村上龍「印象深いのはヤマダ電機会長」
毎週月曜午後10時から、テレビ東京系で放送中の「カンブリア宮殿」。“ニュースが伝えないニッポン経済”をテーマに旬の経済人をゲストに迎え、旬の経済テーマについて聞く、1時間のトーク番組として、大人を中心として人気番組に成長。2006年4月に放送を開始し、5月31日で放送200回を迎える。それを記念して、5月14日、テレビ東京天王洲スタジオでメインインタビュアーの村上龍、サブインタビュアーの小池栄子、テレビ東京プロデューサーの深谷守氏を招いて取材会が行われた。

テレビ東京 深谷守プロデューサー:本日はお忙しい中足を運んで頂きまして、誠にありがとうございます。テレビ東京の深谷と申します。テレビ東京では、大人の鑑賞に堪える番組をお届けしたいということで、経済番組を22時台に3本放送しております。「ガイアの夜明け」「ルビコンの決断」、そして我々の「カンブリア宮殿」です。

それぞれ特徴のある番組ですが、カンブリア宮殿では、世の中で成功なさっている経営者の方に成功の秘訣を聞いております。そのお話を引き出せる方を考えた中で、人の生い立ちや内面を聞き出す形で、村上龍さんにMCとして入って頂き、小池栄子さんにアシスタントをして頂き、お話を聞いて頂いております。

4年間200回、200人ほどのいろいろなゲストにお話を聞いてきました。非常に好評を頂きまして、ここまで続けてくることができました。今までのテレビ東京の場合、家族や夫婦、頑固おやじや肝っ玉母さんというジャンルを色々としてきましたが、この番組で会社の経営者という新しいジャンルを開発できたと思います。

会社の経営者というのは、単に会社の社長というだけではなく、その方のそれまでの人生や考え方を、ビジネスマンにも一般の方にも楽しんで頂ける番組になっていると思います。これからもよろしくお願い致します。

村上龍(以降、村上):メインのインタビュアーの村上龍です。これといって話すことはないんですが(笑)。先ほど深谷さんも話されたとおり、この番組では経済的に成功し、利益を上げている企業の経営者が主なゲストです。4年以上続けて200人以上に会ってきました。この日本社会で成功する、サバイバルするのが難しい状況が続いていて、ワーキングプアにならずに生きていくことさえ難しい。

そこで生き延びてある程度成功をつかむことがいかに難しいか、どれだけの努力をその人に強いるか、ということを自分自身毎回学ぶことになりました。

テレビ番組はあまり出ることがないので比べることもできませんが、取材スタッフや周りのスタッフが非常にフレンドリーで友達になり、毎回小池栄子さんに助けられながらなんとか番組も続けてきました。

ゲストの人たちが本当に身も蓋もない努力をされているので、収録終了後にいつも、世の中には凄い人がいるんだなと謙虚な気分になります。謙虚な気分になることが、この番組をしていて一番良かったなと思います。これからも宜しくお願いします。

小池栄子(以降、小池):アシスタントの小池栄子です。番組が始まる4年前に制作発表記者会見を行ったことを思い出します。初めて龍さんにお会いして、こんなに恐そうな作家さんのアシスタントを務めることに凄くドキドキしていました。

それから4年間200回、外されることなく隣に座り続けさせて頂いたことをとても感謝しています。27歳から番組が始まり、自分が生きている芸能界以外の方々とお会いして、先輩達がとにかく努力されて頑張っているという姿を見て、まだ若僧の私はもっともっと努力していかなければならないなと。

自分が働いている所以外の方たちとお会いすることが、普通に暮らしているとなかなかないことです。カンブリアを始めてから年配の方に話しかけられることも増え、自然と40代、50代の友達も増えました。自分の世界観が広がる良いきっかけになった仕事だと思います。この先も長く続けていきたいと思っていますので、応援のほどよろしくお願い致します。

――200名近いゲストの中で、特に印象に残った方は?

