オランダの裁判所が、昨年11月に実兄の故グレッグ・ハルマン元外野手(享年24)を殺害したとして、ハーレムの警察に逮捕されたジェイソン・ハルマン被告(23)を、このたび釈放することを正式決定しました。

　報道によると、ジェイソンは精神鑑定の結果、事件当時精神的に落ち込んでいたことと、大麻を使用していたことから(注：オランダにおいては、法律上大麻の使用は合法とされています)、いわゆる心神喪失の状態にあったことが判明。このため、彼は8月30日に評決を控えていたものの、法律上の責任能力を問うことができないと判断され、釈放に至ったようです。

　なお、選手としてはこれまでの所属先だったコレンドン・キンヘイムを離れ、そのキンヘイムと今年のオランダシリーズで対戦する、DOORネプチューンズに移籍することになりました。ネプチューンズ一軍のヤン・コリンズ監督は、チームの本拠地であるファミリースタジアムに、初めてジェイソンを迎え入れた際、新しいチームメイトとして歓迎する旨とともに、あくまでもリラックスした状態で、ダグアウトからチームの練習の様子を見ているようにと、彼に伝えたことを明かしています。というのもコリンズによると、ジェイソンは犯行に至る直前の夜間練習で、チームの一番最後にフィールドを後にするほど、激しい練習を続けていたからなんだとか。

　ハルマン兄弟の間に起きた悲劇が起こる数日前から、ジェイソンは精神的に不安定な状態に陥り、自身の過去に起きた出来事が、当時の自分自身を苦しめていると繰り返し語った他、自身のフェイスブックページにも、奇怪なメッセージを綴ったとされています。ハーレムからロッテルダムにやってきた彼の両親は、同市内にあるメンタルケアの施設にも連れて行くなど、ジェイソンが抱える精神的な不安感を取り除こうと努力したものの、それを克服するには時間が短すぎたようです。

　事件が起こるまでの流れは、ミスターベースボールによると次のようなものだったとか。生前、シアトル・マリナーズでプレーしていたグレッグは、オフの間に故郷のオランダに戻り、ジェイソンと同じアパートの別々の部屋で暮らしていました。事件があった日の夜、グレッグと彼のガールフレンドは、ジェイソンが彼の部屋で静かになるのを待って眠りについたものの、その後外出していたジェイソンが午前4時頃に戻ってきたため、一度起きてきたとのこと。その後、再びグレッグたちが眠ろうとしたところ、ジェイソンが部屋で聴いていた音楽の音量を上げたため、兄弟の間で口論に。その結果、激高したジェイソンがナイフを持ってグレッグの部屋に押し入り、彼を刺したということです。

　去る16日に法廷を訪れた、アルゲメーン・ダブグラード紙のサンダー・ゾーネメンス記者は、ジェイソンの家族や友人の感激ぶりを｢彼らはジェイソンの釈放を、まるで彼がホームランを打ったかのように喜んだ｣と伝えています。彼の母親は、彼女自身とその息子が、自らの人生を前向きに歩むための道を探したいと語り、父親は｢事件があった日の夜、私は2人の息子を同時に失ったが、今日その１人がやっと帰ってきた｣という声明を発表しました。ジェイソンは、彼の精神鑑定を担当した、ピーター・バーン・セントラムのエキスパートたちが実施した、数々の心理学テストで好結果を残し、かつて苦しんでいた不安感から解放されたことを示しました。彼は釈放にあたって、今後も自身のメンタルケアに、継続的に取り組んでいくことを誓約しています。

　グレッグの同僚だったマリナーズのフェリックス・ヘルナンデスによる、球団初の完全試合に始まり、昼のジェイソンの釈放、そして夜のオランダシリーズ第1戦(4‐2でキンヘイムが勝利)と、朝から晩まで実に忙しい一日となった、オランダ球界にとっての2012年8月16日。ジェイソンが犯した重い過ちは、決してなかったことにはなりませんが、この日付がまだ未来のある同世代にとって、新しい夜明けになることを祈るばかりです。その背中に重い十字架を背負い続けながらも、自らの手で殺めてしまった兄の分も、一人の人として、またアスリートとしてビッグになって欲しい。今はただ、そう願いたいと思います。

ソース：http://www.mister-baseball.com/jason-halman-released-detention-rotterdam/