【アスリートWATCHing〜腕時計から見るスポーツの世界】

 最近のスポーツ中継を見ていると、試合時に腕時計を着用しているアスリートが増えたことに気がつく。顕著なのはゴルフとテニス。どちらも対戦相手との肉体的なコンタクトがない競技なので、腕時計をつけてプレーすること自体はルール違反ではないようだが、「そもそもプレーに影響はないのだろうか?」という率直な疑問が湧いてくる。

 そんな折、疑問を解くチャンス到来。腕時計を着用するプレーヤーに話を聞く機会が訪れたのだ。プロゴルファーの宮里優作選手。彼の場合は、試合中も腕時計を見ているそうだ。

 ゴルフはメンタルスポーツでもあるので、自分の心理状態を的確に把握することが必要となる。緊張やプレッシャーを跳ね除けるのではなく、上手に付き合い、緊張感を受け入れたうえでプレーするのだと言う。

 その際に「緊張しているか否か」を計る指標として、腕時計を使うのが宮里流。たとえばスタート前に、頭の中で5分間を計測してみる。実際の5分間よりも短ければ「緊張している」し、逆に長ければ「緩んでいる」と判断するそう。さらに大切なプレーの前には、しっかり時間を使って慎重に打つのだが、その際も腕時計を見ながら、時間をマネージメントするそうだ。

 このアイディアはメンタルトレーナーの発案。そこでプレー中につけられる腕時計を探したのだが、重さやフィット感の面で満足できるモノには出会えなかったと言う。しかし、2015年からリシャール・ミルのパートナーとなり、同様にパートナーを務めるアメリカのプロゴルファー、バッバ・ワトソンのシグネーチャーモデル『RM 055』を身につけるようになった。このモデルは軽くてフィット感に優れているため、まったくスイングの邪魔にならなかったという。この腕時計との出会いによって、宮里選手のプレーに、よいリズムが生まれるようになったのだ。

 さて宮里選手は、時間を計ることでメンタルを整えるが、一方で腕時計はつけるが時間は見ないというのが、テニスプレーヤーの錦織圭選手である。

 彼は現在タグ・ホイヤーのアンバサダーを務めているが、彼の場合はジュニア時代から腕時計をつけて試合に臨んでいた。というより、練習中も休暇中も、食事中だって腕時計を着用している。寝る時さえも腕時計を外さないというから筋金入りだ。

 つまり錦織選手の場合は、腕時計をつけること自体がルーティーンになっているということ。つけている状態が普通なので、逆に腕時計を外してプレーすると、調子が狂ってしまうそうだ。ちなみに試合中に時間を見ることはないというから、もはや腕時計というよりも『お守り』の域に入っている。強いプレッシャーがかかる試合で戦い抜くための強いメンタルを支えるのは、チームとコーチと腕時計なのである。

 ちなみに彼が試合中に着用しているのは、タグ・ホイヤー『プロフェッショナル スポーツウォッチ』というモデルで、ケースの裏側がベルトのバックルになった特殊構造。非常に軽量なうえに、左リューズで着用感に優れているため、アスリートのパフォーマンスを妨げることはない。

 トップアスリートが試合中に時計を着用するのは、まぎれもなくプロモーション活動の一環なのだが、宮里選手も錦織選手も、腕時計をつけることで自分自身のパフォーマンスを高めている。一見すると"商業主義の権化"にも思われてしまう行為だが、実は幸福な関係を結んでいるのである。

【profile】
■宮里優作(みやざと・ゆうさく)
1980年沖縄県生まれ。言わずと知れた宮里三兄弟の次男。ジュニア時代にタイトルを総なめにし、2003年にプロデビュー。プロ転向11年目で掴んだ初優勝で見せた涙に、多くのファンが感動した。300ヤード超えの豪快なドライブが魅力。2015年からリシャール・ミルのパートナーに就任

■錦織 圭(にしこり・けい)
1989年島根県生まれ。ジュニア時代から頭角を現し、2003年からフロリダのIMGアカデミーにテニス留学。2007年にプロに転向。再三のケガにも悩まされたが、研鑽を積み重ねることで世界ランキングを上げ、現在は6位。ツアー9勝。2012年からタグ・ホイヤーのアンバサダーに就任。

篠田哲生●文 text by Shinoda Tetsuo