整備新幹線だけじゃない新幹線計画 北海道南回り、山陰、四国横断…実現可能性は?
日本の高速鉄道「新幹線」は全長約500kmの東海道新幹線が開業してから徐々に路線を伸ばし、いまでは北海道から九州までの縦断ネットワークを構成しています。しかし、現在営業中の路線以外にも工事中や計画中の新幹線があり、すべて完成すれば7000km超の高速鉄道ネットワークが構築されます。果たして実現の芽はあるのでしょうか。
残る新幹線計画の総延長は4000km超
世界初の本格的な高速鉄道といえる「新幹線」。その第1号となった東海道新幹線が1964(昭和39)年に開業して以来、日本の新幹線は徐々に伸びていきました。いまでは北は北海道から南は九州まで、全長2765kmに及ぶネットワークが構築されています。
2016年に一部開業した北海道新幹線。さらに新函館北斗〜札幌間の工事が続いている(2016年5月、草町義和撮影)。
しかし、新幹線の建設はまだ終わっていません。いまも建設が進められている新幹線や、構想段階の新幹線があります。国土交通省鉄道局監修『数字でみる鉄道2017』の「新幹線鉄道の一覧」によると、「営業線」「工事線」「整備計画線」「基本計画線」の4項目があり、このうち「営業線」を除く3項目の路線が現在工事中、もしくは計画中の新幹線。総延長は約4049kmに及びます。
「工事線」は現在工事が進む新幹線で、4線4区間688kmあります。全国新幹線鉄道整備法に基づき1973(昭和48)年に整備計画が決定した5線(いわゆる「整備新幹線」)のうち、北海道新幹線・新函館北斗〜札幌間と北陸新幹線・金沢〜敦賀間、九州新幹線(長崎ルート)・武雄温泉〜長崎間がこれに含まれます。このほか、超電導磁気浮上式のリニアモーターカーが導入される中央新幹線も東京(品川)〜名古屋間が工事中です。
「整備計画線」は整備計画が決定したものの、まだ工事に着手していない3線3区間331kmです。整備新幹線の未着工区間と中央新幹線の名古屋〜大阪間がこれに当てはまります。このうち九州新幹線(長崎ルート)の新鳥栖〜武雄温泉間はルートや設置駅がほぼ固まっていますが、北陸新幹線の敦賀〜大阪間と中央新幹線の名古屋〜大阪間は工事計画を立てられるほどの詳細なルートや設置駅がまだ決まっていません。
そして「基本計画線」は、1973(昭和48)年に基本計画(整備計画の前段階となる大まかな計画)が決まった11線11区間。その全長は現在の営業線を300km近く上回る約3030kmとされています。かつては中央新幹線も基本計画線でしたが、2011(平成23)年に整備計画が決まりました。
実は一部完成している四国の新幹線
基本計画線は、ここまで挙げてきた新幹線の補完ルートを構成する路線が中心です。工事は始まっておらず、本格的な検討も行われていません。
ただ、岡山と四国を結ぶ瀬戸大橋は、在来線と新幹線の両方を通せる構造で、四国横断新幹線をここに建設することが可能。淡路島と四国を結ぶ大鳴門橋も四国新幹線の建設に対応するため、新幹線を通せるスペースが設けられました。一方、本州〜淡路島間は明石海峡大橋が新幹線への対応を取りやめて道路専用橋として建設されたことから、明石海峡か紀淡海峡に海底トンネルを建設するための調査が行われたことがあります。
鳴門海峡をまたぐ大鳴門橋の新幹線用スペース(2011年7月、草町義和撮影)。
これらの路線がすべて完成すれば、実に約7030kmの全国新幹線ネットワークが出現。47都道府県中、少なくとも43都道府県には新幹線の駅が設けられるはずです。多くの地域で移動時間が大幅に短くなるでしょう。
それだけではありません。複数の新幹線ルートが構築されることで、災害時の迂回(うかい)輸送にも対応しやすくなります。たとえば中国地方で大規模な災害が発生して山陽新幹線が不通になっても、四国新幹線を使えば関西から九州まで移動できます。
しかし、さすがにこれだけの規模になると、当然ながら建設費の問題がつきまといます。そう簡単に実現できるものではありません。
