みずから起業した自営業者は、自殺の要因が起きてから、自殺にいたるまでの年月がもっとも短い―――こんな事実が、NPOによる自殺者遺族への聞き取り調査で明らかになった。主婦の場合より4倍近く短いという。

NPO法人「自殺対策支援センターライフリンク」は精神科医ら専門家とともにまとめた「自殺実態白書」を2013年2月28日、発表した。

「保証人問題が大きく効いている」

2007年から5年間かけて、自殺者の遺族523人に聞き取り調査をおこなった結果を分析し、まとめた。それによると、職業により、自殺にいたるまでの期間に大きな差があることがわかった。

自殺の要因が発生してから自殺に至るまでの期間について、職業別にグループの真ん中の値、中央値で比較すると「みずから起業した自営業者」は2年、正規の雇用者は4年、親などから「事業を継いだ自営業者」は4年7か月、非正規の雇用者は6年11か月、主婦は8年3か月などとなり、特にみずから起業した自営業者の期間が短いことがわかった。白書ではこの理由について「保証人問題が大きく効いている」と分析する。

具体的には、白書は事業不振に加え連帯保証債務の取り立て苦などの原因で自殺した50代の自営業男性の例について、以下のように報告している。

「バブル崩壊後は経営が急速に悪化。請け負った工事の代金が支払われなくなり、資金繰りに窮するようになった。元々融資してくれていた金融機関も応じてくれなくなり、ノンバンクの商工ローンなどからの借り入れも増えていった。連帯保証人になっていた同僚企業や親会社の倒産も相次ぎ、その督促も受けるようになる。半年ほどは巻き返そうと営業活動を続けていたが、督促の電話を受けていた妻が先に精神的に参ってしまい入院。とうとう5人いた従業員を解雇した。
その後は仕事をせずに家で過ごすことが多くなり、口数も減っていった。資金繰りに窮するようになってから約1年後、会社事務所で自死。消費者金融などからの借り入れも含む数千万円の借用書がそろえてあり、遺書には保険金で精算するよう記してあった。以前から連鎖倒産を呼びかねない自己破産には消極的で、『いざとなれば生命保険がある』と言っていた」

「介入できる時間はきわめて限られている」

自営業者の自殺のそもそもの要因は、事業不振や負債、連帯保証を伴う負債であることが多い、と中央大学総合政策学部の崎坂香屋子特任准教授が白書の中で指摘する。そして、それらが起きてから自殺までの期間の短さを見ると、「(自殺防止のために)介入できる時間はきわめて限られているといわざるを得ない」。

ところが「みずから起業した自営業者」の場合、亡くなる前に専門機関に相談していた人の割合も、63.4%と学生の57.8%についで低い。「負債を抱えながら、追い詰められた気配を周囲に悟らせないようにしていたかのような特徴が見出される」

さらに「自殺のサインがあったと思うか」との問いに、遺族全体の58%は「あったと思う」と回答しているが、このうちの83%は、当時はそれが自殺の兆候だとは気付いていなかったという結果もある。

一方で、自殺者全体のうちどこかに何らかの相談に行った人は、結果的には死に至ったものの、死亡までの平均日数が、そうでない人よりも長いことも調査結果からわかっている。

3月は例年、月別自殺者のもっとも多い月だ。政府は「自殺対策強化月間」と定め、各地方自治体は広報活動とともに相談窓口の設置などに務める。たとえば、自営業者の自殺のもっとも多い大阪府では3月いっぱい、24時間対応の電話相談を実施、「ひとりで悩まないで」と呼びかけている。