エステーもスズキも会長は「鈴木」だが、親戚でもグループ会社でもない

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笑顔でハンドルを切る西川貴教(T.M.Revolution)のパッケージが話題の「クルマの消臭力」(エステー)。発売と同時にスタートしたキャンペーンがどうかしている。店頭実勢価格300円前後の車用消臭芳香剤の新発売を記念し、100万円以上するクルマをプレゼント。「人生で一番”クサかった”クルマのニオイ」のエピソードを投稿すると、オリジナルデザイン&カラーの「ハスラー」(スズキ)が当たるという珍妙なキャンペーンなのだ。

しかも、ハスラーは2014年日経MJヒット商品番付にランクインした人気車だ。2014-2015年次日本自動車殿堂カーオブザイヤー、2015年次RJCカーオブザイヤーもダブル受賞。酔狂にも思える、このキャンペーンはなぜ実現したのか。スズキ自販東京・執行役員の臼木康之さんに聞いた。

●何が当たるかはやってみないとわからない
──エステーのキャンペーンに協力しようと思った理由を教えてください。
臼木 うちが選んだというより、ハスラーが選ばれたという感覚のほうが近いですね。ちょっと迷ったのは、ハスラーは現在も入荷待ちが続いているクルマだという点です。発売当初の半年〜10ヵ月待ちに比べるとだいぶ落ち着きましたが、それでも3〜4ヵ月はお待ちいただいている。そんなクルマをプレゼントしちゃっていいものかと。

──たしかに「その分早く納品してくれればいいのに!」と言われそうです……。
臼木 最終的にはエステーさんにも、ほかのお客様と同じように納車を数ヵ月間待っていただくという前提でOKしました。オリジナルデザインやカラーリングを施す前のクルマができあがったのは4月下旬ぐらい。ギリギリセーフといった感じです(笑)

──社内の反対はありませんでしたか。自動車に限らず、キャンペーンに労力を費やすより、営業に尽力したほうがいいという意見も耳にしますが。

臼木 反対はとくになかったかな。何をすれば功を奏するのかは正直やってみないとわからないですしね。一概に「営業に尽力したほうがいい」とも言い切れないと思うんですよ。ただ、社内の根回しはしっかりやりました。

●根回し不足が招いたPOPEYE仕様アルトの大失敗
──具体的にはどんな根回しをするんですか。
臼木 プレゼント企画の場合、全国どの地区にお住まいの方が当選するかわからないですよね。登録や納車などの実務は最寄りのディーラーにお願いすることになります。また、お客様から問い合わせが入るかもしれません。そのため、「東京の企画だからうちは知らない」とならないよう、話を通しておく必要があります。じつは過去に、何度か失敗していまして……。

──えっ、失敗……ですか?
臼木 30年近く昔の話ですが、雑誌「POPEYE」とのタイアップ企画でオリジナルデザインの「アルト」を作ったんです。当時は珍しかったサンルーフ付きの軽自動車で、ホイールもおしゃれに変えたりしました。それがすごくウケて、「同じクルマが欲しい」と注文が殺到したんです。ところが、各地のディーラーから「あんなクルマ、企画したのは誰だ」と、しこたま怒られるハメになりました。

──たくさん売れたのになぜ?
臼木 POPEYE仕様のアルトはクルマの天井に穴を開け、サンルーフを取り付けています。厳密に言えば、クルマの強度も性能も変わっている。改造申請はキチッとやりましたが現地のディーラーからすると、そんな改造車の面倒は見切れないというわけです。しかもその後、サンルーフ付きのアルトが正式発売されたんですが、少量生産で……。「いい思いをしたのは臼木だけか」とまた、怒られました(笑)。

●当選車の転売を阻止するシンプルな方法

──バブルの頃などと比べると世の中からクルマのプレゼント企画は減っている印象があります。実際はどうなんでしょうか。
臼木 多少減っているのかもしれません。ただ、ガリバーインターナショナルがLINEモールのチャンスプライス(※)にハスラーを出品するなど形を変えながら実施しているケースもあります。また、商店街の福引きの特賞でクルマをプレゼントするという昔ながらの方法も健在です。

※LINEモールアプリで1人1回のエントリー権があり、一番安い金額を回答し、かつその金額が誰ともかぶらなかった1名が当選するという仕組み(当選者は回答した金額で購入できる)。

──チャネルが増え、キャンペーンの展開先もテレビやテレビといった従来のメディア以外に広く分散している、と。プレゼントに使われるクルマは通常、イベントやキャンペーンの主催者が購入するんですか。
臼木 そういうケースが多いでしょうね。ただ、「お金さえ払ってもらえれば、誰でもOK」というわけではないんです。まず、お互いのブランドイメージを損なわないような相手でなければなりません。プレゼントにあたっての条件も確認します。例えば、当選車がすぐ転売されかねない体制であれば、協力をお断りせざるを得ないこともあります。クルマのプレゼントは当選した方にその後、乗っていただいて初めて意味があるんです。

──転売は防げる?
臼木 当選された方には誓約書を書いていただくのが一番ですね。今回のキャンペーンでは転売禁止に加えて、「ボディに貼られたデザインシートを剥がさないこと」という条件も必要です。

●“剥がれないデザインシール”を貼る作業は一発勝負

──ボディのギザギザ模様はデザインシートを貼り付けてあるんですか。
臼木 「クルマの消臭力」のパッケージをモチーフにしたデザインで、通常のハスラーにはないものです。デザインシートといっても非常に粘着力が強く、ちょっとやそっとでは剥がれません。無理矢理剥がそうとしたらボディを傷つけかねない。それを防ぐ意味でも、ぜひ誓約書にひと言、注意書きを添えたいですね(笑)

──今回、プレゼントされるハスラーはフローラルピンク、シトラスイエロー、アクアブルーの3色。なかでもシトラスイエローは既存のハスラーにはない色だとTwitterでも話題になっていました。
臼木 そうなんです。オレンジならあったんですけど、あいにくイエローは展開してなくて。結局、エステーさんのコーポレートカラーに合わせて、イチから色を調合してもらいました。

<後編に続く>

(島影真奈美)