人間の脳に寄生する寄生虫の存在をハワイ保健局が旅行者に警告
by Punlop Anusonpornperm
寄生虫が人間の脳に感染するケースが増加しているとハワイ保健局が警告を発表しました。この寄生虫が人間に感染したという報告は過去10年で2件のみだったのですが、2017年には17件、2018年には10件、2019年には既に5件が確認されているとのこと。
Microsoft Word - 19-036 DOH_RLWD 2019 Case 4-5, 2018 Case 10 NR FINAL 052319.docx
Hawaii warns tourists of parasitic worm that can burrow into human brains | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/05/hawaii-warns-tourists-of-parasitic-worm-that-can-burrow-into-human-brains/
ハワイ保健局は2019年5月23日に、アメリカ本土からハワイにやってきた無関係の3人が、新たに寄生虫に感染したことを発表しました。この寄生虫は広東住血線虫と呼ばれるもので、国立感染症研究所によると、症状は以下の通り。
広東住血線虫症とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/encycropedia/392-encyclopedia/384-kanton-intro.html
2〜35日(平均16日)の潜伏期の後発症し、患者は微熱から中等度の発熱、激しい頭痛、 Brudzinski徴候、項部硬直、悪心、嘔吐、Kernig徴候、脳神経麻痺などを示し、さらに筋力の著しい低下、知覚異常、四肢の疼痛などを示すこ ともある。その他、複視、運動失調などを示す 場合があり、感染虫体数が多い重篤例では昏睡に陥ったり、死亡する場合もある。
広東住血線虫は「rat lungworm」とも呼ばれており、その名の通り、まずメスはrat(ネズミ)のlung(肺)に卵を産み付けます。その後生まれた幼虫はせきと共に消化器官に移動し、宿主に飲み込まれて、最終的にはふん便と共に排出されます。ふん便はそれをエサとするカタツムリやナメクジによって食べられるので、それらを介して再び広東住血線虫は移動していくわけです。感染したナメクジがネズミに食べられた時に寄生虫が成熟していなければ、出産を行えるようになるまで寄生虫はネズミの脳に向かいます。そして準備が整うと寄生虫は肺へと向かい、サイクルが繰り返されるという流れです。
人間が広東住血線虫に感染するのはまれで、主にサラダなどに誤ってついていたナメクジを食べてしまった時に起こります。近年の感染報告の増加について、保健局は「寄生虫を拾いやすいナメクジの増加」が関係しているものと見ているとのこと。
若い寄生虫が人間の脳に寄生したとしても、そこで生き延びて肺にまで到達できることも少数です。多くは中枢神経系のどこかで死に絶えるので、感染してもまったく無症状のまま終わることもありますが、脳を蛇行し死亡する寄生虫の動きによって頭痛や首のコリや痛み、微熱、吐き気、おう吐といった症状が出ることも。また神経がダメージをうけたりマヒや昏睡、最悪の場合は死に至ることもあります。
2018年にはナメクジを食べた男性が8年間の闘病のすえ死亡したことが報じられました。
ナメクジ食べて体が麻痺、8年闘病の男性が死亡。人間の脳に感染する「広東住血線虫症」とは? | ハフポスト
https://www.huffingtonpost.jp/2018/11/06/eating-slug_a_23581130/
日本では沖縄県の感染症例数が圧倒的に多く、2000年には全国初となる死亡例も確認されています。
触らないで! 「広東住血線虫」に注意 アフリカマイマイなどに寄生 豪でナメクジ食べ男性死亡 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-830841.html
この寄生虫を特定する血液検査はなく、感染を確認するのは非常に難しいことだとされています。ハワイ保健局は患者の脳脊髄といった組織から寄生虫のDNAの断片を採取することで症例を確認しているとのこと。しかし、感染が確認されても具体的な治療法は存在せず、抗寄生虫薬が感染症を解決するのに役立っているのかも不明であるため、保健当局は予防の重要さを呼びかけています。ハワイを訪れた人は農産物をしっかりと確認・洗浄し、密閉容器で保管することが推奨されています。