LGBT当事者に聞く「メディアからの取り上げられ方」の問題点
2015年11月に渋谷区で始まった「パートナーシップ証明書」の交付は、「同性婚」の世間に対する認知度を上げ、「LGBT」と呼ばれる性的マイノリティの人たちに社会が視線を向ける大きな出来事となった。そしてこの動きは世田谷区でも始まり、今後は伊賀市や宝塚市でも始まろうとしている。(インタビュー前編はこちら)
その交付第一号であり、同性愛や同性婚についてのリアルをつづった『同性婚のリアル』(ポプラ社刊)の共著者の一人である東小雪さんは、新刊JPのインタビューに対して、LGBTをめぐる現状に対して丁寧に説明をしてくれた上で、「少しずつ理解は深まっているものの、まだまだマジョリティとの差が埋まっていないところがある」と訴える。
それは、おそらくメディアの取り上げられ方にも一つ原因があるのだろう。世間がLGBTへの理解を深めるためには、正しく情報が流れていくことが必要だ。東さんはそんなメディアの報道の仕方にどのようなことを感じているのだろうか。
(取材・構成/金井元貴)
■LGBT当事者はメディアからの取り上げられ方についてどう思うのか
――メディアによるLGBTの取り上げ方について率直なお話をお聞きしたいです。これについては3つの視点があると思っていて、1つ目は「報道」でのLGBTの扱われ方です。ある意味「腫れものに触る」ようなところがあると思うのですが、いかがですか?
東小雪さん(以下敬称略):報道におけるLGBTの取り上げ方は、少しずつ良くなってきているように思います。2013年頃だったと思うのですが、雑誌は「LGBT」という言葉を使うのに、新聞には「LGBT」と載らないことがあったんです。記者の方に「なぜですか?」とうかがったこともあったのですが、現在では新聞でも「LGBT」という言葉が使われるようになりました。報道を通して言葉や理解が広まっていくことは大切だと思いますし、「LGBT」の文字を新聞の紙面で初めて見たときのことは今でも覚えています。
取材を受けた記事の中には丁寧さを欠いた表現があったり、「これが出ちゃったんだ…」と残念に思うこともたくさんありました。それはやはり、記者の方のLGBTに対する理解が足りないところがあったと思います。でも、今では安心してお話をすることができますし、政治家の同性愛者に対する差別的な発言も数年前まではスルーされていたのが、最近では問題視されるようになってきました。それは大きな変化だと思いますね。
――2つ目は「芸能界」、特にバラエティ番組ですね。マツコ・デラックスさんやIKKOさんなど、いわゆる「オネエ系タレント」といわれる方々が活躍されています。そういった方々もLGBTの理解に対しての一つの鍵になるのかなと思うのですが。
東:「オネエ系タレント」の方々は華やかですし、服装も話し方も特徴的です。面白いことを瞬時に言えます。そういう意味でやはりタレントさんなのだなと思います。
オネエ系タレントのような人たちがイコール同性愛者かというと、必ずしもそうではありません。学校の先生にも、お店の店員にも、普通の会社にもいます。要するに「普通」の人たちなんですね。テレビで活躍している方々は確かに目立ちますが、LGBTのイメージとしてそれをそのまま鵜呑みにしてほしくないという思いはあります。ただ、ああいった方々が社会に発信する力を持っているのは日本独特の文化。それはとても面白いですよね。
――3つ目は文学や映画での取り上げられ方です。「LGBT」は、人間を描く上での一つのテーマになると思うのですが、まだそういう作品は日本には少ないように感じるのですね。海外では、例えばアメリカの『ウォールフラワー』という映画では主人公の良き兄貴分が同性愛者であったりと、さまざまな形で登場します。そういった文学的、文化的なものの中にLGBTが当たり前のように描かれるようになれば、変わってくるのではないかと思うのですが。
東:おっしゃる通りだと思います。私は特にレズビアンのアーティストや映画監督など、いろいろな才能が出てくると良いなと思うんですね。また、最近面白いなと思った、同性愛者ではない人が同性愛を描いた小説があって、それが小川糸さんの『にじいろガーデン』という作品です。そういった形で描かれることも大事ですし、当事者も才能をもっと発揮できれば、LGBTに対する理解も多面的に深まっていくと思いますね。
■レズビアンとゲイのカップルの違いとは?
