イエメン相手に3−2? しかも、一時は0−2とリードされた? いったい、何をやっているのか──日本で結果を伝え聞いた人は、たぶんそんな思いを抱いたのではないだろうか。

 イエメンとはドイツW杯後に3度対戦してきたが、実は快勝と言えるゲームがひとつもない。06年8月の対戦は2−0で勝利したが、得点はいずれもCKがきっかけだった。流れのなかでは相手を崩し切れていなかった。付け加えれば、佐藤寿人の2点目は後半ロスタイムだ。1−0でもおかしくなかったのだ。

 同年9月のアウェイゲームも、決勝点は後半ロスタイムである。終盤は闘莉王を前線にあげたパワープレーに切り替え、ギリギリでスコアを動かした1−0の辛勝だった。

 熊本で行われた昨年1月の顔合わせも、1点差ゲームだった。シュート27本で2−1では、勝ち点3をつかんだとしても心象は良くない。

 今回は2点を先行される展開となった。序盤から守備陣がドタバタとしてしまい、パワフルなヘディングシュートで先制され、30メートル級のロングシュートで追加点を許す。ボール支配率が好機に結び付かない日本に対して、イエメンはトップ下やボランチのキープ力と展開力を支えにサイドバックも飛び出し、ショートカウンターを繰り出してきた。オーストラリア、イラン、韓国らを除くアジアで負けるなら、こういうパターンだろうという展開である。

 挽回のきっかけとなったのは、前半終了間際の平山のヘッドだ。山田直の負傷退場(斜め後方からの最悪なタックルだというのに、主審は警告すら出さなかった!)で巡ってきた出場機会を、平山は見事に生かしたのだった。

 実はもうひとつ、前半終了間際にビッグプレーがあった。前半ロスタイムの47分、相手の直接FKが壁に当たり、リバウンドがゴール前へ。デコボコなピッチの影響で不規則なバウンドをするボールは、ヘディングでクリアしようとした日本DFの頭上をふんわりと越え、ゴール前に詰めていた相手選手への絶妙なラストパスとなる。

 1−2に追いついたばかりである。再び2点差とされてハーフタイムを迎えたら、チームは深い落胆に包まれていただろう。

 ここで、GK権田が価値ある働きを見せる。至近距離からのボレーシュートに反応すると、彼が懸命にコースを変えたボールは、ポストに当たってゴールを逸れたのだった。

 キックオフ直後は、クロスの処理がひどく不安定だった。彼の動揺が最終ラインへ拡がり、試合の入り方が悪くなったとも考えられる。チームに落ち着きを与えるはずのGKが、マイナスの影響をもたらしてしまう──本人からすれば悔し過ぎる展開である。

 それだけに、前半終了間際のセーブは、チームはもちろん権田自身にも大きかっただろう。平山のハットトリックによる逆転勝利の陰には、同じFC東京所属の守護神の好守があったのだ。

戸塚啓コラム - サッカー日本代表を徹底解剖