北朝鮮国営の朝鮮中央通信は11日付で、米軍慰安婦問題で韓国を非難する記事を発表した。朝鮮労働党機関紙の労働新聞の記事も引用し、同問題について当局は沈黙を続けているとして、「このような卑屈で間抜けな売国奴らが権力のポストに就いているので、南朝鮮では今も米軍犯罪行為が日ごとにはびこり、数多くの人民が不幸と苦痛の中で身もだえしている」などと論じた。

 米軍慰安婦となった女性については「職を与えるという南朝鮮当局(韓国政府を指す)の言葉にだまされて米軍基地内に足を踏み入れたり、暴力団に拉致されて売春業者に売られて入った」と、完全に被害者だったとの見方を示した。

 記事は、米軍慰安婦問題について「米帝と南朝鮮の傀儡(かいらい、韓国当局を指す)こそ、人間であることをやめた野獣の群れ、恥しらず」などと、米国、韓国の双方を非難した。

 米国についてはさらに、自らが犯した性奴隷犯罪を立証する、否認できない客観的事実の前でも謝罪はおろか、「米軍の価値観」などと言葉を使い、犯罪の全責任を傀儡(かいらい、韓国当局を指す)にかぶせていると非難。

 一方、韓国当局者は現在も、なんら説明できずにいると指摘し、「このような卑屈で間抜けな売国奴らが権力のポストに就いているので、南朝鮮では今も米軍犯罪行為が日ごとにはびこり、数多くの人民が不幸と苦痛の中で身もだえしている」と酷評した。

 記事は改めて、韓国の現状について「米国の植民地支配」が続いていると主張。韓国当局者については、「事大主義の売国奴」と非難し、現状が続くかぎり「人民がいつになっても羞恥と侮辱を免れることができず、不幸と災難から脱することができない」ことが明らかになったと主張した。

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◆解説◆
 上記記事は、日本の記事としては用いることのできない、あからさまな差別用語を用いて、韓国を非難した。北朝鮮メディアが対立する米国、韓国、日本を非難する場合に、記事そのものがいわゆる「ヘイト・スピーチ」の様相を呈する場合が多い。

 日本における、差別用語の不使用については、「行き過ぎ」、「言語使用の伝統に背く場合がある」、「言葉狩りでは、現状がかえって見えなくなる」などの批判はあるが、「差別そのものは認められない」という考え方は、公認されていると言ってよいだろう。つまり、一部の例外を除けば人権意識は比較的定着している。

 北朝鮮の場合、官製メディアが差別用語を無頓着に使うことからも、人権意識は極めて希薄と言わざるをえない。しかし同国は近日中に、人々が「自由で幸福な生活を思う存分享受しながら、より明るくて輝かしい未来に向かって力強く前進している」ことを示す、人権報告書を発表するという。

 いわゆる慰安婦問題で、何よりも問題になるのは「どのような人権侵害が、事実として存在したのか」ということになるはずだ。北朝鮮に、極めて深刻な人権問題が存在するのは間違いない。それでいて、韓国の人権侵害を口を極めて非難する、奇妙な報道をしたことになる。(編集担当:如月隼人)