村上:忘れちゃった人はいるんですが。僕が一番印象深いやりとりが、ヤマダ電機(会長)の山田さんです。「町の電器屋だった頃が一番幸せだった」とおっしゃったので、「あの頃に戻りたいと思わないでしょ?」と質問した時に、山田さんは「戻りたい」と言ったんです。「あの頃は懐かしいけど、会社も小さかったしお金もあったわけじゃないし、懐かしいけど戻りたくはない」という答えを予想して質問したんですが、あれが今までで一番印象に残ってます。あの時はびっくりしましたね。

小池:特に最近のゲストの方が印象に残っているんですが、龍さんも編集後記で書かれていましたけど、山梨日立建機の地雷除去機の雨宮さんですね。「地雷除去の現場で死ねたら幸せだ」ということを仰っていて、そういった気持で職場に向かうことは素晴らしいなと思いました。

今は龍さんの編集後記がBGMと共に番組の最後に流れていまして、普段も素晴らしいんですが、やはり作家さんの書く文章、実際に龍さんが書いている文章にはしびれるなと。龍さんが一時間半の収録を終えて、どこが一番印象に残って何を書くのかというのを、私はこの番組の楽しみというかみどころだと思っていますので、そこをぜひ皆さんに見てもらいたいところです。

――4年間で時代も変わっていると思いますが、経営者の方に共通していることは?

村上:身も蓋もなく努力されていることです。彼らの答えは面白くもおかしくもないんです。事前にスタッフとVTRを見ながら、どこにポイントをおいて番組を構成していくかということを議論するんですが、その時に当たり前のことしか言わないんで。例えばニトリがやっていることは、同業他社の参考になるだろうか、小売全般の参考になるかを議論するんです。参考になる部分を主に紹介していこうとするんですが、突出した企業は参考にならないことが多いんです。とにかく努力しているみたいな結論をしても、テレビ的には面白くもなんともないことが多くて、それが悩ましいところです。

――視聴者の方に「カンブリア宮殿」をどのように伝えていきたいですか?

村上:最初のトヨタの張さんの時からスタッフ全員の共通理解として決めたことですが、その会社が成功している要因を、その会社にしかできないことと、他の会社の参考にもなることを、できるだけ正確に分けて伝えようと決めたんです。それは今でも継続してます。

――これからどのような番組にしていきたいですか?

小池:アシスタントではありますが、視聴者目線ということは番組当初から変わっていませんので。自分が何をどう伝えていくかということばっかりを考えるのではなくて、それは視聴者がそれぞれ感じ取っていただければいいことだと思います。私は素直な反応を素直に経営者や龍さんにぶつけて、番組を楽しんで毎回収録していきたいと思います。

村上:小池さんの人を見る目は凄いですよ。大分トリニータの溝畑さんが来た後に、「龍さん、あの方なんか将来政治家になるような感じがしません?」とか言って。政治家かというか官僚ですが、観光庁の長官になっちゃったときにはびっくりしました。

小池:龍さんもいつか政治家に……。

村上:僕はならないですよ(笑)。

――4年前から、時代も変化してきた中で、番組を通して感じられた、この4年間の変化は?

小池:日本が暗くなっているとか、お先真っ暗な感じというのは政治番組を観ていると感じますが、この番組に来られる経営者の方はとても前向きというか「不景気こそチャンス!」という方が多いです。番組をやっているとこういう時こそ頑張るというか、今見なくてはいけないものが見えてくるんじゃないかと身が引き締まる思いをしています。

村上:確かに時代状況というのは確実に悪くなっていると思うんですよ。ただ、その中でなんとか生き残っている企業の方々の話を聞くと、政治とか景気が良くなることに依存していない人々ばっかりなので、逆に非常に希少な動物を見るみたいに、ゲストの方たちの素晴らしさが際立っていると思うんです。ただ、状況的には決して良くなっているわけではないです。


――この番組を始めてから、他の仕事への影響などはありますか?

