膨大な建設費がかかる新幹線。その整備方式のひとつとして「単線案」が浮上しました。長崎新幹線の未着工区間や四国新幹線を単線で整備して建設費を抑えようと考えられていますが、その実現には様々な課題があります。

建設費の削減案として浮上

 新幹線を「単線」で建設しようという構想が注目されています。現在の新幹線は、基本的に上り列車用と下り列車用の線路をそれぞれ1本設けた「複線」。これに対して単線整備案は、上下の列車が1本の線路を共同で使います。


単線の線路(奥)から線路が2本ある駅(手前)に進入する、北越急行ほくほく線の特急列車。最高速度は日本の在来線で最も速い160km/hだった(2008年5月、草町義和撮影)。

 新幹線の建設を求める声は日本の各地にありますが、最大の課題は建設費。現在工事が進む長崎新幹線の武雄温泉〜長崎間は約6197億円で、1kmあたりでは約94億円です。国や自治体の財政難が続くなか、そう簡単に建設できるものではありません。そこで浮上したのが、単線による新幹線の整備案。単純に考えると、単線は複線に比べて線路を敷くスペースが半分ほどで済みますから、用地買収費や土木工事費が減ります。

 国土交通省は2019年3月7日(木)、九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)に関する与党検討委員会で、未着工の新鳥栖〜武雄温泉間を単線で整備する案を説明。四国経済連合会の会長や四国各県の知事などで構成される四国新幹線整備促進期成会も、四国新幹線(大阪市〜高松市付近〜大分市)と四国横断新幹線(岡山市〜高知市)の早期着工につながるとして、「単線構想をシンポジウムなどで積極的に紹介」(2019年4月15日付け徳島新聞朝刊)しているといいます。

 しかし、新幹線の単線整備には、数多くの課題があります。

 単線では、上下の列車が走りながらすれ違うことができません。どちらか一方の列車を駅に停車させ、そのあいだにもう一方の列車が対向の線路を通り抜ける必要があります。本数が多いと駅に停車する回数と時間が増えるため、その分、所要時間も長くなるのです。これでは200km/h以上の高速運転が可能な新幹線の利点が十分に生かせません。

線路「半分」で建設費「半額」?

 単線の北越急行ほくほく線(新潟県)を、日本の在来線では最も速い160km/hで走っていた特急列車(2015年3月に運行終了)の場合、越後湯沢〜直江津間の所要時間(2013年4月時点のダイヤ)は45〜58分で、13分もの開きがありました。最も遅い58分の列車は、途中でふたつの駅に停車。このうちひとつは反対方向の特急と行き違うため、7分も停車していたのです。


在来線を改造して新幹線車両を走らせた秋田新幹線(2011年12月、恵 知仁撮影)。

 事故や災害が発生した場合も、複線に比べダイヤが乱れやすいといえます。上り列車が遅れて駅に到着した場合、その駅で行き違う下り列車は上り列車の到着を待たなければならず、下りも遅れるのです。

 また、建設費が大幅に安くなるとは限りません。国交省の試算によると、長崎新幹線 新鳥栖〜武雄温泉間の建設費は複線整備案が約6200億円なのに対し、単線整備案は約5400億円(2019年3月8日付け西日本新聞朝刊)。線路の数が半分になるから建設費も半額になるかのように思えますが、実際はそれほど安くなるわけではないのです。

 新幹線を安く建設しようという取り組みは、これまでにも、在来線を改造して新幹線車両を走らせる「ミニ新幹線」や、新幹線の路盤を部分的に造って在来線の特急を走らせる「スーパー特急」などがありました。しかし、通常の新幹線規格(フル規格)に比べて速度が遅いなどの課題があり、ミニ新幹線は山形新幹線と秋田新幹線が整備されただけにとどまっています。

 単線整備案をミニ新幹線やスーパー特急に代わる建設費の削減策とするためには、さまざまな課題をできるだけ解消できる施策もセットで検討を進める必要があるでしょう。

【写真】実は一部完成? 単線案がある四国新幹線


単線整備案が浮上している四国新幹線は、大阪市から四国を通って九州の大分市までを結ぶ。全線未着工だが、淡路島と四国とつなぐ大鳴門橋は新幹線用のスペースがすでに確保されていまる(2011年7月、草町義和撮影)。