――本書で東さんと増原さんは、ゲイのカップルと対談されていますよね。同性愛でもやはり男女の差は大きいということが分かったのですが、実際にお話しされて一番違うところはなんだと感じましたか?
東:やはり、子どものことですね。家族をつくったり、子どもを持つことについて、ゲイの方は自分がゲイだと気づいたときに諦めてしまうんです。それはおそらく、周囲に子育てをしているゲイカップルがいないから想像ができない、というところが大きいように思います。
レズビアンの私も、最初は子どもができないと思ったんです。でも、レズビアンのカップルで子どもを育てている方がいらっしゃって、そういった姿を見たり、実際に話を聞いたりすることでイメージがしやすくなりました。ゲイのコミュニティの中ではそういうケースはまだとても少ないですが、今後いろいろな情報がゲイの間に共有されていくことで、変わってくると思いますね。
――今日お話をうかがっていて、孤立しないことが大切だと思いました。
東:そうですね。仲間に支えてもらうことも大切ですし、先輩たちの姿を見ることも大切です。それは特に10代、20代の若い世代にとっては重要なことですよね。
――この『同性婚のリアル』は、自分が同性愛者であることに気づいて悩んでいる方々が参考にする、モデルケースみたいな本でもありますね。
東:SNSを通して「自分もこんなふうになれるかもしれないと思いました」という感想をいただきました。今現在、そのことで悩んでいたり、傷ついていたりする人はたくさんいますが、私はその一人ひとりを助けることは残念ながらできません。ただ、私にできることがあるとしたら、それは私たち2人が仲良く幸せで、レズビアンであっても社会の中で幸せに生きていけるということをきちんと示すことです。だからこの本を読んで、私たちのことを知ってもらい、「こういうふうに生きたいな」と思ってもらえれば嬉しいですね。
(了)
■東小雪さんプロフィール(写真左)
1985年、石川県金沢市生まれ。元タカラジェンヌ、LGBTアクティビスト、LGBT研修講師。企業研修、講演、テレビ・ラジオ出演、執筆など幅広く活躍中。
著書に『同性婚のリアル』(ポプラ社)、『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(講談社)、『ふたりのママから、きみたちへ』、『レズビアン的結婚生活』。LGBT初のオンラインサロン「こゆひろサロン」運営。
ブログ:元タカラジェンヌ東小雪の「レズビアン的結婚生活」
その交付第一号であり、同性愛や同性婚についてのリアルをつづった『同性婚のリアル』(ポプラ社刊)の共著者の一人である東小雪さんは、新刊JPのインタビューに対して、LGBTをめぐる現状に対して丁寧に説明をしてくれた上で、「少しずつ理解は深まっているものの、まだまだマジョリティとの差が埋まっていないところがある」と訴える。
(取材・構成/金井元貴)
■LGBT当事者はメディアからの取り上げられ方についてどう思うのか
――メディアによるLGBTの取り上げ方について率直なお話をお聞きしたいです。これについては3つの視点があると思っていて、1つ目は「報道」でのLGBTの扱われ方です。ある意味「腫れものに触る」ようなところがあると思うのですが、いかがですか?
