広島優勝の可能性は「まだ十二分にある」 キーマン新井はなぜ復活したか
ともに8年ぶりの復帰となった黒田博樹とともに広島を牽引する新井貴浩
8年ぶりに広島に復帰した新井貴浩内野手が、復活といえる活躍を見せている。4番に座り、規定打席未満ながら22日現在で打率3割2分1厘、リーグ6位タイの32打点をマーク。左手甲の痛みで12日のソフトバンク戦から欠場していたが、20日のDeNA戦では「4番・ファースト」で復帰し、1安打2四死球で勝利に貢献した。チームは5位ながら、交流戦でのセ・リーグ球団の惨敗もあり、首位巨人とは3ゲーム差。新井、そして黒田博樹と今年から復帰した2人のベテランが中心となり、優勝も十分に狙える位置につけている。
2008年にFA移籍した阪神では苦しみ、メディアやファンから厳しい批判を浴びることもあった。昨年はゴメスとのレギュラー争いに敗れ、出場は94試合。大幅減俸の通告を受けて自由契約を申し入れ、プロのキャリアをスタートさせた広島に拾われた。
年俸2000万円(推定)での再出発。同じく8年ぶりに復帰した黒田とは全く違う形で広島に戻った。だが、12日のソフトバンク戦で6勝目を挙げた黒田が投手陣の大黒柱なら、新井は打線の軸としてチームに欠かせない存在となっている。
なぜ、新井は本来の姿を取り戻しつつあるのか。ヤクルト、日本ハム、DeNAでキャッチャーとして活躍し、2003〜08年にプレーした阪神では新井と1年間(08年)チームメートだった野球解説者の野口寿浩氏は「全部が全部、いい方向に向いてるんじゃないですか」と言う。
外国人選手の負傷もあり、4番を任されることが多くなった新井は、ここぞという場面での勝負強さが光っている。
「基本的に真面目ですからね。真面目なやつですから。元々、代打の1試合1打席で、ひと振りで(仕事をする)っていうタイプではないので。4打席立って、いいところで1本というタイプなので。4打席与えてあげられる今の環境というのは、新井にとっていいですよね。それに、拾ってもらった、戻してもらえたカープだから、恩義を感じてるでしょうからね」
「ホームランを狙って打たないほうがいいタイプ」、阪神では自分の形を失っていった!?
2005年には広島で43本塁打を放ち、ホームラン王のタイトルを獲得した。「大砲」というイメージもあるが、野口氏はその見方を否定する。
「そんなにホームランを狙って打たないほうがいいタイプですから。彼はヒットの延長がホームラン(という意識)で打ったほうがいいタイプなので。ホームランを狙って打とうとすると、どんどんバッティングを崩していく。右中間に二塁打を狙ってる方がいいんじゃないですかね。
大きく分類すればホームランバッターの部類に入るでしょうけど、そんなにたくさん一発を打てるイメージはないですよ。いいところで二塁打とかを打つイメージです。対戦していた時もそうだし、味方でやっていた時もそうでした」
その意識が欠けていたのが、阪神時代だったのかもしれない。メディアやファンからの注目度、そして見方が厳しい阪神で、新井が自分の形を失っていった可能性を野口氏は指摘する。
「おそらく、阪神ファンとメディアは長打を期待している。でも、(入団)1年目はホームランが8本だった。それで、新井に厳しくなってしまったんですよ。別に、現場としてはホームランは期待していない。つないで打てばいいんです。後ろを金さん(金本)が打っていたんだし。
でも、ホームランを打とう、打とうとして、どんどん成績が下がった。打たないと(周りから)言われちゃうものだから。阪神では、よっぽど周りの声が耳に入ってこないタイプ、入ってきても気にしないタイプの選手じゃないと(厳しい)」
広島ファンは、8年ぶりに戻ってきた新井を温かく迎え入れた。もちろん、黒田とは経緯が違うため、復帰に対して厳しい声も少なからずあった。ただ、自らのバットで封じていった。今や、黒田の1球1球に対する声援と同じように、新井の1本のヒット、1つの好プレーに、割れんばかりの大歓声が沸き起こる。
「精神的に解き放たれたのが一番」、技術的にも改善が見られる新井が優勝へのキーマンに
「カープファンの中では、あの2人はすでにレジェンドでしょうからね。(復帰して)最初は半々だったじゃないですか。『帰ってくるな』という意見もあった。それを自分で黙らせたわけですから。成績で。大したもんですよ。元々、人気選手でしたからね。それで人気も復活したわけですから」
広島でプレーし、精神面が充実してきたことで、技術的にも改善が見られるという。
「多少、楽に(バットを)振っている分、いい意味で振りが大きくなっている。縮こまった変なスイングじゃなくて、伸び伸びとした、前が大きい、いいフォロー(スルー)になっているように見えます。カープで成績を残した時に近いスイングになっている気がしますね。精神的に解き放たれたのが一番でしょう。来年には2000本(安打)もいくでしょうね」
野口氏はこう指摘する。まさに全盛期の姿を取り戻しつつある新井。金字塔へも残り97本と、達成が見えてきた。
交流戦では、開幕から首位争いを繰り広げてきた巨人とDeNAが大きく負け越した。5位・広島と首位・巨人のゲーム差はわずかに「3」。Aクラスどころか、優勝のチャンスも十分に残されている。
「新井はシーズン前に期待していた選手でした。心機一転、やってくれるんじゃないかと。新井が活躍することによって、周りの若手も引っ張られて、カープが行くんじゃないかと。それで、広島を優勝候補にしたんです。黒田の復帰じゃなくて、新井の復帰が理由で優勝候補に挙げました。でも、けが人続出で最下位。しかも、外国人が怪我するとは思わなかったんで」
野口氏はこう言って笑う。だが、手術を受けたエルドレッドが予想よりも早く復帰し、早くも存在感を発揮している。さらに、開幕後に補強したシアーホルツが戦力として計算できるようになったことから、打線は厚みを増した。野口氏は「広島にもチャンスは十二分にある」と付け加える。
左手甲の痛みを抱える新井だが、この先もキーマンとなることは間違いない。復帰した黒田と新井に引っ張られ、生きのいい若手も活発にプレーして、優勝を勝ち取る。広島ファンの悲願が現実になる可能性は、決して低くない。