本にも浸透しているんですよね。

一方で日本文化も中国に入っていて、商店のレジの前とかには招き猫が置いてたりします。



日本の漫画もありました。



日本クオリティを前面に押し出した「メイソウ(名創優品)」という雑貨屋も流行っていました。次回の反日デモでどう立ち振る舞うのか気になっています。



このように両国の文化がクロスしていることで、日本と中国が隣国であることを強く実感するのでした。

仲良くしようが喧嘩しようが中国は隣国であり続けます。だからこそ知らないといけません。どのような感情を抱くにしても百聞は一見にしかず、現地でしか分からないこともあります。

(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン

自転車世界一周取材中 http://shuutak.com

Twitter @shuutak)