ハンドスプリングスローVSハンドでスプリングでスロー!

24日に行なわれたキリンチャレンジカップ日本VSアイスランド戦。国際Aマッチデーでないこともあり、日本側も海外組の招集ナシ、アイスランド側もそもそも誰ソレ?なメンバーの集まり。どこまで強化になるのだろうか、勝っても負けても「こんな試合には意味ないよ」と辛口評論家が言い出すのではないかと気を揉んでいたところ。

しかし、さすがはアイスランドの男たちでした。

人口約30万人。イギリスの左斜め上に浮かんだ島国。10万平方キロメートルという国土は、わかりやすく言うとグアテマラと同じくらい、もう少しわかりやすく言うとセルビア・モンテネグロと同じくらい、もう少しわかりやすく言うと北海道の1.3倍です。何かこう一年中雪が積もった中にポツンポツンと民家がありそうな、広い割にやたら人の少ないお国柄。

そこから出てきたスターです。国民全員が後押ししても「30万イイネ!」にしかならない国から、全世界を席巻するパフォーマーが飛び出すなんて、並大抵のことではなかったのです。アイスランド発、Youtube世界一にも輝いたゴールパフォーマンス集団ストヤルナン。「釣りゴールパフォーマンス」で知られる彼らの卒業生がアイスランド代表として来日し、今度は「ハンドスプリングスロー」という秘術で日本を盛り上げてくれたのです。

そもそも国際Aマッチデーでもないこの試合にどれだけのことが求められるものでしょう。集まった目的は試合ではなく合宿。ただ、合宿だけすると言っても選手を借りにくいし、合宿の費用もバカにならないし、紅白戦じゃやる気も出ないから「有料練習試合」をやっているだけです。内容だの結果だの求めてはいけない試合です。

アイスランド戦では代表初ゴールを記録した選手が複数出ました。代表初出場の選手も出ました。代表戦なんて基本「大事な試合」ばかり。しかし、本当に大事な試合で「出場したことも得点したこともない」選手が使えるでしょうか。そんなギャンブルはできません。こういう「別にどうでもいい試合」から徐々に経験を積んでこそ、安心と信頼が生まれるというもの。その意味で、アイスランド戦はいい「有料練習試合」でした。ハンドスプリングスローなんて珍しいものも見られ、大いに盛り上がりました。最高じゃないですか。アイスランドの愛すべき男たちに心から感謝したいものですね。

ということで、本場のパフォーマーとYoutubeパクリ師の格の違いを、24日に日本テレビが中継した「キリンチャレンジカップ 日本VSアイスランド戦」からチェックしていきましょう。



◆アイツはハンドスプリングスローしていたんだよ!な、なんだってー!?

駐日アイスランド大使館のツイッターによると、日本に住んでいるアイスランド人は50人ほどとのこと。そんな中で、代表チームとスタッフで20人以上来日し、それを応援するために在日アイスランド人が長居スタジアムに詰め掛け、国歌を歌える歌手もやってきた…まさにこの日はアイスランド祭りの様相。駐日大使曰く「くそ長いのでちゃんと覚えている人はほとんどいない」というアイスランド国歌も、本当にクソ長く長居の空に響き渡ります。

そして始まった試合。日本は4-2-3-1の布陣。ボランチには代表初出場の増田誓志を起用し、「3」の位置には大久保嘉人・柏木陽介・藤本淳吾と何かをヤってくれそうな顔ぶれを並べてきました。なかなか見られない、今後再び見ることがあるのかわからない感じの顔ぶれ。「どんどん自分らしさをアピールしてくれ」「よっぽどのことがないとポジションは奪えないぞ」「ただ、私は常に予備の予備を探している」という指揮官のメッセージが伝わってくるかのようです。

そんなメッセージに応えるかのように、早速自分らしさを発揮したのは左SBに入った槙野智章さん。槙野さんは1年と少しの間、海外で行方をくらましていたため、日テレの実況アナウンサーにも「槙野良太」と紹介されるなど存在感が薄くなっていました。しかし、彼とてYoutubeで世界にその名を知られた男。本家アイスランドとのネタ合戦に燃えていたのです。

まず前半1分、「それオレの仕事じゃね?」と大久保嘉人さんが唸るのを尻目に、左サイドをわりと自分勝手に駆け上がる槙野さん。華麗にフェイントでモタつくと、上手いのか下手なのかわからん感じで右足アウトサイドからフワッとしたクロスを送り込みます。すると、このクロスに1トップの前田遼一がピンポイントで合わせいきなりの先制弾となってしまったのです。

その後も各選手はいいアピールを展開。藤本のタイミングのいい飛び出し、中央を広く駆け回って攻撃をさばく柏木、攻守に渡り勘所に顔を出す増田、1対1の強さを見せる栗原勇蔵、ユニフォームを引っ張ってイエローをもらう大久保。得点こそ動かないものの、前半は一方的な日本のペースで終了します。

しかし、真のパフォーマーが格の違いを見せつけたのはここから。アイスランドは後半頭からストヤルナン上がりのパフォーマー、ソルステインソンを投入。彼はこの劣勢をたった一人で挽回してみせたのです。ハンドスプリングスローという秘技によって…!

