照射事件で"異常行動"を続ける韓国の事情
■「北朝鮮からの亡命者の乗船」という話が出回る背景
韓国軍による火器管制レーダー照射事件について、最近こんな話を耳にした。
これまで韓国国防省は「北朝鮮漁船の救助活動をしていた。人道主義的な救助のための正常な作戦行動だった。照射はしていない」と説明していたが、実はこの北朝鮮の船、小さな漁船などではなく、北朝鮮からの亡命者が乗っている立派な船舶だった。亡命者は高い地位にある人物だった。
しかしなぜか、韓国は亡命を受け入れず、北朝鮮側に引き渡そうとしていたというのだ。そこに軍事情報を収集する日本の自衛隊のP1哨戒機が近づいてきた。それで焦った韓国海軍は火器管制レーダーを照射してロックオンしてしまったというのである。
亡命者を拒否する指示をしたのが、北朝鮮に擦り寄るあの文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領だという説と、文大統領に反発する韓国軍の幹部だという説の二説あるが、いずれも根拠に乏しい。
照射事件が起きたのは、昨年12月20日午後3時ごろの能登半島沖だった。密漁や密貿易をたくらむただの漁船なら分からないでもないが、北朝鮮からの亡命者を乗せた船舶だとしたら、なぜそんな船がその時間にそこにいたかという疑問は残る。
それにしてもこの話、地位のある北朝鮮からの亡命者の乗船という特別な事情があるからこそ、韓国側は無理な主張を繰り返してまで照射の事実を否定し続けているのか、と納得してしまう人も多いだろう。それだけ韓国の行動は異常なのである。
■確かにこの問題には北朝鮮が絡んでいる
ところで韓国の火器管制レーダーの照射事件について沙鴎一歩は昨年12月29日付で「照射事件をはぐらかす韓国は"敵性国家"か」という見出しの記事を書いている。
記事では「北朝鮮が絡んでいるのではないか」と指摘した。その部分を再掲してみよう。
「またしても北朝鮮である。これまで南北首脳会談で北朝鮮最高指導者の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と親しく握手を交わしてきた韓国の文大統領。今回の照射事件も根っこで北朝鮮が絡んでいる気がしてならない」
「文政権は支持率の最低に悩んでいる。沙鴎一歩の拙い想像だが、北朝鮮の漁船と日本の哨戒機をうまく組み合わせることで政治的なパフォーマンスを仕掛け、韓国国民の反日感情をあおり立てて支持率を上げようとたくらんでいるのかもしれない」
「それとも文政権に嫌気を起こした軍部が暴走したのだろうか」
「北朝鮮絡み」「北朝鮮と日本」「軍部の暴走」といったところを考え合わせていくと、「最近耳にした」として最初に書いた話との共通点が見えてくる。
さらに昨年12月29日付の記事では「北朝鮮にしても何かをたくらんでいると思う。日本は核・ミサイル問題で経済制裁を断行し、拉致被害者の救済を強く求める嫌な相手だ。韓国と結び付くことで経済制裁への打開策を見つけ出そうとしているとも考えられる」とも指摘した。
■外相会談ではいずれの問題も平行線のまま
照射事件や韓国人元徴用工の訴訟をめぐる問題で日韓関係が悪化するなか、河野太郎外相と韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相の二人が日本時間の1月23日夜、スイスのダボスで1時間に亘って会談した。しかしいずれの問題も平行線のまま解決の兆しさえ見えなかった。
会談の冒頭で河野氏が「日韓関係が非常に厳しい状況にあるからこそ、直接顔を合わせて会談することに意味がある」と語りかけても、康氏は「日本の海上自衛隊は1月18日以降、計3回の『威嚇飛行』を行った」と主張した。元徴用工訴訟の問題についても康氏は「日韓関係に未来志向的な発展の努力の妨げにならないよう知恵を出し合おう」と日本側の対応を求めた。
新聞各社は水と油のように同調することのない会談をきっかけに日韓関係悪化の現状を懸念する社説を書いている。
■「今回の言いがかりにも証拠に基づく反論を」
1月25日付の産経新聞の社説(主張)は「韓国の対日非難 制裁の検討もやむを得ぬ」と韓国に対してかなり厳しい見出しを付け、中盤でこう論じている。
「韓国の康京和外相は、河野太郎外相との会談冒頭、『威嚇飛行』について『大変閉口し、遺憾に思う』と切り出した」
「河野氏が反論したのは妥当だが、それだけでは十分ではない。レーダー照射について謝罪や再発防止を強く求めるべきだった。外交当局の本領を発揮するときであり、今回の言いがかりにも証拠に基づく反論をしてもらいたい」
「このままでは、通常の警戒監視活動にあたる自衛隊機と隊員が危険にさらされ続ける。それでも日本の安全保障に必要な警戒監視活動を控えることはできない。再発防止は急務だ」
さすが産経社説である。「威嚇飛行」と非難する韓国に対し、「謝罪」「言いがかり」「危険」などの言葉をためらうことなく使う。産経社説でなければ書けない主張である。
ただ産経社説が危険なのは、売り言葉に買い言葉でことさら韓国を反発させかねない。「北風と太陽」のイソップ寓話ではないが、威嚇すればするほど相手は頑なになるだけである。この辺りを産経新聞の論説委員の面々はどう考えているのだろうか。
