大差にはなったものの、ひたむきさを示した三谷水産

 学校の事情や状況によって、必ずしも同じ条件で話す戦いになることもあるのも高校野球だ。実習の授業もあって、全員が揃ってグラウンドに集まって練習できないだけではなく、遠洋航海に出れば何日もチームから離れなくてはならないこともあるという三谷水産(みやすいさん)。それだけでも大きなハンデとなる。

 これに対して豊橋南は、東三河では陸上部の強豪として知られているだけに、野球部はやや遠慮がちにグラウンドを使用しているという。それでも、ある程度部員も集まってきており、チーム作りとしてはやりやすいであろう。

 ところで、豊橋南の藤城 賢監督は前任が三谷水産だった。そして、三谷水産時代に、今の三谷水産が使用している胸に漢字で「三水」と書かれた、かつて甲子園を席巻した沖縄水産に酷似したデザインのユニフォームを考案した人でもある。ちなみに、現在の豊橋南の頭のmを大きく表記して筆記体で「minami」と書かれた、愛工大名電を多少意識したようなユニフォームも藤代監督が考案している。こうした、ユニフォームに関する拘りを監督が示しているのもまた、高校野球の楽しさとも言えよう。

 試合は、先攻の豊橋南が立ち上がりから5人連続四球で2押し出し。さらに2番手として三塁からマウンドに立った背番号4の金澤君に対しても、棚橋君の安打で得点し、失策も連続的に重なって、打者15人の猛攻となって、とどめは3番杉浦君の右中間三塁打でこの回10点が入った。

 正直これで試合の行方は決してしまったかの感もあった。豊橋南はさらに、2回にも菅谷君の右越二塁打や4番渡邉 七瀬君の三塁線二塁打などで3点。3回にも二死一二塁から菅谷君の今度は左中間を破る三塁打で2点を追加。5回にもさらに打者10人で6点を追加して何と21点を奪い大勝した。

 これだけ点差がついてしまうと、どうしても内容としても間延びした感じになってしまうのも否めない。片方の攻撃時間だけがやたら長いというのも、見ている側としては疲れるかもしれない。だけど、それを払しょくするかのように、三谷水産の選手たちはひたむきにプレーしていっていた。その姿勢がよかった。だから、これだけの大差になりながらも、さまざまなハンデのある中で取り組んできた三谷水産を称える拍手がスタンドを包んだのは清々しかった。こういうこともまた、高校野球の素晴らしさと言っていいだろう。

 (文=手束 仁)

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