聖徳学園高等学校(東京)

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勉強も野球も、全力で打ち込めるチームであることを知ってほしい

 かつて関東高校という校名で都内の強豪として君臨していた聖徳学園。関東高校のOBといえば、広島東洋カープの江藤 智氏が挙げられ、大会では何度も上位に顔を出すほどのチームだった。

 しかし1991年に聖徳学園に校名変更後は進学を重視。部員数も減り始め、一時は大会に出られない時期もあった。そんな苦難を乗り越えて、現在は23名で夏に向かっている。そして今年、上位進出を狙えるチャンスがきた。プロ注目の左腕・長谷川 宙輝の存在。指導者、選手たちはモチベーションを高め、上位進出を伺っている。

まずは基礎作り そして練習試合が最大の練習

打撃を見る中里 英亮監督(聖徳学園高等学校)

 都内の学校はどうしてもスペースが限られてしまう。そのため公立・私立問わず、練習場がない。内野ほどの広さしかない学校は数多くある。聖徳学園もその1つで、学校のすぐ近くにグラウンドがあるのだが、住宅街の近くにある聖徳学園のグラウンドは、内野ほどの広さしかない。それでも選手たちはその環境下でも活気ある練習を見せていた。

 練習内容を見ると、全体で集まった練習は少ない。選手1人1人が個別の練習を行っていた。これは関東高校のOBで、聖徳学園になってから監督を務めている中里 英亮監督の方針によるものだ。

「まずは基礎作りといいますか、打ち方、投げ方、捕球の仕方などの基礎ができるように、基本練習が多いですね。また土台となるものが大事なので、体作り、体幹トレーニングなど野球選手の基礎を作っていく体作りもやっていきます。うちではまず型というものを覚えて、そして体作りも並行してやっていくことを重要視しています」

 またグラウンドが狭いため、実戦練習がどうしても少なくなってしまう。さらに進学重視の学校の方針のため、練習時間は2時間で終わってしまう。限られた中で行うため、ノックもテンポよくできるようマシンを使ったノックを行っている。ただマシンでは、人が打った打球と比べるとどうしても違いがあるので、週何度か、中里監督がノックを打っている。聖徳学園がノックで大事にしているのは、いかにしてギリギリのところを捕れるか、捕れないかの球際だ。

「正面の打球は重ねていけば捕れるようになりますが、試合になればギリギリの打球が多くなる。そこで、限られた練習時間の中で、ギリギリの打球を捕ることをイメージして練習できるかですね」

 ギリギリの打球を捕ることをイメージしながら取り組んで、それを練習試合で実践出来るかを確認する。そのような確認作業を行いながら、聖徳学園は少しずつ力をつけてきた。

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指導者の話を聞く長谷川 宙輝、竹内 栄輝のバッテリー(聖徳学園高等学校)

 練習を見ていても、それぞれの選手たちが黙々と練習に取り組んでいるが、数年前までは、これは当たり前ではなかった。「僕は20年ぐらいここの監督にやっていますけど、部員がいなくて2年ぐらい出られなかったときもありますし、部員も10人がやっとの時、そして他部活から選手を借りて出場をしていた時もありました。また選手たちも意欲的に取り組む選手ではなく、塾があって、部活を休むなど。そういうときが15年ぐらい続いていました。野球部らしくなったのは本当にここ最近です」

 選手たちが意欲的に、活気ある練習ができている最大の理由は、エース長谷川の存在だ。「長谷川がストイックに練習に取り組む姿勢に刺激を受けてきたのが1つ。そして長谷川のおかげで強豪校と練習試合ができるようになり、強豪校と練習試合をすることで、選手たちのモチベーション、意識は明らかに変わってきました」(中里監督)

 今でこそ140キロ中盤の速球を投げられる剛腕左腕の長谷川だが、入学当初からそうではなかったという。「出ても120キロそこそこ。170センチで、体重も50キロぐらいしかなかった投手でしたね」しかし長谷川の能力は、歴代の聖徳学園の選手たちと比較してもずっと高かった。

「彼を初めて見たのは中学の時。球は速くないけど、キレがあり、カーブでストライクが取れる投手でした。うちにしてはかなりのレベルの選手でしたので、プロ入りを目指して、いろいろと取り組んできましたよ」