■「威嚇であり、まるで敵国に対する態度」
産経社説は「韓国国防省が、海上自衛隊の哨戒機が東シナ海で韓国海軍艦艇に威嚇飛行をしたと非難し、再発すれば『軍の対応規則に従って強力に対応する』と警告してきた」と書き出している。
これは韓国軍合同参謀本部が23日、日本の哨戒機が同日午後2時3分ごろに東シナ海の暗礁の離於島(イオド)付近で、韓国軍の艦艇に高度60〜70メートル、距離540メートルの「接近威嚇飛行」を行ったと発表したことを指す。さらに韓国は1月18日と22日にも「威嚇飛行」があったと主張し、「明らかに挑発だ」と非難している。
産経社説は「防衛省は、海自機が国際法や国内法に従って適切な飛行をしていたと反論した」と書いたうえで、「韓国側が、『強力に対応する』と海自機への武力行使をちらつかせたことこそ威嚇であり、まるで敵国に対する態度である。到底容認できない」と主張する。
「武力行為をちらつかせる」「まるで敵に対する態度」には間違いないが、格調高くあるべき社説がそう書いてしまっては身も蓋もないだろう。ここはもう少し押さえた表現にしたい。
嫌韓だけでは前に進まない。外交は攻めたり引いたりすることが重要だ。身を切らせて骨を断つ技を使う必要がある。問題は安倍政権にその力があるかどうかである。
■韓国に好意的な朝日新聞でさえ毅然と批判
1月25日付の朝日新聞の社説は冒頭、こう訴える。
「国防の活動において最も肝要なのは冷静な思考である。この隣国間の不毛なあつれきを、ただちに収束させるべきだ」
「冷静な思考」が大切なことは言うまでもない。双方の関係が最悪の事態に陥る前に日本と韓国が冷静になることである。
続いて朝日社説は指摘する。
「日韓防衛当局間の摩擦が止まらない。海上自衛隊機へのレーダー照射問題に続き、今度は韓国側が新たな抗議を発表した。海自機が韓国の艦艇に繰り返し威嚇飛行をしたとしている」
「日本政府は否定しており、やはり双方の主張は食い違う」
そのうえでこう書く。
「その憂うべき事態のなかでも今回の韓国側の発表は、明らかに穏当さを欠いている。国防相が記者団の前で、海自機への実力行使までをも示唆したのは極めて不用意な発言である」
産経社説のような激しい口調はないものの、韓国に対して「妥当さを欠く」「不用意な発言」とまで批判する。朝日新聞は韓国に好意的な新聞である。その社説が毅然と批判する。それだけ日韓関係が悪化している。
■このまま日韓関係が悪化して喜ぶのは北朝鮮
朝日社説はその中盤で主張する。
「両防衛当局はこれまで、北朝鮮問題の緊張が高まるたびに、米軍と共に協力を深めてきた。2016年には、曲折の末に日韓の協力を明文化した軍事情報包括保護協定を結んだ」
「遅々としながらも前進してきた防衛協力を、無為に損ねてはならない。最近の朝鮮半島での緊張緩和を背景に、韓国側で万一、対日協力への関心が薄らいでいるとすれば、未来志向の信頼関係は築けまい」
このまま日韓関係が悪化して喜ぶのは、拉致問題や核・ミサイル開発で厳しい目を向けてくる日本を「なんとか潰したい」と願う北朝鮮だ。北朝鮮は韓国を取り組んで経済制裁を切り抜けようと、虎視眈々と狙っている。
韓国にはそこに気付いてもらいたい。韓国の文大統領に言いたい。「同じ民族だから」と無防備に北朝鮮に近づくのは止めた方がいい。これまで築き上げた日本との外交を根底に添えたうえで北朝鮮と和解して南北統一を実現すべきである。
■韓国は一国で北朝鮮を支えられるのか
韓国と北朝鮮との間には計り知れない深い溝がある。象徴的なのが経済格差だ。南北統一後に北朝鮮の国が一気に崩壊したとき、北朝鮮からの難民を韓国一国で受け入れられるだろうか。できまい。
しかもいまの韓国経済は好調だとは言えない。この先、どう経済を立て直していくか、韓国にとって大きな課題である。韓国は日本の協力がなければ、経済的に独り立ちできない北朝鮮を支えきれないだろう。
読者には申し訳ないが、はっきり言っていまのところ、日本と韓国の危機を乗り越えていく具体的方法について沙鴎一歩には良い知恵がない。ただ言えることは、冷却期間を置くことだ。ここまで関係が悪化しているだけに日本がいくら正論を振りかざしても韓国は敵意を持つだけだ。
人と人の関係でも、仲良かった者同士がけんかしてその仲が崩れたとき、仲直りするまでにはある程度の時間が必要だ。お互い頭の中が冷えれば、相手の意見や考え方を素直に受け入れることができる。
■冬季五輪・小平選手の「抱擁シーン」に解決策がある
日本と韓国。昨年2月の平昌(ピョンチャン)冬季五輪のスピードスケート女子500メートルで、金メダルを獲得した小平奈緒選手が、韓国の国民的英雄の李相花(イ・サンファ)選手を思いやり、彼女の肩を抱きかかえながらゆっくりと観衆の前を滑るシーンには感動させられた。
韓国のメディアの大半がこれまでの2人の友情を紹介しながらこの抱擁シーンを大きく報道していた。
外交とスポーツは違う。しかしともに人の行いであることに間違いない。要はその行動において相手をいかに認めるかだと思う。
あの氷上のシーンに日韓関係の悪化を解決するヒントが隠されている気がしてならない。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=EPA/時事通信フォト)