小池:龍さんのアシスタントをやったら、他に怖いものはないなって感じですね(笑)。でも、本当に優しくて色んな事を教えてくださるので、世界が広がったというのが正直な感想ですね。自分が今見ている世界が広がるというのは、バラエティやっても女優やってもグラビアやっても、絶対にどこかに影響していると信じています。あと、話す年齢の方々の幅が広がったと思います。この間中国に行った時も、中国の方に「カンブリア見てるよ!」と話しかけて頂いて、嬉しかったりして。この4年間で自分の周りの環境も随分変わりました。

村上:基本的に2週間に1回収録があるんですけど、そのせいで長期の海外取材に行けなくなって(笑)。それはもう、年齢的にあんまり海外に行くなってことだと思うんで、免疫にも長期のフライトは良くないらしいので。執筆活動に影響するってことは無いので、そんなに変わったことって無いんですが、「昔、村上龍は体制に反逆する若者を書いてたのに、今は経済的成功者を呼んで、あれはなんだ!」と言われると、違うのにな、何も自分は変わってないのにな、と思うことはあります。

――200回目は、記念スペシャルということですが、そこに込める意気込みをお願いします。

村上:(ボードに書かれた図を掲げて)これまで4年間200回分の出て頂いたゲストの年齢分布図なんですが、パッと見てわかるように50代の後半から上が天の川のようにがっちり密集していて。20代はもちろんいませんし。朝青龍がいましたけど、スポーツ選手なので除外してありますから(笑)。

30代も非常に少なくて、もちろん70代、80代でも心が若くて立派な人はたくさんいるんですが、いかに日本の経済界あるいは社会が若い人の台頭を許さないような仕組みになっているかが、よくわかると思います。この年齢分布図を基本にして200回の番組を作ろうかな、と思って今スタッフと話し合っているところです。

――若い人たちにメッセージがあれば、お願いします。

小池:自分の周りでは、私と同じ世代の子たちもかなり見ているな、という感触はすごくするんですね。声もかけて頂きますし。ただ、私も始めに取り組んだ時に、難しいから経済なんてわからない、関係ないじゃんっていう姿勢があったと思うんですが、見ていくうちに知らないことを知っていく楽しみって特に20代から30代にかけて、そういう欲求もとても高まっている時期だと思いますので、怖がらずにまずはチャンネルをつけて見て頂きたいと思います。

そこから、正直に興味が無い時は興味が無いと受け止めればいいと思いますし、何か響く言葉が絶対に一回のオンエアの中であると思うんですよ。自分に置き換えて考えられるとか、自分の今欲している言葉をこの人が言っているとか。私も毎回収録をしていて、心に突き刺さる言葉というのが得られますので、難しいと思わずに見て頂きたいな、と思います。

村上:この番組が始まる時にやった記者会見で、フリーターの人たちも見れるような番組にしたいと言ったんですけど、なかなか見てもらっていないみたいで。結局、さっきの年齢分布図でもわかるんですけど、階層横断的というか、貧困の家庭に生まれた人は教育とかの影響で次の世代もまた貧困になるというような、悪い循環が起こっているような気がするんで、なんとか世代間とか階層間のダイナミックな移動というものを、番組としても主張して行きたいんですけども、なかなかそういった番組作りも難しいですし。また野心というか欲望をあらわにして、今の60代、70代のバリバリの経営者の方々のようなパワーを感じる若い人もなかなか少なくなっているから、難しいとは思うんです。

それともう一つ、「カンブリア宮殿」ではある一つのちょっとしたきっかけとか、誰かとの出会いとかが人生を大きく左右するんではなくて、地道というか身も蓋もない努力を、その人がいかに継続出来たかがその人の成功を呼んだっていう捉え方をしているので、それがまたテレビ的に言うと人気が無くて。本来は当たり前のことで、一個の出来事や一個の発見や一個の出会いが成功を生むわけはないんです。もともと、どの人もある一定の努力を長期間続けた結果、何かを手に入れたわけで。そこをこう、番組でなんとか伝えようと、僕らスタッフと共に努力しているんです。「努力の継続」という最も人気が無さそうな言葉がテーマなので、難しいとは思うんですけど、これからの若い人たちの為に番組を作るという意識は持ち続けていたいと思っています。

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