【戸塚啓コラム】名波監督就任でジュビロ磐田はいかに変わっていくのか
ようやく、という印象だ。名波浩氏がジュビロ磐田の新監督に就任した。
湘南ベルマーレが史上最速でJ1自動昇格を決めた一方で、ジュビロは苦しんでいる。ここまで勝点56は松本山雅に次ぐ3位だ。松井大輔、駒野友一、前田遼一、伊野波雅彦らを擁し、J2では一歩抜け出た戦力を保有するチームとしては、昇格プレーオフ圏内でも物足りない。
ここ5試合で1勝2分2敗と勝点を伸ばせず、2位の松本との勝点差を縮められないばかりか、4位の北九州が勝点3差に迫っている。5位の岡山も勝点4差、6位の大分も勝点6差だ。23日のゲームでは、17位の水戸に1対4で大敗している。少なくともプレーオフ圏内を堅持するためにも、シャムスカ監督解任の決断は避けられなかったのだろう。
かつて名波氏はこう話している。日本代表がコンフェデレーションズカップを控えた、昨年春のことだ。
「シーズン途中から監督をやるのは、ちょっとキツいですよね。それは自分が初めてだからとかではなく。いくらいいメンバーがいても、監督ってやることはたくさんある。それを一つひとつ丁寧にやっていったら、前に進む歩幅がどうしても小さくなっちゃうので」
シーズン前のキャンプという助走がなく、リーグ戦という実戦もない。成功体験と失敗体験が成長を促すのは、選手だけでなく監督にも共通する。ほとんど白紙の状態でJ1昇格をつかむのは、実績のある監督でも困難なミッションと言っていい。
それでもジュビロへ戻ったのは、クラブへの忠誠心が全身を貫いているからだろう。
「ジュビロの監督をやってみたいですか?」と聞くと、「やってみたいという願望は、もう通り越しましたね。周りから言われれば言われるほど、やらなきゃいけないんだろうなあっていう気持ちが強くなる。もう、使命感ですね」と笑った。
ザッケローニ前監督の後任は名波氏がいいと、僕は考えていた。W杯に出場し、イタリアでプレーした。W杯予選の過酷さを知り、アジアカップのような短期決戦で結果を残した。彼がMVPを獲得した2000年の日本代表は、いまでも大会史上最強と言われている。
キャリアの終盤にはケガとも向き合った。クラブで試合に出られない時期もあった。
どんな立場の選手にも、彼は自らの体験に照らして助言ができる。解説者としての活動を見れば、伝える力を持っていることも分かる。監督経験がなくても日本代表を託せる人材だと、僕は考えていた。
その思いはいまでも変わらないが、古巣再建に挑む彼の挑戦は楽しみだ。技巧派のプレーヤーにはクールなイメージがあるが、彼は現役当時からハートも熱い。
「自分の采配とか選手、スタッフをまとめる力で、チーム力が上がる。それを目の前で見られるのが、監督も魅力じゃないですかね」
果たしてジュビロは、どのように変わっていくのか。“最初の目撃者”がピッチから放つメッセージを、興味深く待ちたい。
1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続して取材している