東小雪さん(以下敬称略):報道におけるLGBTの取り上げ方は、少しずつ良くなってきているように思います。2013年頃だったと思うのですが、雑誌は「LGBT」という言葉を使うのに、新聞には「LGBT」と載らないことがあったんです。記者の方に「なぜですか?」とうかがったこともあったのですが、現在では新聞でも「LGBT」という言葉が使われるようになりました。報道を通して言葉や理解が広まっていくことは大切だと思いますし、「LGBT」の文字を新聞の紙面で初めて見たときのことは今でも覚えています。
取材を受けた記事の中には丁寧さを欠いた表現があったり、「これが出ちゃったんだ…」と残念に思うこともたくさんありました。それはやはり、記者の方のLGBTに対する理解が足りないところがあったと思います。でも、今では安心してお話をすることができますし、政治家の同性愛者に対する差別的な発言も数年前まではスルーされていたのが、最近では問題視されるようになってきました。それは大きな変化だと思いますね。
――2つ目は「芸能界」、特にバラエティ番組ですね。マツコ・デラックスさんやIKKOさんなど、いわゆる「オネエ系タレント」といわれる方々が活躍されています。そういった方々もLGBTの理解に対しての一つの鍵になるのかなと思うのですが。
東:「オネエ系タレント」の方々は華やかですし、服装も話し方も特徴的です。面白いことを瞬時に言えます。そういう意味でやはりタレントさんなのだなと思います。
オネエ系タレントのような人たちがイコール同性愛者かというと、必ずしもそうではありません。学校の先生にも、お店の店員にも、普通の会社にもいます。要するに「普通」の人たちなんですね。テレビで活躍している方々は確かに目立ちますが、LGBTのイメージとしてそれをそのまま鵜呑みにしてほしくないという思いはあります。ただ、ああいった方々が社会に発信する力を持っているのは日本独特の文化。それはとても面白いですよね。
――3つ目は文学や映画での取り上げられ方です。「LGBT」は、人間を描く上での一つのテーマになると思うのですが、まだそういう作品は日本には少ないように感じるのですね。海外では、例えばアメリカの『ウォールフラワー』という映画では主人公の良き兄貴分が同性愛者であったりと、さまざまな形で登場します。そういった文学的、文化的なものの中にLGBTが当たり前のように描かれるようになれば、変わってくるのではないかと思うのですが。
東:おっしゃる通りだと思います。私は特にレズビアンのアーティストや映画監督など、いろいろな才能が出てくると良いなと思うんですね。また、最近面白いなと思った、同性愛者ではない人が同性愛を描いた小説があって、それが小川糸さんの『にじいろガーデン』という作品です。そういった形で描かれることも大事ですし、当事者も才能をもっと発揮できれば、LGBTに対する理解も多面的に深まっていくと思いますね。
■レズビアンとゲイのカップルの違いとは?
――本書で東さんと増原さんは、ゲイのカップルと対談されていますよね。同性愛でもやはり男女の差は大きいということが分かったのですが、実際にお話しされて一番違うところはなんだと感じましたか?
東:やはり、子どものことですね。家族をつくったり、子どもを持つことについて、ゲイの方は自分がゲイだと気づいたときに諦めてしまうんです。それはおそらく、周囲に子育てをしているゲイカップルがいないから想像ができない、というところが大きいように思います。
レズビアンの私も、最初は子どもができないと思ったんです。でも、レズビアンのカップルで子どもを育てている方がいらっしゃって、そういった姿を見たり、実際に話を聞いたりすることでイメージがしやすくなりました。ゲイのコミュニティの中ではそういうケースはまだとても少ないですが、今後いろいろな情報がゲイの間に共有されていくことで、変わってくると思いますね。
――今日お話をうかがっていて、孤立しないことが大切だと思いました。
東:そうですね。仲間に支えてもらうことも大切ですし、先輩たちの姿を見ることも大切です。それは特に10代、20代の若い世代にとっては重要なことですよね。
――この『同性婚のリアル』は、自分が同性愛者であることに気づいて悩んでいる方々が参考にする、モデルケースみたいな本でもありますね。
東:SNSを通して「自分もこんなふうになれるかもしれないと思いました」という感想をいただきました。今現在、そのことで悩んでいたり、傷ついていたりする人はたくさんいますが、私はその一人ひとりを助けることは残念ながらできません。ただ、私にできることがあるとしたら、それは私たち2人が仲良く幸せで、レズビアンであっても社会の中で幸せに生きていけるということをきちんと示すことです。だからこの本を読んで、私たちのことを知ってもらい、「こういうふうに生きたいな」と思ってもらえれば嬉しいですね。
(了)
■東小雪さんプロフィール(写真左)
1985年、石川県金沢市生まれ。元タカラジェンヌ、LGBTアクティビスト、LGBT研修講師。企業研修、講演、テレビ・ラジオ出演、執筆など幅広く活躍中。
著書に『同性婚のリアル』(ポプラ社)、『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(講談社)、『ふたりのママから、きみたちへ』、『レズビアン的結婚生活』。LGBT初のオンラインサロン「こゆひろサロン」運営。
ブログ:元タカラジェンヌ東小雪の「レズビアン的結婚生活」