 中里監督は技術面、トレーニング面と多岐にわたって長谷川を指導したが、一番力を入れたのは自分の指導を受け入れる心、ストイックに取り組める頭脳を作ることだった。「最初はアイツが思っている野球観があるので、なかなか聞き入れてもらえなかった時期もありましたけど、公式戦で悔しい負けを経験するごとに変わってきました。今は自覚を持って取り組んでいるので、特に言うことはありません」

 メニューを任されるまでに成長した長谷川は、自慢の速球とキレのある変化球で強豪校と練習試合をしても三振を量産。そんなストイックなエースを見て、ナインも変わっていったのだ。

 では今年はどんな選手がいるのだろうか。まず正捕手で、主将を務める竹内 栄輝。竹内については中里監督は「肩も強く、キャッチングも良い。長谷川の能力を引き出したのは間違いなく彼。打ってもさく越えの本塁打もありますし、この大会で多くの方々に彼の良さを知ってほしいですね」と期待を込める。そしてその竹内についても、「大学で続けられるほどの技量を持った選手」と高く評価をしている。

 また勝負強く、打点も多い下別府 佳吾(3年)は181センチ78キロと恵まれた体格を誇る強打者。その他にも攻守の中心で、さらに勉学優秀な遊撃手・金子 絢哉(3年)、長谷川の影に隠れているが、「練習試合でも2ケタ奪三振をする時もあって、面白い投手ですよ」と中里監督が話す左腕・勝屋 紬(3年)も注目だ。

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体幹トレーニングをする選手たち(聖徳学園高等学校)

 今春は都大会でも上位を目指したが、代表決定戦で世田谷学園に逆転負け。エラーが絡んでしまったが、中里監督は個人を責めず、「これはチーム全体の取り組みが甘いと気付かされた試合でしたね。そこから選手たちは少しずつ変わってきています」と手応えを感じている。また主将の竹内は、「勝てるだろうという甘さが出た試合ですね。先を見てしまうのが悪い癖なので、それからは目の前の試合を全力で戦うことを心掛けました」

 その結果、練習試合でも強豪校相手に競り合いを演じたり、勝利するようになった。夏に勝つためにはどんな意気込みで臨んでいこうと考えているのだろうか。「自分たちの良い部分を出すことができれば勝ち、悪い部分が出れば負ける。その悪い部分を出さないようにするにはどうすれば良いかを選手たちと話し合った結果、悪い部分が出ることが少なくなり、練習試合で勝利することも多くなりました」

 どう戦えばよいのかが分かってきたという聖徳学園ナイン。初戦は都立多摩工との対戦が決まっているが、「相手は関係なく、自分たちの力を発揮するだけです」と意気込んでいる。

 最後に、聖徳学園のどこをアピールしたいのかを伺ったところ、「勉強も、野球も頑張れる学校であること」という答えが返ってきた。中里監督はこう話す。「今までは、野球があると勉強ができないので大学に行けないと言われていたのですが、今の野球部の選手たちは勉強もできる子が多いんです。うちは野球だけじゃない。勉強もやる、学校の活動も行う。むしろうちは勉強ができなければならない立場。

 今年は実際に頑張っている選手も多いですし、聖徳学園はそういう野球部であることを、多くの人に知ってもらいたいですね。それから、関東高校の時は甲子園には行けませんでしたが、上位に行けるチームで、江藤だけではなく、次のステージで続ける選手が多かった強いチームでした。また別の形でこの野球部を復活できたらと思います」

 勉強という意味で、聖徳学園ナインは野球ノート以外の勉強ノートをとっている。選手たちの勉強ノートを見せてもらったところ、数学、科学の公式、漢字、英語の単語などが書かれていた。常に勉強することを習慣づけ、両立できる選手になるための努力は怠っていない。

 今年は國學院久我山、東海大菅生と同ブロックという、厳しいブロックに入った。強い野球部であることを示すには、結果は確かに大事だろう。だが、人々の心を動かす野球というのは単に結果だけではない。何事にも一生懸命に打ち込み、勝利を目指して、最後まで力の限り尽くす姿が人々の心を打つのではないだろうか。今年の聖徳学園には、それができる力は間違いなくある。

(取材・文/河嶋 宗一)

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