今日珍しくTVを見ていたら、NHK BS1でMLB前半戦ハイライト的な番組がやっていた。ダルビッシュをはじめとする日本人選手中心の編成ではあったが、たまにこういうライトなMLB番組を観るとそれはそれで面白い。ちなみに番組を観たのは途中からだったので、残念ながら冒頭のダルビッシュ独占インタビューは丸々見逃してしまった。


　番組後半では、今季バッターとして唯一（期待以上に）活躍している青木宣親（ミルウォーキー）の特集があった。内容は「日本での輝かしい実績を捨ててトライアウト入団から努力で這い上がりレギュラー定着した青木偉い！」という何とも予定調和的なアレだったのだが、ともかくここまでの青木の活躍は言うまでもなく素晴らしい。5月以降は完全にレギュラーに定着し、間もなく規定打席に到達すれば打率リーグベスト15に入りそうな勢いだ。後ろにR.ブラウンというモンスターが控えていることもアドヴァンテージになっているかもしれない。

　青木といえばバットコントロールに優れたアベレージヒッターというイメージなので、打率がKPIとして認識されている感があるが、既に5HRを打つなどそこそこ長打力を発揮しているのが印象的。7/8時点でのOPS.815はリードオフとしてはトップクラスの数字で、高い得点能力を誇っている。また『サヨナラHRで株価急上昇中の"Nori Aoki"に監督、チームメイト、ファンから絶賛の嵐』でも紹介したが、青木のLHP（左ピッチャー）への凄まじい強さはかなりインパクトがあり、現地のメディアでは既にメジャー屈指の"レフティーキラー"として紹介されている。先日のアリゾナ戦でもレフティーからHR含む2安打したが、実況も"He continues...to DESTROY left-handed pitching（またしてもレフティーを粉砕している）"とか"His success against left-handed pitching has been...UNBELIEVABLE（彼のレフティーへの強さは驚異的だ）"などと唸っている。



Aoki powers the Brewers 07/07/12


　さて、そんな青木について先の番組の司会者は「人一倍努力していたからこそ少ないチャンスをモノにできたんですよね！」という台本を読んだようなセリフを発していたが、これに対しゲストの小宮山悟氏が「というかそれ以前に"チャンスを与えられるか否か"の差が物凄く大きいですね。青木選手はチャンスをもらえたことが大きかったと思います」というようなニュアンスのことチラッと言っていた。さり気ないコメントだったけど、ああなるほど、と思った。MLBに限らずプロスポーツの世界はよく（結果が全ての）シビアな世界と言われるが、それは単に「競争がハイレベル」という話ではなくて、そもそも運やタイミングが良くないとチャンスらしいチャンスすらもらえないことだって多々ある、それくらいにシビアだということだ。小宮山氏、流石は元メジャーリーガー（それもメジャーとマイナーの瀬戸際を常に泳いでいるような立場）だけあって、MLBで成功することの真のシビアさを肌で知っているんだろうなと思った。

　青木は開幕直後こそスタメン出場の機会が少なく厳しい立場であったことは間違いないが、幸か不幸かポジション争いのライバルと目されていたN.モルガンが開幕から廃人モードだったため、首脳陣の青木に対する期待が高まり積極的にスタメン起用された部分もあったと思う。ライトのレギュラーだったC.ハートがチーム事情で急遽ファーストに回ったりしたことも追い風だった。このチャンスを活かして今日まで期待以上の結果を出し続けているのは文句なし素晴らしいことだが、もし首脳陣が「青木を活かそう」という意思を持たず、チームも盤石で積極的にチャンスを与えてもらえなかったら、それこそ「少ないチャンスを活かす機会」すらも持てなかったはずだ。青木は良い首脳陣とフロント、そしてタイミングに恵まれたといえる。


　逆に不遇極まりない立場にあるのが、ムネリンことマリナーズの川崎宗則ではないだろうか。スプリングトレーニングではAVG.400を超える大ハッスルでメジャー契約を勝ち取ったまでは良かったが、シーズンに入ってからはさっぱり。これは本人が少ないチャンスを活かせていないという以前に、チャンスが少な過ぎることが問題だと考えるべきだ。それは前述の通り運とタイミングの問題でもあるのだが、日米で不評極まりないウェッジ監督に飼い殺しにされている感が否めない。

　川崎の場合は「マイナー契約でもいいからマリナーズに行く」と異例の告白を経てその通りマイナー契約で入団した経緯もあり、マリナーズサイドから彼にアプローチしたわけではなかった。それでもマリナーズが川崎と契約したのは「（別に凄く欲しい選手じゃないけど）まあマイナー契約なら」的なノリが少なからずあったのだと思う。つまりマリナーズのフロントは、川崎に担って欲しいポジションや期待値をクリアにしないまま、とりあえず川崎と契約したのだ。

　マイナー契約の時点ではそれでもよかったが、メジャー昇格させたときに川崎に期待することを明確に持っていなかったことは問題だ。ここまでの起用法を見ている限り、川崎の"使い方"についてチームとしてハッキリした意思があるようには感じられない。もしレギュラーSSのB.ライアンのバックアップというだけの役割だとしたら、それだけのために貴重なロースターに1枠使うのもあまりスマートとは思えない。言うなれば「時給100円で働きます」という人を「まあ100円なら」という理由で雇用したら意外に優秀だったから正社員にしたけど、もともとポストを用意していたわけでも組織が中で担ってもらいたいポジションが明確だったわけでもないので任せる仕事がない、というような感じだろうか。そんなわけでゲームに出れない川崎は何をしているのかというと、イチロー大先生がシアトルで11年かけて築き上げた"The SAMURAI"な日本人像を木端微塵に破壊すべくダグアウトで謎のダンスを踊り狂うラテンソウルでアナウンサーの爆笑を誘うという不毛な日々を過ごしているようだ。



Kawasaki shows off rhythm 07/01/12



　川崎の件に限らずマリナーズというチームは、長期的な視点で「この選手にはこういう役割を担わせよう」とか、あるいはそれが上手く機能しなかった場合に「プランBはこれでいこう」とか、そういうチームとしての意思がイマイチ感じられない。ストラテジーを持たない経営、一言でいってしまうと"ノープラン"なのだ。マリナーズが今季も安定の最下位に低迷している根本的な原因はここに尽きると思うのだけれど、どうだろう。



　halvish