『不祥事』(池井戸潤/講談社文庫)。水曜ドラマ「花咲舞が黙ってない」の原作小説。

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「ときどき思うことがあるんですよ。誰も味方がいないとき、花咲みたいなやつがそばにいたらラクになれるんじゃないかなあって」(相馬健/上川隆也)

第2シリーズがスタートしたドラマ「花咲舞が黙ってない」(日本テレビ・水曜よる19時)。7月8日放送の第1話で、花咲舞(杏)と上司の相馬(上川隆也)が向かったのは日本橋支店。同店は投資信託の元本割れを巡り、顧客とトラブルになり、訴訟に発展しかねない深刻な状況に陥っていた。

事の発端は、半年ほど前にさかのぼる。佐藤B作演じる諸角社長は、顔見知りの銀行員・北原(片瀬那奈)に勧められ、3000万円の投資信託を購入。そのとき、「元本は保証する」「損はしない」と説明されたが、実際には半年後に解約したところ300万円の損失となる。話が違うと憤る諸角に対し、北原は「元本保証するとは言っていない」と反論。橋爪支店長(寺脇康文)も「言いがかりだ」と切り捨てる。

じつはすべては支店の成績を上げるために、橋爪支店長が命令し、やらせたことだった。「責任はすべて俺がとる」と言いながら、いざ問題が起きると知らん顔。北原に、責任をとって退職するよう迫る。
事実をもみ消し、強引に事態を収束させようとする橋爪支店長の前に、「お言葉を返すようですが」と舞が立ちはだかる。

「自己責任」を声高に叫ばない温かさと頼もしさ


支店長のパワハラにさらされた揚げ句、辞職に追い込まれた北原。気の毒だと思う反面、じつは自分のことしか考えてない……?と疑問に思う瞬間もあった。たとえば、「もし、嘘をついて投資信託を売ったんだとしたら、そんなの銀行員として許されませんよ」という舞の指摘に対し、「違う! そんなんじゃない。何も知らないくせに!」と感情的になる姿は、罪悪感の現れにも自己肯定にも見える。

「北原さんだから信用したのに!」と憤り、悲しむ中小社長にしてもそう。甘言に乗った自分のうかつさから目を背けてどうする。絶対減らしたくないお金を「知り合いに勧められたから」なんて理由で投資に突っ込んじゃダメだよ、社長! などツッコミどころは満載。

でも、花咲舞は自分のせいじゃん、と突き放さない。自己責任論を振りかざす代わりに「悔しいです…わたしもすごく悔しいです」と涙ぐむ。まっすぐに人の善意を信じて突き進む舞の言動は温かく、頼もしい。相馬の言葉ではないが、どうしようもなく追い詰められたとき、舞が近くにいたらどんなに心強いことか。週の半ばに会う相手としても最高です。

「弱くても言います」という戦闘スタイル


はびこる理不尽に「間違っています」と一石を投じる舞。でも、「お時給の分はしっかり働かせていただきます」の大前晴子(篠原涼子/ハケンの品格)や「上司のくせして部下を育てないあんたこと無能だ」の坪井千夏(江角マキコ/ショムニ)ら、歴代の楯突き系ヒロインと比べると決して、強気一辺倒ではない。

たいてい、序盤では言いたいことを我慢し、握り拳をブルブル震わせているし、「お言葉を返すようですが」と切り出すときも、決死の表情。権力をぶんぶん振り回すおじさんたちを完全にバカにしているわけではなく、むしろ怖がっている。怒鳴られるとビクッとなるし、目には怯えや迷いもある。でも、屈しない。黙れと言われても黙らない。そのけなげさがもう、グッと来るわけです。

さて、今夜放送の第2話ではいよいよ、新キャストの成宮寛貴が登場します。もう少し早く出てきてくれれば、初代・亀山薫VS三代目・カイトくんとの“相棒”対決も見られたのに……! それはさておき、今夜の舞と相馬が向かうのは五反田支店。支店長を演じるのは、小うるさいおじさん役で定評がある、俳優の金田明夫。どんないやったらしい態度で出迎えてくれるんでしょうか。楽しみ!
(島影真奈美)