浦和レッズのフィンケ監督が、17歳の原口元気をトップチームに定着させ、ユースには戻さないとの意向を示したという。浦和と言えば97年の開幕戦、ケッペル監督が当時18歳だった永井雄一郎と田畑昭宏を揃ってデビューさせたのを思い出す。
 
 こうして年功序列や固定概念に縛られず、フラットな視点を導入できることも外国から新監督を迎えるメリットの1つだ。かつて東京Vではアルディレス監督が中学生だった森本貴幸を躊躇なくトップに引き上げてきたが、要するに濃密なキャリアを持つ指導者ほど良い素材を見極める目が研ぎ澄まされている証左だろう。
 
 もっとも最近では日本の指導者の間でも、年齢に関係なく能力の高い選手を引き上げていこうという気運は着実に高まっており、昨年は京都で高1年代の宮吉拓実がプロデビューを果たし、今年もG大阪や東京Vなどで同年代の選手たちがトップ登録を果たす模様だ。
 もちろん闇雲に若い素材を引き上げれば良いとは限らないが、やはり大成する可能性を秘めた芽なら早く適切な刺激を与え、経験を積ませていくに越したことはない。
 
 新芽を順調に育てる土壌を整える。それは依然として日本サッカー界に横たわる大きな課題なのである。
 例えば、昨年度の高校サッカー界で、大迫勇也が図抜けた存在だったことは疑いない。だが裏返せば、この1年間、大迫が自分の能力に適したレベルでプレーをしてきたとは思えない。これほどの逸材が、U−19アジア選手権に出場せず、特別強化指定にも選ばれずに、あくまで鹿児島城西高校の一員として結果を追求してきた。
 
 もちろん大迫自身は、中学時代からの仲間たちと選手権制覇を目標に励んできたわけだから、それを最優先したい気持ちはわかる。だが特に日本に有能なストライカーが不足している現状を考えても、彼には高校に所属しながらJ2やJFLなど上のカテゴリーでプレーする機会を与えたり、そのための助言が出来る指導者を置いたりするなどの環境が欲しかった。
 
 また昨年のJリーグ序盤では、大竹洋平(FC東京)や河野広貴(東京V)らルーキーの活躍が目立ったが、なかなかフル出場のチャンスが掴み切れなかった。それでも彼らは1年間トップのベンチに入り続けたことで収穫もあっただろうが、反面クラブとしては将来を担う素材を、こうした起用でもベンチに置くのがベストなのか、しっかりと検証する必要がある。
 途中出場から徐々にプレー時間を増やして、の考え方もあるだろうが、場合によっては下部リーグに貸し出し、厳しいフルタイムの戦いを経験させた方が逞しく伸びるケースもある。
 
 大切に育てることと、丹念に時間をかけることとは必ずしも一致しない。むしろ能力のある素材ほど、大胆に難しいハードルを用意しておく必要がある。
 そしてそのための環境整備と、導く側の判断に齟齬(そご)を減らすこと、それが育成問題の肝になるはずである。(了)
 
加部究(かべ きわむ)
スポーツライター。ワールドカップは1986年大会から6大会連続して取材。近著に『サッカー移民』(双葉社刊)。