「世界一貧しい大統領」ホセ・ムヒカ来日 経済格差を「愚かな過ち」と批判

写真拡大 (全5枚)

「世界一貧しい大統領」が日本にやってきた。

所得のおよそ9割を寄付、自身はオンボロのワーゲンに乗り、月10万円ほどでつつましく暮らすことで話題になった元ウルグアイ大統領、ホセ・ムヒカ氏が初来日。6日午前、千代田区内で記者会見を行った。

ムヒカ氏については、2012年にリオで行われた「国連持続可能な開発会議」でのスピーチがあまりに有名だ。

「私たちは消費社会をコントロールできておらず、私たちが消費社会にコントロールされている」と、現代人の生活スタイルと経済のあり方について強い問題提起を示したこのスピーチはまたたくまに世界中に広がり、彼の生き方や考え方は大きな共感を呼んだ。

惜しまれつつ大統領を退いてから1年ほど。今日の会見でもその言葉の力は健在だった。ここでは特に筆者の印象に残ったムヒカ氏の言葉を紹介する。

独裁政権に対抗する反政府ゲリラとしての活動から4度の投獄、13年もの獄中生活を経て下院議員となり大統領となった気骨の闘士の言葉は簡潔だが、重い。

◇    ◇    ◇


「長い歴史を持つ日本について、昔から興味を持っていました。もう80歳ですから観光のためだけに26時間も飛行機に乗って長旅をしようとは思いません。日本に来たのは、日本から学びたいからです。日本は優れた工業先進国で、世界でも有数の国です。だからこそ、日本には“世界の将来はどこに向かっているのか、人類の将来はどこに向かうのか”という質問をしたいと思っています」

会見の冒頭で、日本についての印象を述べたムヒカ氏は、質疑応答で国交回復に向かうアメリカとキューバについて、オバマ大統領のキューバ訪問の実現に尽力したことについて聞かれると、深刻な人権侵害で悪名高いグアンタナモ収容所についてこんなことを話してくれた。

「グアンタナモという恥ずべき刑務所に収監されている人々をどうにかすべきだとオバマには話しました。オバマにもその意志は強くあるようでしたが未だに解決できていません。難しい問題ですが、私たちは常に世界を平和に導く解決策を模索しないといけません。そうでない限り、犠牲になるのはつねに弱者です」

今は若干薄れつつあるが、かつては反米の気風が強かったラテンアメリカの政治家だけに、オバマ本人にもいい印象を持っていないのかと思いきやそうでもないようだ。

「オバマとは3度会いましたが、頭が良くすばらしい人という印象でした。彼が率いるアメリカ政府よりも頭がいいと感じましたが、アメリカという国において大統領ができることは他の国よりも限られているのかもしれません」



また、5年間ウルグアイの大統領を務めたムヒカ氏は、リーダーとして大切にしていることを問われると、

「“私たちは今幸せに生きているのか”ということを常に考えることです。私たちは多くの富を抱え、科学技術が進歩した時代に生きています。150年前と比べて人間の寿命は40年も伸びた一方で、軍事費に毎分200万ドルもかかるようになり、世界で最も裕福な100人ほどが人類の富の半分を所有するようになってしまいました。こうした不均衡を作りあげたルールが支配する世界になっています。若い人には私たちの愚かな過ちを繰り返さないでいただきたいです」

その後、ムヒカ氏の話は人間の幸福と人生のあるべき形についてに移り、こんな言葉を残してくれた。



「エゴはある意味で競争を助長し、それは様々な進歩をもたらしましたが、同時に危険なほど大きな野心も生みました。その野心の中身を忠実に実現すれば、全ては破壊されるでしょう」(人間のエゴについて)

「私は修道士のように生きろと言っているわけではありません。富に執着するあまり絶望に駆られる人生を送ってほしくない、ということです。ささいなことではあっても人間にとって本当に重要なもの、たとえば愛であったり、子どもを育てることであったり、友達を持つこと、そういうことのためにこそ人生の時間を使ってほしいと思います。生きていること自体が奇跡なのですから」(人生と幸福について)

会見では、この他にもオバマのキューバ訪問の実現に際して、オバマからのメッセージをキューバの指導者、ラウル・カストロに伝えたエピソードや、自身が大統領在任中に実現したウルグアイでのマリファナの合法化など、質疑に応えるかたちで様々なトピックについて自身の考えを話したムヒカ氏。



今回の会見は政治的な意味合いではなく、自身の波乱の人生を追ったドキュメント『ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領』(大橋美帆訳、角川書店刊)の発売記念ということで、妻のルシア・トポランスキさんや、同書の著者であるアンドレス・ダンサ氏、エルネスト・トゥルボヴィッツ氏らとともに登場。

報道陣のカメラのシャッター音に時折戸惑った顔を見せつつも、終始穏やかなムヒカ氏だった。
(新刊JP編集部)