↓ソルステインソンさんのハンドスプリングスロー!


何かすごい昔に流行った気がするが…。

これを現代に受け継ぐ男がいたとは!


↓写真で見るとさらにスゴイ!
http://www.sponichi.co.jp/soccer/news/2012/02/25/gazo/G20120225002703180.html

※熟達者が「安全なつもり」でやっております。マネしないでください。


トンと見掛けることがなくなったこの技。昔は日本でも高校生・大学生がやっていましたが、最近はその使い手もいなくなりました。投げたときに「頭の後ろから頭の上を通す」ことが難しく、両足をキッチリ着ける必要もあって、かなりファウルスローになりやすいこと。雨の日や芝に水がまかれていると滑りやすいこと。失敗すると怪我につながること。そして何より、頑張ってる割には通常のロングスローと飛距離も大して変わらず、正確性はグッと落ちること。ほとんどデメリットだらけで誰もやらなくなったのです。

しかし、コッチのほうが面白い。実際、長居の大観衆はハンドスプリングスローに大盛り上がりとなり、最後のほうでは期待感からスローインのたびに拍手も上がったほど。これぞ、言葉の壁を越える真のパフォーマーの姿。ソルスティンソンさんは秘技を完璧に身につけ、いつ何時でも披露できるレベルに熟成させていたのです。日頃のたゆまぬ努力がうかがわれるというもの。無駄にドタバタすればいいというものではないのです。

↓さすが「釣り」でおなじみストヤルナンの卒業生!


途中で撃たれて倒れる20番がソルステインソンさんです!

本場仕込みの盛り上げ術、恐れ入りました!


↓ちなみによくよく見ると、それほど効果的ではなかった!

・1回目:味方のもとに投げ込むも、味方2人が受けられず日本にクリアされる
・2回目:直接日本に渡り余裕でクリア
・3回目:ペナルティエリア内に投げ込むも、シュートにはつながらず
・4回目:ペナルティエリア内に投げ込むも、シュートにはつながらず
・5回目:ペナルティエリア内に投げ込み、味方がヘッドでシュート!しかし枠には入らず
・6回目:直接日本に渡り余裕でクリア
・7回目:ペナルティエリア内に投げ込み、味方がヘッドでシュート!しかし枠には入らず

スローインから2回も直接シュートにつながったと見るか、スローインなのに2回もむざむざ相手に渡したと見るか、それが問題だ…。


このハンドスプリングスロー祭りによって、日本側の追加点や選手交代の印象は限りなくゼロに。後半0分の田中順也の代表初出場も、後半8分の藤本の代表初ゴールも、後半19分の石川直宏の代表復帰出場も、後半22分の西川周作の勇敢なセーブも、後半31分の近藤直也の代表初出場も、後半32分の「日本プロ野球開幕!巨人VSヤクルト」という告知も、後半34分の槙野智章のドタバタ代表初ゴールも、「あぁあったね」くらいの話になってしまったのです。

こんなことでいいのか。ケルンで何を学んできたんだ。日本に何を持ち帰ったんだ。槙野さんは自問自答していたことでしょう。そしてひとつの結論を出したのです。「俺もハンドスプリングスローしよう」と。そのチャンスが訪れたのは後半46分。アイスランドがゴール前にロングボールを送り込んだ際、相手選手と競り合った槙野さんは決断します。ちょうど目の前に走り込んできたソルステインソンさんに「俺も日本でその名を知られたネタ師だ」「サッカーでは負けてもネタでは負けんぞ」「どんなネタでもすぐパクる能力が俺にはある!」と見せつけてやったのです…。

↓槙野さん渾身のハンドスプリングスロー!


相手の肩に置いたハンドをスプリングにして跳び、柔道的に相手をスローした!

「レッドでいいです」「退場にしてください」「レッズだけに」と観客も大興奮!


よくも悪くも目立つ男・槙野さん。「釣り」と「釣りパクリ」が世界の片隅でネタ合戦を披露することになるとは、サッカー関係者も予想だにしなかったことでしょう。この試合の模様がYoutubeを通じて、ドイツ・ケルンに届くことを僕は密かに願っています。日本からの「な?」、ケルン首脳陣の「な?」が互いに交錯して、最終的に誰が買い取るのか押し付け合う感じになったら面白いのに、と思いながら…。


新年初戦は満点大笑!メンバーと気分を入れ替え、いざ3次予選へ!