各線が通る地域の地価や地質などに左右されるため一概にはいえませんが、整備新幹線のうち初めて開業した北陸新幹線・高崎〜長野間の場合、1kmあたり約70億円かかっています。これをそのまま基本計画線に当てはめると、すべて完成させるために必要な費用は約21兆2100億円。国の2016年度予算(当初)が96兆7218億円でしたから、その5分の1弱をつぎこまなければなりません。
また、これらの建設中、計画中の新幹線は必ずしも人口の多い地域を通っているわけではありません。仮に建設費をすべて税金で賄ったとしても、完成後の経営は厳しくなることが考えられます。実際に新幹線を運営するJR旅客各社としても、そう簡単には手を出せないのです。
整備新幹線の「次」が見えない理由
こうしたことから整備新幹線では、国と沿線の自治体、JRが建設費を分担する方式を採用。JRは利益が出る範囲で線路の使用料を負担し、それでも足りない分は国が3分の2、沿線の自治体が3分の1をそれぞれ負担することになっています。また、新幹線に並行する在来線は基本的にはJRから分離することになっていて、JRが新幹線を運営することで赤字になってしまわないよう配慮されています。
中央新幹線の建設費はJR東海が全額自己負担する。写真は中央新幹線の一部になる山梨リニア実験線(2017年11月、草町義和撮影)。
なお、中央新幹線は運営するJR東海が全額自己負担する計画で、並行在来線の経営分離も考えられていません。これは利用者がひじょうに多くて輸送能力が不足気味になっている東海道新幹線を補完するもの。東海道新幹線の多大な運賃収入が背景にあるため、国や自治体の負担がなくても着工できたといえます。
しかし、実際の建設費は最初の計画通りにはいかないことが多く、建設期間が長くなればなるほど、そのときどきの経済情勢などに左右されがちです。とくに最近は人件費が高くなっていることや、東日本大震災を受けて改定された耐震基準への対応などもあり、新幹線の建設費が高騰しています。
このため政府は整備新幹線の建設費について「JR各社に追加の費用負担を求める調整に入った」(2018年10月19日の朝日新聞)といいますが、JRにしてみれば経営に大きな影響がありますし、調整は難航するでしょう。かといって国や自治体も財政に余裕があるわけではありません。
整備新幹線の建設が進んだことから、最近では基本計画線の沿線自治体から「整備新幹線の『次』はこちら」と、建設を求める声が出るようになりました。しかし、すでに着工している整備新幹線ですら建設費の調達に苦労している状況ですから、国の財政や経済情勢がよほどよくならない限り、近い将来に着工できる可能性はないでしょう。仮に着工のめどがたったとしても、並行在来線の経営分離をどうするかなどの問題を解決していかなければなりません。
建設中と計画中の新幹線一覧
かつて新幹線は「夢の超特急」と呼ばれていましたが、「夢の基本計画線」が実現する日は、いつか来るのでしょうか。
工事中の新幹線(工事線)
・北海道新幹線 新函館北斗〜札幌 211km ※2030年度末開業予定
・北陸新幹線 金沢〜敦賀 125km ※2022年度末開業予定
・中央新幹線 品川〜名古屋 286km ※2027年開業予定
・九州新幹線(長崎ルート) 武雄温泉〜長崎 66km ※2022年度中開業予定
未着工の新幹線(整備計画線)
・北陸新幹線 敦賀〜大阪 128km
・中央新幹線 名古屋〜大阪 152km
・九州新幹線(長崎ルート) 新鳥栖〜武雄温泉 51km
未着工の新幹線(基本計画線)
・北海道新幹線 札幌〜旭川 約130km
・北海道南回り新幹線 長万部〜札幌 約180km
・羽越新幹線 富山〜青森 約560km(北陸、上越新幹線との共用区間を除く)
・奥羽新幹線 福島〜秋田 約270km
・北陸・中京新幹線 敦賀〜名古屋 約50km(距離は『数字でみる鉄道2017』による。国土地理院の地図を使った計測では直線で約90km)
・山陰新幹線 大阪〜下関 約550km
・中国横断新幹線 岡山〜松江 約150km(山陰新幹線との共用区間を除く)
・四国新幹線 大阪〜大分 約480km
・四国横断新幹線 岡山〜高知 約150km
・東九州新幹線 福岡〜鹿児島 約390km
・九州横断新幹線 大分〜熊本 約120km
【地図】計画中の新幹線ネットワーク
現在計画中の新幹線。営業中の路線も含めた総延長は7000kmを超える(草町義和作図)。