ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル 『ピーターの法則』(ダイヤモンド社)。政治家が「無能」になる理由も書いてあります。

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巨額の利益水増しが明らかになった東芝の不適切会計問題。
21日には経営トップが記者会見を開き、歴代3社長が辞任した。

「チャレンジ」と称して強要された収益目標。
上司の意向に逆らえない社内風土。
日本を代表する家電メーカーである。エンジニアを目指していた管理職もいるだろう。Excelとにらめっこするために入社したわけじゃない社員もいるだろう。

ここで思い出すのが『ピーターの法則』だ。

階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能レベルに達する。
やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる。
仕事は、まだ無能レベルに達していない人間によって行われている。

身も蓋もないが、思い当たるところがある。この法則は1969年に教育学者のローレンス・J・ピーターが提唱したもの。『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』に詳しく語られている。

昇進を続けると「無能」になる


有能なプログラマーだったのに、プロマネになってからは炎上続き。
現場が長かったせいか、主任になっても現場に口を出してばかり。
敏腕な課長だったのに、部長になったら本部長に怒られっぱなし。

社会人なら「あるある」な光景である。
会社のポストは階層式になっている。ある階層で優秀な業績を収めれば、さらに上の階層に昇進する。
しかし、有能なエンジニアが有能な課長になるとは限らないし、有能な課長が有能な部長になるとは限らない。
人は昇進を続け、やがて「無能」になるポジションに辿り着く。そこでピタッと昇進が止まる。

じゃぁ、ちゃんと上の階層の仕事ができる人を昇進させればいいじゃない、と思うのだが、そもそも昇進を決めるのが「無能」な上司なので、期待するのが難しい。

「無能」な上司にしてみると、有能な部下はスペシャルな存在。
組織の仲間を増やしたいので、気に入った部下を昇進させがちだ。

しかし、有能すぎる人材は組織で扱いづらい。
「無能」上司の手に余り、なかなか昇進しない。
やがて有能すぎる人材は昇進を諦めて自滅するか転職してしまう。

こうして社内のポストは昇進が止まった「無能」な人で埋まってしまう。これが「ピーターの法則」の主張だ。

「無能」にならないために「無能」を演じる


会社で働く限り、いつか自分も「無能」になってしまいかもしれない。
いやいや自分なんて昇進しないから、と思っていても、昇進を決めるのは「無能」な上司。昇進を面と向かって断るのも角が立つし、仕事に手を抜くと周りに迷惑がかかる。どうすれば。

大丈夫。ピーターの法則を使えば「無能」を避けることもできる。
社内にこんな人はいないだろうか。

仕事がすごい早いけど挨拶を全然返さない。
営業成績がそこそこいいけど伝票をよく無くす。
事務能力が高いけど不潔。

仕事以外のところでなんだか近づきたくない人たち。昇進からもちょっぴり遠い。
これを意図的に行えばいいのだ。
仕事以外の部分で、初めから昇進の話を持ちかけられないように工夫する。すでに「無能」レベルにいることを演じる。
ピーターの法則では「創造的無能」と呼び、昇進を避ける確実な方法と述べている。

しかしこの「創造的無能」、だいぶセコい。
挙げられている例も「机の引き出しを開けっ放しにして退社」「仕事部屋が常にグチャグチャ」「奇抜なファッションで出社」といった具合。
「なんで出世しないんだろうなぁ」とボヤきつつ、社長専用スペースに車を駐めたりするのだ。
コントにしか見えない。
でも、組織に従順になるあまり悪事に手を染めてしまうのも、笑えないコントだ。

『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』は、「無能」な上司との付き合い方、「無能」な上司を利用してあえて出世するテクニック、人類を「無能」から救う方法まで話が広がる。
「無能」レベルまで昇りつめないよう、創造的無能にチャレンジしてみてはどうだろう。

あ、チャレンジといっても、別に強要しているわけではないです。

(井上マサキ)