ユニクロ躍進にブレーキの要因
驚異的な成長を続けてきたユニクロに危機到来
現代ビジネスによると「2015年6月の国内売上高が、前年比マイナス11・7%」。記事では「飽きた」「高くなった」「もう欲しい物がない」という見出しが付き、これまで驚異的な成長を続けてきたユニクロの危機を伝えています。ただ、ユニクロが落ち込むことは、今回が初めてではありません。大ヒットしたフリースが原因で大きく落ち込んだ過去があるのです。
バブルのころ、「安いこと」が恥ずかしいという時代がありました。まったく同じものでも、人より高く買ったことをプレミアが付いたと自慢するのです。今考えればバカバカしい時代ですが、そうした熱狂が終わると、時代はデフレ傾向に進み、良い品質の物をいかに安く買ったかが自慢の対象となります。そうした中で、数あるジーンズショップからユニクロが頭ひとつ抜け出した功績は、フリースに帰するでしょう。
ユニクロが着目したインナーウエアが大ヒット
15年前、ユニクロは新素材であるフリースを使ったジャンパーが大当たりしました。普通であれば数色のフリースを、50色以上から選べるようにしたからです。気に入った1着を使い続けるとくたびれてきますから、色違いで数着は欲しい。これだけ多色からコーディネートできるのであれば、組み合わせはいくらでも考えられます。ところが、売れすぎて同じフリースを着ている人が多くなり、「かぶりで恥ずかしい」と言われるようなってしまいました。
当時は業績の落ち目に加え、フォーエバー21やZARA、H&Mといったファッション性と価格を両立させた海外ブランドがどんどん入ってきた時代。そこで、ユニクロが着目したのは、新素材のインナーウエアでした。下着であれば外見上は分からないため、フリースのように周りを気にする必要がなくなります。暖かさを感じるヒートテックを使ったインナーを皮切りに、夏に着心地の良いエアリズムシリーズを提供しました。
同業者も「手頃な値段なのに高機能製品」で対抗
そうしたインナーが認知されるうち、驚きのアウターも登場します。数万円するはずのダウンジャケットを一万円以下で提供したウルトラライトダウンに、夏のクールビズに対応したドライライトウエイトジャケットです。そうした、機能性素材を提供するに従い、ファッションと日常使いとの隙間にスッポリとはまったことで再びユニクロの躍進が始まりました。
しかし、この隙間を同業が手をくわえて見逃すようなことはありません。イオンのトップバリュやセブンプレミアムが、手頃な割に高機能な製品で対抗し始めたのです。「ユニクロだけではない」という認識が消費者の間で広がったことが、記事冒頭の落ち込みの要因ではないでしょうか。
「競争軸を変える」だけで「異別化」は実現できる
高機能製品を価格競争の軸として打ち出しても、いずれは限界を迎えます。なにしろ、価格勝負は差別化であり、「異別化」にはなりえません。競争軸を変えるには、価格以外の要素を持ち出さなければなりません。打開策は、価格以外の何かです。たとえば、31日にはセブングループとユニクロの提携が発表されました。これも、競争軸を変える戦略です。
ほかにも、サービス面ではいくらでも競争軸を変えられます。すでにユニクロはモバイル会員になれば、商品をお得に手に入れられるといったサービスを実施しています。さらに、そのサービスに少しだけ手を加え、年間のお買い上げ額により優良顧客ランクをサービスに加えるのです。優良顧客であれば試着室を優先的に使える、並ばない専用レジを用意するなど、ちょっとした優越感が演出できます。このように「競争軸を変える」だけで、異別化が実現できるのです。
【木村 尚義:経営コンサルタント】
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