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バルセロナ追って届かず。もう10分試合時間があればという気もしたが、試合後、帰路につくファンたちは、悔しくて悔しくて仕方がないという様子ではなかった。昨シーズンの決勝で味わったお腹いっぱい感が、まだお腹のどこかに残っている。僕にはそう見えた。2連覇の難しさを思わずにはいられない。2シーズン連続ハングリーでいることの難しさを。

バルサのサッカーそのものも旬とは言い難かった。こちらの目に新鮮なモノとして飛び込んでこなかった。惜しくはあったが、映えるサッカーをしていたわけではない。小粒、パンチ力不足、迫力不足、決定力不足。美しさにも欠けた。昨夜見たバイエルンの方がよっぽど良いと、言いたくなる。

だからといって、逃げ切ったインテルに、賛辞を送る気も湧かない。監督のモウリーニョは、試合開始直前にメンバーを交代した。こちらに配られた資料とは異なるメンバー、異なる布陣が、ピッチの上に並んでいた。布陣は4バックから5バック同然の3バックに変更されていた。守りを固めて逃げ切ろうという作戦である。

で、インテルは、辛うじて逃げ切ったわけだが、この布陣の問題は、それで逃げ切れなかった場合だ。結果が残らなかった場合だ。だったら、最初からちゃんと戦えば良かったと後悔したくなる布陣だ。インテルは、ただ勝っただけ。決勝戦につながる勝利だったとは言い難い。前日、決勝進出を決めたバイエルンの方が印象度では断然上。

というわけで、各ブックメーカーの決勝予想を眺めてみれば、インテル若干有利が大勢を占めている。確かに、インテルには穴が見当たらない。キチンと戦えば、穴が少し見え隠れするバイエルンの方が、分が悪いのかも知れない。だが、サッカーの中身は逆。目に映えるサッカーをするのはバイエルンだ。この際、僕は「今回はバイエルンだ!」と言っておくことにしよう。

それにしても面白い決勝対決になったものだ。モウリーニョは96年、新監督に就任するボビー・ロブソンの通訳としてバルサにやってきた。ボビー・ロブソンはそれまでポルトの監督を務めていたので、そのつながりで一緒にやってきたわけだが、翌シーズン、ボビー・ロブソンが監督の座を解雇され、新監督にファンハールが就任しても、モウリーニョはバルサに留まることになった。で、気がつけば肩書きは、アシスタントコーチに変わっていた。

「あの通訳の若造、コーチになっちゃったよ」

バルセロナの記者たちは、唖然としながらも、そんなモウリーニョに特別、関心を寄せる様子はなかった。しかし、モウリーニョは、ポルト監督時代に行った僕のインタビューにこう答えている。

「バルサでコーチをした経験がいまに生きている。ポルトガルのサッカーに欠けていたものを持っていたのがファンハールで、彼の規律正しいサッカーこそ私が彼から学んだ最も重要な点だった。」

その時、モウリーニョは、明らかにファンハールを尊敬している様子だった。となると、ファンハールがその時、モウリーニョのことをどう思っていたのか訊ねてみたくなるが、それから13年後、当時の若造コーチとチャンピオンズリーグ決勝を争う間柄になるとは当時、夢にも思わなかっただろう。

この決勝戦はまさに師弟対決なのである。僕には、一度死んだかに見えたファンハールが、良いサッカーで復活してきたことが、ことのほか喜ばしく感じる。

これまで僕は16年連続でチャンピオンズリーグ決勝を観戦しているが、何を隠そう、最も印象に残るチャンピオンは、ファンハールに率いられた94〜95シーズンの覇者、アヤックスになる。ファンハールが勝つか、モウリーニョが勝つか。

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